- はじめに:なぜ,エンゲージメントか?【WHY】
- Chapter 1 英語学習のエンゲージメントとは?
- 1. エンゲージメントとは何か?【WHAT】
- 2. 行動的エンゲージメント
- 3. 認知的エンゲージメント
- 4. 感情的エンゲージメント
- 5. 社会的エンゲージメント
- 6. エンゲージメントをどう引き出すか?【HOW】
- 7. エンゲージメントの土台をつくる
- 8. エンゲージメントを喚起する
- 9. エンゲージメントを維持する
- 10. エンゲージメントの階層性
- Chapter 2 エンゲージメントの土台をつくる指導アイデア
- 1. 成長マインドセットへの支援をする
- 2. 教師が言語使用者のロールモデルとなる
- 3. 児童生徒と良質な関係性を構築する
- 4. 児童生徒の集団意識を高める
- 5. 心理的距離を縮める仕掛けをつくる
- 6. 教室内外でポジティブな声かけをする
- 7. 心理的に安全な学習環境を整える
- 8. エラーを歓迎する雰囲気をつくる
- 9. 確かな成功体験を蓄積し有能感を高める
- 10. 教師が熱中する
- Chapter 3 エンゲージメントを喚起する指導アイデア
- 1. 児童生徒に合わせて活動をデザインする
- 2. Visual Aid や Tangible なものを活用する
- 3. 児童生徒の知的好奇心を高める
- 4. Authentic Material / Realia を活用する
- 5. 題材との自己関連性を認識させる
- 6. 題材のフレームワークに入り込ませる
- 7. 児童生徒の英語学習動機や学習観を意識する
- 8. エンゲージングな教室を五感で演出する
- 9. タスクの「つかみ」を重視し,児童生徒の参加を促す
- 10. 児童生徒を学習の主人公にする
- Chapter 4 エンゲージメントを維持する指導アイデア
- 1. ゲームの要素を取り入れる
- 2. 関心を引きつけ,興味を喚起する
- 3. 帯活動(見通し・Baby step)を実施する
- 4. ゴールと評価規準を明確化する(バックワード・デザイン)
- 5. フィードバックや中間評価を活用する
- 6. 「渇き」を感じるトレーニングを組み立てる
- 7. 児童生徒が自分で乗り越えられる仕組みをつくる
- 8. 自分の意見を言う場をつくる
- 9. 児童生徒に適度な認知負荷を与える
- 10. 解答がない Argumentative な問いを設定する
- Chapter 5 エンゲージメントを高める授業アイデア
- 1. 小学校3年 話すこと[やり取り] 「いくつかな?クイズ」を楽しもう
- 2. 小学校6年 話すこと[やり取り] 夏休みにしたいことを伝え合おう
- 3. 中学校1年 話すこと[発表] Origami
- 4. 中学校2年 書くこと Castles and Canyons
- 5. 中学校3年 話すこと[発表] Be an actor!
- 6. 中学校3年 書くこと・話すこと[発表] Understanding Global Problems
- 7. 高校1年(論理・表現T) 話すこと[発表] Let’s Design a T-shirt!
- 8. 高校3年(英語コミュニケーションV) 読むこと Analyzing Entrance Examinations
- おわりに
- 引用文献
- 著者紹介
はじめに なぜ,エンゲージメントか?【WHY】
私たち英語教師は日々,児童生徒のやる気(モチベーション)を引き出すことに苦心しています。巷には,児童生徒のやる気に関する書籍があふれ,職員室の会話でも児童生徒のやる気が話題になることは少なくありません。学会や研究会でも,児童生徒のやる気は頻繁に取り上げられるトピックです。
やる気の問題は改善したのか?
では,学校における児童生徒のやる気の問題は改善されてきたのでしょうか? 文部科学省が平成19年度(2007年度)から実施している「全国学力・学習状況調査」の結果を見ると,「授業では,課題の解決に向けて,自分で考え,自分から取り組んでいましたか」との質問に対して,例年,小中学校の児童生徒の約20%以上が「当てはまらない」「どちらかといえば,当てはまらない」といった否定的な回答をしています。
コロナ禍を経て,この傾向はさらに悪化している様子が伺えます。「子どもの生活と学びに関する親子調査2021」(東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所,2024)では,2019年から2021年の3年間にわたって,小中高生の生活と学び,それを取り巻く環境の変化について調査しています。その結果,「勉強しようという気持ちがわかない」といった質問に対して,「とても当てはまる」「まあ当てはまる」といった肯定的な回答をした児童生徒は継続的に増加し,2021年にはその割合が50%を超えていました(2019年:45.1%,2020年:50.7%,2021年:54.3%)。さらに同じ児童生徒の変化に注目すると,対象となった3年間で学習意欲が向上した「意欲向上群」は11.2%だったのに対して,低下した「意欲低下群」は25.8%であったことが報告されています。
これらのデータからは,学校教育における児童生徒のやる気の問題は,改善を見せているどころか,むしろ悪化の一途をたどっている可能性があります。したがって,この問題は私たちが直面しているかなり深刻で,解決を求められる喫緊の課題だといえます。
やる気と行動をつなぐ新しい概念: エンゲージメント
こうした状況を背景に,近年,「エンゲージメント」(engagement)と呼ばれる概念が国内外で注目を浴びています。エンゲージメントは,やる気と行動をつなぐ新しい動機づけ概念として,学校教育だけでなく,ビジネス(顧客(従業員)エンゲージメント)や医療(患者エンゲージメント)など,幅広い場面で活用されています。
教育の場でエンゲージメントが着目される理由は,児童生徒のエンゲージメントが学習成果や学業成績,さらには生涯学習への意欲にも影響を及ぼすと考えられているからです(Reschly & Christenson,2022)。エンゲージメントは,単に児童生徒のやる気を引き出す(高める)だけでなく,そのやる気が具体的な行動に結びつくプロセスを理解しようとする試みであり,実践的なアプローチを提供します。
さらに,エンゲージメントは行動,認知,感情,社会といった多様な側面から児童生徒の学びを捉えるため,教師は一人ひとりの学びの実態をより深く理解することができます。これにより,教師は児童生徒の個性やニーズに対応した教育方法を提供し,彼らが自らの学びにエンゲージするのを支援するための重要な基盤を形成することができます。
やる気という概念はやや抽象的な響きがありますが,エンゲージメントは児童生徒がやる気になった姿を具体的に捉えることを可能にします。これは教師にとっても直感的に理解しやすい概念です。本書では,「児童生徒をどのように英語学習にエンゲージさせるか」「そのために何ができるか」に関して,豊富な具体例を紹介します。これにより,教師は彼らのやる気と行動をより効果的につなげるためのコツとヒントを得ることができるはずです。
2024年8月 /廣森 友人
電車書籍は、タブレット等があれば、いつでもどこでも見れるので、活用しやすいです。