- 『教材発掘の基礎技術』復刻版に寄せて
- まえがき
- 1章 教材開発に必要な基礎技術
- 1 逆思考の訓練をせよ―思考のパターン化を防ぐために
- (1)逆思考のおもしろさを知れ
- (2)習慣の恐ろしさを知れ
- (3)タテマエ主義を克服せよ
- (4)取材で「常識」をこわせ
- 2 常に複数のテーマを追究せよ―怠け者にならないために
- (1)いろいろなことに好奇心をもて
- (2)常に問題意識をもて
- (3)常にメモ用紙をもて
- 3 現地主義をつらぬけ―禁断の木の実を食べるために
- (1)現地主義者になれ
- (2)現地では何でも見よ
- (3)出張や旅行を取材のチャンスにせよ
- 4 本や新聞の読み方を工夫せよ―正確な情報をたくさん入手するために
- (1)手あたりしだいに本を読め
- (2)鉛筆をもって新聞を読め
- 5 一人の子どもを思い浮かべよ―一人ひとりの子どもを伸ばすために
- (1)子どもの事実をさぐり続けよ
- (2)一人の子どもを熱中させるネタを考えよ
- (3)一人の子どもの動きを追え
- 6 見る目とセンスをみがけ―一つのものが多様に見える目をもつために
- (1)一枚の絵を継続的に追究せよ
- (2)先入観を取り去って見よ
- (3)「茶わん」から都市が見える目をつくれ
- 7 すべてのものを「師」にせよ―幅広い見方考え方を身につけるために
- (1)人にたずねることを恥じるな
- (2)独学をせよ
- 2章 教材開発のノウハウ
- 1 子どもを熱中させる「ネタ」研究―授業研究に欠けているもの
- (1)子どもの能力にあった教材研究をしているか
- (2)授業に「ネタ」があるか
- (3)何で勝負するか
- (4)子ども研究の不足
- 2 授業に生きるネタ開発のポイント―子どもが追究するネタをさぐる
- (1)どんなネタで子どもは動くか
- (2)ネタを分類してみると
- (3)子どもにネタ開発を仕かける方法
- (4)材料・道具・教具もネタに
- (5)おもしろい教材教具の活用法
- 3 子どもの中の教材を創りかえる―子どものくらしの中からネタを発掘する
- (1)子どもの中の教材をさぐる
- (2)授業のネタを考える
- (3)授業のネタづくり
- (4)授業のネタはどこまで生きるか
- 4 地理学習・こんな教材が子どもの目を開く―社会に目を開く教材には発展性がある
- (1)「飛び地」の教材化
- (2)「飛び地」は各地にある
- 5 時代順の歴史学習を疑う―歴史教材の見方が変わる
- (1)「体系的な歴史」は存在するか
- (2)歴史学習の「時代順主義」からの脱却
- (3)小学校ではおもしろい問題史を
- (4)ヒントから教材化まで
- (5)二つの教材研究の必要性
- 6 ニュースをネタにしあげる―新しい社会の動きを見る目を養うために
- (1)「三割自治」の実例
- (2)日本の原子力発電は大丈夫か
- 3章 子どもが熱中する教材の発掘例
- 1 教材をクイズにまとめる―クイズ形式で意欲化をはかる
- (1)クイズ授業ゼミナール
- (2)クイズは文の読みとりにも使える
- 4章 こんな素材をネタにしたい
- (1)一日の生活に使う品物数はどのくらい?
- (2)江戸時代二六五年間に三〇人も城主がかわった藩
- (3)百姓一揆は生活が苦しいからおこしたのか?
- (4)小さな資料を大きなネタに
『教材発掘の基礎技術』復刻版に寄せて
有田学の神髄を学べる本の復刻に感謝!
山口県下関市立勝山小学校 /福山 憲市
『教材発掘の基礎技術』は常に机の上に置いてあります。二六歳の時に出会って以来、五五歳になる今まで、少なくとも三〇〇回は読み直している本です。
日々の授業の教材研究・教材開発に悩んだ時には、必ずこの本を開くようにしているのです。開くたびに、有田先生から直接声をかけていただいた言葉が、次々と頭に浮かんできます。
三〇代初めに、有田先生を下関にお呼びし、二日間一緒に教材研究・教材開発などについて語り合うことができたのです。特に一日目は、有田先生とサークルの仲間数名とで《下関の教材開発》をするために下関巡りをしました。赤間神宮・日清講和記念館・乃木神社・東行庵・火の山など多くの場所を訪れました。訪れた先で、『教材発掘の基礎技術』に書かれている姿を生で見せてくださいました。
「福山先生、これは面白いねえ」
「福山先生、これ教材になりますよ。このネタを授業にかけると、面白い授業になりますねえ」
子どものように目を輝かせ、行く先々で写真を撮られたりメモをされたりする姿が、今でも頭に浮かびます。教材発掘をする姿を見せてくださっただけでなく、教材研究や教材開発の視点についてその場でたくさんアドバイスをしてくださいました。
「福山先生、この景色から何が見えますか。たった一つの景色からでも、たくさんのネタを見つけることが出来ますよ」
正に、先の有田先生の本に書かれていた「見る目とセンスを磨け」です。本を読んでいただけでは強く意識されていなかったことが、ぐっと自分の中に入ってくるのが分かりました。目の前で、率先垂範の有田先生のお姿を見ただけに、言葉を深く感じることができたのだと思います。
この下関巡りの後、教えていただいた視点を七つにまとめ、『教材発掘の基礎技術』を今一度丁寧に読み直すことに没頭しました。
ちなみに、視点一は《複数好奇心》です。
有田先生はよく言われます。「どんな物を見ても面白い」と。「常に問題意識を持って物を見るといいですよ」とも言われます。簡単なようですが、実に難しいです。いつも面白いと思えるほど、しっかりと問題意識を持っていない自分に何度も出会いました。
そんな時、有田先生が発掘されたネタを読むと、本当に面白いのです。例えば、この本に書かれている「五種類の割箸」のネタにはまってしまい、割箸にこだわり始めると、割箸一つからいろんな疑問を持つようになりました。
それ以来、複数好奇心を磨くために、まずは、有田先生がこの本に書いておられるネタ一つひとつを自分なりに追ってみようと思いました。有田先生の発掘されたネタを通して、自分の好奇心の芽を伸ばすことからスタートしたのです。それを三〇年近く続けていると、いろいろな物に問題意識を少しは持てるようになっている自分に気が付きました。
残りの六つの視点は、次のようなものです。
《多様に見える目》《全てのものが師》《現地主義》《子どもを熱中させるネタ》《子どものくらしの中のネタ》《授業に生きるネタ》です。これらの視点を見てお分かりのように、有田先生の言葉の中には何度も「子ども」というのが出てきます。
「福山先生、子どもの事実をしっかりとらえてくださいよ」「子ども達の実態にあっていますか」「一人の子どもの動きをしっかりと見てくださいね」「子どもの能力にあっていますか」
お会いするたびに、言われていた言葉です。『教材発掘の基礎技術』の中にも「子ども」という言葉が何度も出てきます。ところが、有田先生から声をかけていただくまでは、さらっと読み飛ばしていました。自分は意識しているから大丈夫と勝手に思って、深く読んでいなかったのです。
ところが、有田先生の言葉をお聞きし、有田先生が発掘されたネタを《子ども》《動く》《熱中》《追究》というフィルターを通して今一度読み直すと、いかに自分が「ネタ開発」だけに力を入れていたかが分かるようになりました。まずは、子どもありき。子どもを知る。子どもの事実・実態をしっかりと見る。『教材発掘の基礎技術』と同時並行で、常に「子ども研究」をするようになったのです。
こんな自分の教師人生を大きく変えた本が復刻されると聞き、多くの先生方に手にしていただきたいと強く思います。何度も何度も読んでいただき、日々の教材研究・教材開発のヒントを得て、多くの子ども達の学びを楽しむ目を輝かせてほしいなあと思います。
自分もまた、目の前の子ども達のために、まだまだこの本を読み込み、ネタ開発や授業づくりに励みたいと思います。亡き有田先生の姿を常に思い浮かべながら……。
二〇一五年五月二日
アクティブラーニングの根本は有田理論と一致するところがある。
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