- はじめに
- 序章 なぜ子どもの「否定語」を算数授業の軸とするのか
- 1 子どもの「論理」が顕在化する
- 2 子どもが「自分の立場」をもてる
- 3 子どもの「価値観」が転換する
- 4 子どもが「比較・関連・統合」の視点で考察する
- 5 子どもが自ら「問い」を発展する
- 第1章 その答えは,「ありえない!」
- 「その答えはありえない!」から,たし算の意味を理解する
- (1年/たしざん(1))
- 「その答えはありえない!」から,順序数と集合数の意味を捉え直す
- (1年/ものとひとのかず)
- 「その答えはありえない!」から,図形の見方を広げる
- (2年/三角形と四角形)
- 「その答えはありえない!」から,帰納的,演繹的に考える
- (3年/1けたをかけるかけ算の筆算)
- 「その答えはありえない!」から,量分数と操作分数の違いに気づく
- (3年/分数)
- 「その答えはありえない!」から,概数の意味を理解する
- (4年/がい数とその計算)
- 「その答えはありえない!」から,わり算とかけ算の性質の違いを見いだす
- (5年/小数のわり算)
- 「その答えはありえない!」から,分数の性質を理解する
- (5年/分数)
- 「その答えはありえない!」から,図で整理するよさを見いだす
- (6年/場合を順序よく整理して)
- 第2章 その図,表,グラフは,「できない!」「無理!」「ありえない!」
- 「その表はありえない!」から,視点を決めて整理する
- (2年/ひょうとグラフ)
- 「その図は無理!」から,「1つ分」のまとまりを見いだす
- (2年/かけ算(1))
- 「その図はありえない!」から,式と図を関連づけて理解する
- (2年/かけ算(1))
- 「その図はできない!」から,箱をつくるための条件を見つけだす
- (2年/はこの形)
- 「その表はありえない!」から,「正」の字で整理するよさを味わう
- (3年/表とグラフ)
- 「そのグラフはできない!」から,もとにする量を見いだす
- (5年/割合のグラフ)
- 第3章 その式は,「できない!」「無理!」「ありえない!」
- 「その式はありえない!」から,論理的に考える
- (3年/たし算とひき算の筆算)
- 「その式は無理!」から,わり算の性質を活用するよさを見いだす
- (4年/2けたでわるわり算の筆算)
- 「その式はできない!」から,問題の意味を捉え,容積を理解する
- (5年/体積)
- 「その式はありえない!」から,円の面積と角の大きさを関連づける
- (6年/円の面積と図形の角(トピック))
- 第4章 その図形は,「できない!」「ありえない!」
- 「その図形はありえない!」から,円と三角形の関係性を見いだす
- (3年/三角形)
- 「その図形はありえない!」から,多様な視点で角度を見いだす
- (4年/角とその大きさ)
- 「その図形はありえない!」から,式と図形の関係性を問い直す
- (4年/変わり方)
- 「その図形はありえない!」から,点対称な図形の性質を見いだす
- (6年/対称な図形)
- 「その図形はできない!」から,既習の図形を見いだし円の面積を求める
- (6年/円の面積)
- 第5章 その比べ方,分け方は,「できない!」「無理!」「ありえない!」
- 「その比べ方はありえない!」から,整理して考えるよさを見いだす
- (1年/かずしらべ)
- 「その比べ方は無理!」から,任意単位の必要性を引き出す
- (1年/おおきさくらべ(1))
- 「その分け方は無理!」から,減々法と減加法の違いに迫る
- (1年/ひき算(2))
- 「その分け方はできない!」から,対角線に着目して四角形の図形の性質を見いだす
- (4年/垂直・平行と四角形)
- 「その比べ方は無理!」から,多様な視点でデータを考察する
- (6年/データの整理と活用)
- 第6章 その条件は,「できない!」「無理!」「ありえない!」
- 「その条件はありえない!」から,多様な数の構成の仕方に着目する
- (2年/100をこえる数)
- 「その条件はありえない!」から,円の性質を見いだす
- (3年/円と球)
- 「その条件はありえない!」から,量感をともなった理解を得る
- (4年/面積)
- 「その条件は無理!」から,既習の図形の性質に着目する
- (5年/合同な図形)
- 「その条件はできない!」から,速さに必要な2量に着目する
- (5年/速さ)
- 「その条件はできない!」から,かける数と積の大きさの関係を見いだす
- (6年/分数×整数,分数÷整数)
- おわりに
はじめに
算数の授業中,子どもが「できない!」「無理!」「ありえない!」などの否定的な言葉を発したとき,数年前までの私は,次のような言葉を返していました。
「できないと言わずに,やってみよう」
「無理と言わずに,お友だちと一緒に考えよう」
「ありえないと言わずに,チャレンジしてみよう」
つまり,子どもの否定的な言葉を否定し,肯定的な言葉に置き換えたり,前向きに考えたりすることを促していたのです。
一方,否定的な言葉を発しているにもかかわらず,実は子どもの表情は「やる気」に満ちあふれ,いきいきと輝いていました。
その輝きを目の当たりにして,あるとき次の質問をしてみました。
「どうして,できないと思ったの?」
「どうして,無理だと思ったの?」
「どうして,ありえないと思ったの?」
すると,驚いたことに,子どもは「だってね…」と既習の知識や経験,数学的な見方・考え方を働かせたりしながら,課題に対する答えや方法を論理的に語り出したのです。
こうして,子どもの「できない!」「無理!」「ありえない!」などの否定語には,子どもなりの「論理」が隠れていたことに,私ははじめて気づきました。
そして,その隠れた論理の根拠を明らかにし,授業の中で生かすことで,私の算数授業は「主体的・対話的で深い学び」のある授業へと変容していきました。
さらに,新たな発見がありました。子どもの否定語を軸として算数授業を行うと,あまり算数が得意ではない子も手をあげて発言したり,友だちの意見に対して「僕もそう思う」「でも,この場合は違うと思うけど…」と他者の発言に対して積極的に関わったりするようになったのです。
つまり,算数が得意な子も苦手な子も,みんながいきいきと学ぶようになったのです。
本書は,算数の授業中に発する子どもの「否定語」を教師が授業の中で生かすことで,学級にいるみんなが楽しいと思える算数授業をつくり出すことを目的としました。
本書を手に取ってくださった先生と子どもたちとの笑顔あふれる算数授業づくりの一助として,お役に立つことができれば幸いです。
2024年4月 /新城 喬之
-
- 明治図書