- はじめに
- ―子どもの興味と主体性を引き出す教科学習で大切なこと―
- 1 感じる・考える・伝え合う国語科の授業づくり
- (1) 国語科の授業づくりのポイント
- (2) 国語科のアセスメント
- (3) 国語科の授業づくりの実際
- 1 小学部[聞く・話す 読む]
- ももたろうのぼうけん―身の回りの言葉―
- 2 小学部[聞く・話す]
- おはなしをつくろう―助詞・簡単な文章―
- 3 小学部[読む]
- 海―漢字・表現―
- 4 中学部[聞く・話す 読む 書く]
- おすすめメニューのチラシをつくろう
- 5 中学部[聞く・話す 読む 書く]
- 茨城県の魅力を伝えよう
- 6 中学部[聞く・話す 読む 書く]
- 記者になってレポートしよう
- 7 高等部[聞く・話す 読む 書く]
- 詩人になろう―感じる・表現する―
- 8 高等部[聞く・話す]
- ファッションコーディネートをしよう―聞いて選ぶ―
- 9 高等部[聞く・話す]
- 話し方名人になろう―わかりやすく相手に伝える―
- 10 高等部[聞く・話す]
- ハンバーガーショップに行こう―楽しくやりとりしよう―
- 2 感じる・考える・伝え合う算数科の授業づくり
- (1) 算数科の授業づくりのポイント
- (2) 算数(数学)科のアセスメント
- (3) 算数科の授業づくりの実際
- 1 小学部[数と計算 量と測定 図形]
- バスをはしらせよう―1対1対応―
- 2 小学部[数と計算]
- なんにんのれるかな―計数・集合数―
- 3 小学部[数と計算]
- お祭りにいこう―10までの数・たし算―
- 4 中学部[数と計算 量と測定 図形]
- 買い物をしよう―金銭・概数―
- 5 中学部[数と計算 量と測定 図形]
- たし算すごろくをしよう―加法―
- 6 中学部[量と測定]
- 旅行の計画をしよう―時刻・時間―
- 7 高等部[数と計算]
- 合わせてみよう・増やしてみよう―加法―
- 8 高等部[量と測定]
- スライムをプレゼントしよう―びったり量る―
- 9 高等部[図形]
- メッセージカードをつくろう―上・真ん中・下の位置―
- 3 生活科(社会科・理科)の授業づくり
- (1) 生活科(社会科・理科)の授業づくりのポイント
- (2) 生活科(社会科・理科)の授業づくりの実際
- 1 小学部 生活科
- ふしぎをかんじよう
- 2 中学部 社会科
- いろいろな地域を調べてみよう
- 4 音楽科・図画工作(美術)科・体育(保健体育)科の授業づくり
- (1) 音楽科の授業づくりのポイント
- (2) 音楽科の授業づくりの実際
- 小学部/楽しくひょうげんしよう―おおきなたいこ―
- (3) 図画工作(美術)科の授業づくりのポイント
- (4) 図画工作(美術)科の授業づくりの実際 高等部/写真を撮ろう
- (5) 体育(保健体育)科の授業づくりのポイント
- (6) 体育(保健体育)科の授業づくりの実際
- 1 小学部[体育科]
- ボールランドに行こう―水族館の仲間たち―
- 2 小学部[体育科]
- ねらえ!とばせ!ボールで運動会
- 3 中学部[保健体育科]
- 附属ボールをしよう
- 4 高等部[保健体育科]
- 球技大会をしよう―第1回フットベースボール大会―
- 5 ICTを活用した教科学習の指導事例
- (1) ICTを教科学習に取り入れるポイント
- (2) ICTを授業づくりのツールとして活用する
- 中学部/読字や書字が困難な生徒への国語でのタブレット活用
- 中学部/書字が困難な生徒がノート筆記の代わりに写真を撮る
- 高等部/発語がない生徒のコミュニケーションツール
- (3) ICTを授業の振り返りに活用する
- 小学部/体育の授業の振り返りに活用する
- (4) ICTを即時フィードバックに活用する
- 小学部/ダンス練習でのタブレット活用―2台同時に使用する―
- おわりに
- 執筆者・担当一覧
はじめに
―子どもの興味と主体性を引き出す教科学習で大切なこと―
はじめて特別支援学級の担任になったけれど,どのように教科学習をしたらよいかわからない。特別支援学校で子どもたちと楽しく授業をしたいのだけれど,教材や授業展開のコツを知りたい。本書はこうした先生方の悩みや疑問に応えるべく編集されたものです。
日本の子どもの数が減少している中で,ここ数年,特別支援学級や特別支援学校の児童生徒数は右肩あがりに増えています。こうした中で,新しく特別支援教育を担当する先生も増えています。もちろん,新しく特別支援教育に携わる先生方がまず,はじめに学ぶべきは,近くにいる同僚(ベテラン)の先生の実践です。こうしたベテランの先生方が身につけている授業づくりのコツのようなものは,とても奥深く,数か月,近くで実践を観察するだけで理解できるものではなく,また,いくつかの専門書を読むだけですぐに実践できるようになるというものでもありません。
ただし,こうしたベテランの先生方が実践している楽しい授業づくりにはある一定の「型」のようなものがあるのも事実です。授業が上手い先生は,的確に子どもの状態を捉え,学習課題を選定し,学習課題と子どもの興味を重ね合わせ,子どもたちが教材の世界にのめり込むように授業を展開していることでしょう。
こうした授業づくりの「型」は,最初のうちは「真似をする」ことから始め,いずれ自分のものにしていく中で崩していくことが必要であると考えられています。そして,こうしたその人なりの「型」は暗黙知と呼ばれ,身体に染みついたものなので,容易に他人に言葉で伝えることが難しいものであるともいわれています。
本書は,以上のようなベテラン教師が暗黙のうちに実践している教科学習の「型」をできる限り表面に出し,授業づくりの工夫について紹介しようと試みるものです。
本書を貫く「型」をひと言で述べるならば,それは「感じる・考える・伝え合う」ということを大切にした授業づくりが大切であるということです。今後,言語活動やアクティブ・ラーニングを充実させることが求められる中で,この点を意識した授業づくりが特別支援教育においても重要になると考えます。こうした授業づくりのプロセス(型)を整理すると,次のようになります。
(1) 発達をふまえた学習課題を見つける
特別支援学校に在籍する知的障害のある子どもの中には,知的発達年齢が6歳を超えていない児童生徒も多くいます。そのため,「教科書」を用いて授業を進めていくことも難しい場合が多いのが実情です。ただし,小学校1年生の教科学習につながる道筋(発達過程)は知的障害のある子どもであっても共通していることは多くあり,それを意識しながら授業づくりをしていくことが大切です。
たとえば,幼稚園児にかけ算の問題を出す人はいないでしょう。それは,「まだ学習していないから」という理由ではなく,「その問題は発達的に難しいから」だと考えます。教科学習とは,人間が蓄積してきた文化(的遺産)を子どもの発達に即して配列したものであると定義されますが,教科学習を行う場合には,子どもの発達の状況をしっかり捉えて適切な学習課題を設定することが大切です。特に国語や算数などの認識発達を促進していくことをねらいとした教科学習では,学習内容の系統性はとても重要です。
(2) 感じる・考える・伝え合う授業づくりを!
子どもの発達の状況を正確に把握し,適切な学習課題を設定できたら,次は楽しい授業づくりを心がけましょう。
ここで大切にしたいことは,「感じる」からスタートする授業づくりです。たとえば,「多い-少ない」という算数の認識力を育てる授業でも,まずは両手に持てないくらいの物を持つ経験をして,「これが『いっぱい』かぁ…」と感じることや,「さっきのよりは『少なめ』だったかなぁ…」と感じることが大切です。こうした「感じる」ということを学習の中でたくさん取り上げることで,抽象的思考が苦手とされる知的障害児でも教科内容を理解することができるようになるのです。
近年では,「感じる・考える」学習のあとに「伝え合うこと」(あるいは表現活動・言語活動)が重要であると考えられるようになってきました。これは,頭の中で理解したことをそのままにせず,その子どもにとって価値のある表現へと高めていくことで,理解した内容が生活の中で応用できたり,活用できたりすることが重要だと考えられるようになったからです。
もちろん,知的障害のある子どもにとっては学習した内容を「言語」で表現することは難しいかもしれません。しかし,算数の時間にたくさん集めてきたものを先生に見せて,「いっぱいあるよ!」という表情を見せるだけでも立派な表現活動だと考えられます。こうした表現も含めて,言語活動(算数的活動)として広く捉えれば,重度知的障害のある子どもでも「伝え合う」授業は可能です。
(3) アセスメント(指導課題の明確化)から学習活動(言語活動)までの流れをつくる
以上のように,教科学習には,「発達をふまえ学習課題を選定する」という側面と,楽しく学習するための活動を考えるという側面の2つがあります。特に,国語や算数のような認識発達が大きく影響する教科学習では,子どもが今,どのくらいの認識能力であるのかをアセスメントすることが大切です。本書でも,こうした理由から,国語・算数の授業づくりでは,アセスメントに基づき,大まかにどのくらいの発達の状況であるのかを把握することから始まります。
しかし,アセスメントをして指導課題を明確にすることができても,それがそのまま学習活動とはなりません。たとえば,「1語で話ができる」という発達の子どもに対して,「2語文を理解し,話せるようにする」という指導課題を設定したとしても,ひたすら2語文を言わせるだけの授業になってしまったら,楽しいと感じる学習にはなりません。
そこで,「2語文で話す」という学習課題が子どもの身近な生活や文化の中でどのように関係しているのかを見極め,教材化することが教師には求められます。たとえば,「おままごと」のようなごっこ遊びであれば,「ごはんちょうだい」「お皿を取って」など,文脈の中で「2語」を使う場面をたくさん用意することができると思います。
このように,学習課題はアセスメントから導き出し,学習活動(あるいは教材)は子どもの興味から考えるということが「感じる・考える・伝え合う」教科学習の型であるといえます。本書では,こうした授業づくりの「型」を,さまざまな領域・教科等を取り上げて紹介するものです。本書を通して,楽しい授業を展開している教師が子どもをどのように理解し,どのようなアイデアを出しているのかを感じ取ってもらえたら幸いです。
/新井 英靖
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- 明治図書
- 発達段階から教科の学習を組み立てるために、アセスメントが出されとおり、使いやすい。2016/1/3040代・男性