- はじめに
- 序章 なぜ、学校で「カウンセリング」なのか
- カウンセリングで子どもが育つ
- カウンセリングの目的は人格の成長
- 先の見えない時代の教育カウンセリング
- 1章 カウンセリングの基本的な技術
- カウンセリングの考え方
- カウンセリング・マインド
- 言語的技法
- 言語的技法@ つながる言葉かけ
- 言語的技法A 支持
- 言語的技法B 応答
- 言語的技法C 明確化
- 言語的技法D 要約
- 言語的技法E 傾聴
- 言語的技法F 受容
- 言語的技法G 繰り返し
- 言語的技法H 感情の伝え返し
- 言語的技法I 質問
- 言語的技法J 問題の焦点化
- 言語的技法K 自己解決を促す
- 非言語的技法
- 非言語的技法@ 視線
- 非言語的技法A 姿勢
- 非言語的技法B 表情
- 非言語的技法C うなずき、沈黙
- 非言語的技法D 声のトーン、強弱
- 非言語的技法E 呼吸合わせ
- ワンネス、ウイネス、アイネス
- ジョハリの窓
- 2章 カウンセリング技術を生かしたアプローチ
- 精神分析
- 来談者中心療法
- ゲシュタルト療法
- フォーカシング
- 認知療法・認知行動療法
- 解決志向アプローチ
- アドラー心理学
- 交流分析
- 内観法
- 3章 具体場面でわかるカウンセリングの効用
- 子どもへの日常的な働きかけ@ 集団の中に入れないAさん
- 子どもへの日常的な働きかけA 授業に集中できないBさん
- 子どもへの日常的な働きかけB まじめに活動できないC君
- 子どもへの日常的な働きかけC 何に対してもやる気のないD君
- 子どもへの日常的な働きかけD 気分が不安定になると暴れるE君
- 子どもへの日常的な働きかけE 友達と協調できないF君
- 子どもへの日常的な働きかけF 給食が苦手なGさん
- 子ども集団への対応@ クラス大会を機会に子どもたちを成長させたい
- 子ども集団への対応A 特定の子どもにいじめがある
- 子ども集団への対応B クラスの中に苦手な子がいる
- 子ども集団への対応C 子どもたちの私語が多くて困っている
- 子ども集団への対応D 帰りの会で達成感を感じさせたい
- 学級経営のアイデア@ 子どもたちの個性の把握
- 学級経営のアイデアA ルールとリレーションのある学級
- 学級経営のアイデアB いきいきとした係活動
- 学級経営のアイデアC 話し合いの活発化
- 学級経営のアイデアD リーダーとフォロワーの育成
- 学級経営のアイデアE キャリア教育につながる学級活動
- 学級経営のアイデアF 道徳科での効果的な授業展開
- 保護者への対応@ 保護者面談の方法
- 保護者への対応A 家庭学習の習慣をつけたい
- 保護者への対応B 担任を否定する保護者への対応
- 保護者への対応C 学校の活動に関心をもってもらう工夫
- おわりに
- 参考文献
はじめに
教員として、ある程度学級経営に自信をもち、毎日夢中で過ごしていた30代の頃、ふと、疑問をもったのです。自分のしていることって、経験と勘でしているだけではないか。本当にこれでいいのか。子どもたちに申し訳ないと感じるときもありました。
いろいろな研修会に参加する中で、心理学に出会いました。認知療法や行動療法は、実践を裏づけることができ、アドラー心理学や交流分析では初めて出会う理論に驚きました。学校で起こることの本質をつかみ、解釈できるようになりました。学べば学ぶほど現場に役立つ技法が多く、子どもたちの変化を肌で感じることができました。今まで動いてくれなかった子が動いたり、落ち込んでいた子が前向きになってくれたりすると本当にうれしかったのを覚えています。
ある心理学の研修会で、「どうして教師は、自己肯定感が低いとだめなのですか」と、講師の先生に聞いたことがありました。先生は、「自己肯定感が低いと、相対的に自分を高めようとして、無意識に目の前の子どもを認めてやれないときがあるからです」と答えられました。劣等感が強い人は「引き下げの心理」が働くので、ほめるよりけなすことが多くなるのです。すばらしい教育者ほど、相手の長所を発見する能力が高くほめ上手です。教師の劣等感というものが子どもの成長の妨げになるかもしれないと聞き、教師の人としての影響力にぞっとしたのを覚えています。
カウンセリングを学ぶと、教師は自分自身の成長も感じることができます。
初めて担任した小学6年生が、卒業文集に「先生の長所は、何でも知っていること、短所は、生徒がうそをつけないこと」と、私の性格を書いていました。生徒がうそをついてもすぐ見やぶってしまうことを、私の先生としての短所であると言っているのです。自分に厳しく、他人にも厳しい私の性格を、本当にうまく言い表していると思いました。子どもにうそをつかせないよう、規則をたくさんつくっていたように思います。さぞかし窮屈な学級経営だったでしょう。生徒に侮られまいと思っていたのかもしれません。
子どもとかかわる中で、教師は過去の自分が経験したつらい思いや心残りを無意識に追体験しています。目の前の子どもに、過去にとらわれる自分の感情を映し出して、知らぬ間に指導が引きずられることもあります。
心理学の中のカウンセリングを学ぶ中で教育分析も受けました。教育分析とはカウンセラーが自身の成長のために受けるカウンセリングのことです。カウンセラーにはそれ相応の精神的な安定感、バランスのよさ、感受性、パーソナリティが必要だからです。私は繰り返し教育分析を受け、自己盲点に気づいていきました。子どもの言葉には、裏に子どもなりの真実があり、必死で成長しようとしている証なのです。うそをあばくのが教師の役目ではなく言葉に込められた成長しようという思いを援助するのが教師の使命だと思うようになりました。私は教師としての自分自身を見つめなおし、自分の感情をどう処理すればいいかがわかるようになり、そして、徐々に教育実践に自信がもてるようになりました。
NPO日本教育カウンセラー協会代表であった故國分康孝氏は、学校になじむカウンセリングとは折衷主義を導入したカウンセリングであると述べています。折衷主義とは、特定の理論・方法・技法に固執しない立場のことです。目の前の子どもを助けるのに役立つことなら何でもしてみようという姿勢のことです。例えば、夜ゲームばかりして、朝起きることのできない子どもに対しては、親の養育態度から精神分析理論を使い対策を立ててみる。子どもと話をする機会があれば、来談者中心療法で信頼関係を築く。行動療法に基づいてゲームをするときのルールづくりをするなどです。折衷主義をとるためには、教師は複数の理論にふれる必要があります。しかし、子どもの問題は、今この瞬間に対応が必要で、教師の理論の習得を待ってはくれません。自分の使えるものは何でも使い戦うという気概で、私は心理学を今も学んでいます。
この本では、学校現場ですぐ使えるカウンセリングの技術を紹介しています。
現場の忙しい教師が、根本から理論を学ぶことは難しいと思います。この本で紹介されているのは、私自身が現場で使っていた技術で、そのまま明日から使えるものばかりです。カウンセリングの理論と技法を応用したものであり、教師が現場で使いこなすことができるようにしたオリジナルな技法です。
そのため、専門家から見ると「それはやり方が違う間違ったものである」と感じるかもしれません。本書の技法は、現場から生まれた独自の方法であることをご理解の上お読みいただきますようお願いいたします。
今までの学びが1冊に凝縮されている気がする。