- はじめに
- 第1章 部活動は学校の教育活動なの?~若手教員・たかし先生の悩み~
- 1. 運動部活動って学校の教育活動?
- 2. 運動部活動は『道徳教育』の場である!?
- 3. 運動部活動は『競争』を経験する場である!?
- 4. 運動部活動は『体力を高める』場である!?
- 5. 学習指導要領を見てみよう!
- 6. 教職員組合の先生にも聞いてみた!
- 7. たかし先生の悩みを解決するには
- 8. なぜ,学校で運動部活動を実施するのか?
- 9. 教師が結社に関わる理由
- 10. 学校が関わる「結社」と学校と地域で関わる「結社」
- 11. 教師として,どのように関わる必要があるのか?
- 第2章 運動部活動の「自治」を3つの積木で考えよう!
- 1. 3つの積木で成り立つスポーツ活動
- 2. 3つの積木を組み立てられるスポーツの主人公に向けて
- 3. 「自治」はスポーツクラブの栄養素
- 4. 体罰はスポーツとクラブを破壊する!
- 5. 「自ら治まる」から「自らが治める」へ
- 6. 運動部活動の「自治内容」の考え方
- ①練習・試合
- ②組織・集団
- ③場・環境
- 第3章 運動部活動具体的な指導のポイント
- 1. 運動部活動で「みんな」を追求する3つの理由
- 2. 運動部活動で「みんな」を追求する方法
- 3. 子どもの未熟な意思決定は「成長の伸びしろ」である
- 4. 「自治」指導のキーワード=これは誰が決めることか?
- 第4章 自治による部づくりの扉を開こう!
- 1. どんな部にしたいのか?~部の方針を決める~
- 2. 年間計画(学期計画)を決めよう!
- 3. 原案を作成する組織をつくろう!
- 4. 係のリーダーを決めよう!
- 5. 2人のキャプテンを決めよう!
- 6. 決定事項は必ず記録!
- 7. 練習計画を決めよう~教科書を持って運動部活動に出よう!~
- 8. 保健体育の先生の協力を得よう!
- 9. 「運動部カースト」をぶっ壊せ!
- 10. 外部指導者を活用しよう!
- 第5章 「自治」による部運営の振り返り~「自治」の扉の閉め方~
- 1. 振り返るための基本的な観点
- 2. 「自治」からの振り返り
- 3. 競技成績からの振り返り
- 4. 上級生による振り返り~来年度の運動部員に向けた「置き土産」~
- 5. 「負の連鎖」から「自治の連鎖」へ
- 第6章 「自治」をさらに成熟させるためのアイディア
- 1. 行事が「自治」を鍛える!
- 2. 教科外活動・生活指導と関連づけた指導
- 3. 場・環境に働きかける経験をさせる!
- 4. 規約をつくろう!
- 5. クラブ通信で「自治」を励まそう!
- 6. 運動部活動の教材研究
- 7. 21世紀型生活体育論の構築~鍵は「クラブ」単元にある~
- 第7章 教師は部活動をやめることができる!?
- 1. 「自治」指導の扉は全ての教師に開かれている
- 2. 「自治」を経験できるのであれば種目は何でも良い!
- 3. たかし先生が野球部をやめられない理由
- 4. 実力行使という選択肢の問題
- 5. 民間委託という選択肢の問題
- 6. たかし先生がやめなくて得をしているのは誰か?
- 第8章 生徒が自分たちで強くなる!運動部活動指導のチェックリスト
- 運動部活動の目標論/教育内容論/指導方法論/実践論・評価論
- 第9章 運動部活動の指導案~見通しを持つための7つのSTEP~
- おわりに
- 引用・参考文献
はじめに
この本は,学校の運動部活動を,「自治集団活動」として指導する方法について記しました。簡単に言えば,タイトルにも示したように「生徒が自分たちで強くなる」ことを,とりわけ重視しています。スポーツ活動において生じる一つ一つの課題を,自分たちで議論し,解決に向けた方針を定め,実際に解決していくのです。そんなことが可能なのかと思われるかもしれませんが,運動部活動は,そのように指導していく必然性があります。そのことを,スポーツとクラブの語源に立ち返って考えてみましょう。
運動部活動で行われている「スポーツ」の語源をさかのぼると,気晴らし,気分転換,遊びといった意味にたどり着きます。言うまでも無く,遊びや気分転換は,人から強制されてやるものではなく,自分たちで行っていくものです。
そして,運動部活動は,社会に存在する様々なクラブ活動の一つでもあります。「クラブ」の語源にも,社交(人々の集まり),お金を自分たちで出し合うこと,あるいは規則に基づいて運営される集団といった意味があります。つまり,自分たちで集まって運営していくのがクラブなのです。
このように考えると,運動部活動に「自治」を求める理由は明らかでしょう。「自治」の無い運動部活動は,スポーツでもクラブでもないのです。その最たる例が,これまでの運動部活動指導で問題にされてきた「体罰」でしょう。教師が先頭に立って,殴って,脅して,生徒を動かす……。そこには「自治」という視点が無いため,スポーツやクラブの指導とは言えません。厳しい言い方をすれば,そのような指導を行っている教師は,運動部活動から「自治」を奪い,スポーツやクラブを破壊しているのです。
運動部活動というスポーツやクラブを指導する場で,スポーツやクラブを破壊してしまう……。何という矛盾でしょうか。運動部活動における体罰を無くしていくということは,このような矛盾を直視して,本来の意味でのスポーツやクラブの指導に戻していくこと,すなわち運動部活動に「自治」を求めることなのです。
昨今の社会状況は,それを求めています。スポーツに関わるトピックとしては,2020年に東京オリンピックの開催が決定したことが挙げられます。オリンピックでは,諸外国からアスリート,マスコミ,そしてスポーツ愛好者が集います。その際には,トップレベルのスポーツだけでなく,運動部活動や地域スポーツ活動など,市民レベルのスポーツやクラブの成熟度も見られることになるでしょう。「自治」に基づくスポーツやクラブが成熟しているのか,体罰や暴言に基づく,本来の意味とはかけ離れたスポーツやクラブが継承されているのかが問われるのです。
さらには,学校教育として無視できないトピックもあります。公職選挙法が改正され,選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられました。国の「自治」に関わることのできる年齢が引き下げられたのですから,学校教育としては,その時までに「自治」を十分に経験させ,意思決定できるような社会の主人公を育てる必要があります。運動部活動における「自治」も,そのような社会の主人公の形成と関わるのです。
これから紹介していくように,運動部活動には「自治」を経験させる場面がたくさんあります。顧問などで関わることになった先生には,それらの場面を見過ごさずに,子どもとともに運営していくセンスが求められています。運動部活動の指導というと,各競技種目の専門性に意識が向きがちですが,それと同等,あるいは,それ以上に「自治」のセンスが問われるのです。
「自治」という窓から運動部活動の指導を眺めると,どのような景色が見えるでしょうか。これから,本書で眺めてみましょう。
/神谷 拓
〈付記〉
本書は,科学研究費補助金・基盤研究(C)「地域スポーツクラブの教材化―体罰の克服に向けたスポーツ教育学的アプローチ―」(課題番号15K01546,研究代表者:神谷拓)における研究成果の一部である。
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- 明治図書
- とても分かりやすく、教員になるための参考になりました。2022/6/2こう