- はじめに
- 第1章 個別最適な学び・協働的な学びを実現する「学びの文脈」とは
- 個別最適な学び・協働的な学びを実現する「学びの文脈(ラーニング・マウンテン)」
- 「学びの文脈(ラーニング・マウンテン)」を活用した授業づくり
- 第2章 「学びの文脈」を活用した各教科等の授業プラン
- 事例1 国語(第1学年)生活科と国語科の既習の関連付け
- 単元名:ぶんを つくろう・おおきく なった
- 事例2 国語(第5学年)自由進度を組み入れた学びの文脈
- 単元名:ひみつを調べて発表しよう
- 事例3 国語(第6学年)自己選択や自己決定の機会の保障
- 単元名:作品の世界を想像しながら読み,考えたことを伝え合おう
- 事例4 社会(第3学年)意味あるパフォーマンス課題のゴールへの位置付け
- 単元名:もっと知りたいみんなのまち〜私たちの市の様子〜
- 事例5 算数(第2学年)単元の導入段階における見通しの強化
- 単元名:100をこえる数
- 事例6 理科(第5学年)問題の見いだしと連続性の重視
- 単元名:電流がうみ出す力
- 事例7 生活(第2学年)試行錯誤を大切にした気付きの質の向上
- 単元名:もっとなかよし仁王たんけんたい
- 事例8 図画工作(第1学年)作品の変容過程を重視した自己調整
- 題材名:ならべて みつけて
- 事例9 外国語活動(第4学年)「fun」から「interesting」な学びを創る
- 単元名:I like Mondays・What time is it?
- 事例10 外国語(第6学年)単元全体を通したマイ・ミッションの持続
- 単元名:Junior High School Life
- 第3章 学校全体で取り組む「学びの文脈」を創る授業づくり
- 事例1 リアライズ〜みんなで実現を目指して〜
- 事例2 自律的に学ぶ子供が育つ授業
- 引用・参考文献
- おわりに
はじめに
本書は,『個別最適な学び・協働的な学びを実現する「学びの文脈」』の続編である。前著の主意は,令和3年1月の中教審答申(以下,R3答申という。)における令和の日本型学校教育の姿として打ち出された,「主体的・対話的で深い学び」を実現するための「個別最適な学び」と「協働的な学び」との一体化を図る方途を,“学びの文脈を創る”というフレーズに収れんし,学級・授業・学校づくりの3観点からその基本的な考え方や実践の方向性を提唱することにあった。
言うまでもなく,学びの主語は子供である。主人公は子供であって,教師ではない。授業においては,教師が“何を教えたのか,何を成し得たのか”より,子供が“何を学んだのか,何を成し得たのか”が上位の価値である。そのように考えると,「個別最適な学び」と「協働的な学び」を創っていく主体は,究極的には子供自身でなければならない。そのために教師は,子供が自律的に学びを最適化し,あらゆる他者と協働しながら学びを深めていけるように,子供の発達の段階や特性に即した様々な働きかけを意図的に行っていく必要がある。
しかし,それは容易なことではない。子供一人一人の心身の発達や状況は実に多様であり,全ての子供を取り残さない教育を施すことは至難の業である。R3答申では,「個別最適な学び」とは,従前の「個に応じた指導」を学習者の視点から整理した概念としている。そして,「個別最適」の実現に向けて,教師による「指導の個別化」と子供自身が「学習の個性化」を図ることの一体化を求めている。併せて,「個別最適な学び」が孤立した学びに陥らないように,「協働的な学び」の重要性を唱えている。
子供の学びが成立するための諸々の観点や要素を複眼的に捉えていく教師の資質と能力が一層問われる時代が訪れている。とりわけ,「個に応じた指導」から「個に徹した指導」への意識の転換が必要と言えよう。その際,教師だけではない様々な他者やICTとの関わりを一層重視することが要となる。学級担任や一教科等の担当だけのマンパワーだけでは限界が生じ,最後には疲弊してしまう。旧来の指導法を全て改善しなければならないわけではない。教師が前面に立つ一斉指導は決して悪ではないし,教師は「教える」という行為を躊躇しては元も子もなくなる。小学校低学年は,他律的なケアが大いに必要な時期である。中学年は他律から自律へ向かう過渡期であり,その関わりは一筋縄ではいかない。ICT 活用を積極的に推進しつつ,古典的な読み書き算を疎かにすることはできない。紙媒体の読書や手書きは不可欠である。
筆者が提唱する「学びの文脈」は,「教師が教えたいことを,子供が学びたいことへ変える」という理念を根底に据えている。「学び」とは,その目的や動機,意図,取り巻く他者,空間や時間,状況や条件等の要素が複雑に絡み合いながら展開する営みである。“学習者(集団)”と“教材(テキスト)”という二項に対して働きかける教師には,様々なコンテクストに配慮した指導力,授業力を磨くことが求められる。
本書では,こうした時代の状況を踏まえた「学びの文脈」の理念を再構築し,その具現化を図るラーニング・マウンテンの基本的な考え方,それを踏まえた授業づくり,学校全体での取組等についてまとめる。第1章では,前著から更新した「学びの文脈」の基本的な考え方を示し,ラーニング・マウンテンを活用した授業づくりの方途を整理する。第2章では,「学びの文脈(ラーニング・マウンテン)」を活用した授業実践を,複数の教科等での具体的な事例を集成して紹介する。第3章では,「学びの文脈(ラーニング・マウンテン)」の活用を学校全体の共通実践へつなげていく事例を紹介する。
同じ単元や題材を扱っても,マウンテンの頂上に立つ子供たちの姿は一様にはならない。単元や題材などの内容や時間のまとまりを見通すことができるラーニング・マウンテンの推奨には,多様な子供と共に“学びの文脈を創る”授業の実現に貢献したいとの思いがある。本書が令和の日本型学校教育の推進の一助になれば幸甚である。
2024年9月 /樺山 敏郎
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- 明治図書