国語教育選書
対話的に学び「きく」力が育つ国語の授業

国語教育選書対話的に学び「きく」力が育つ国語の授業

対話を進展させ話を次につなぐ能動的な「きく」力を育てる

対話的な学びを支える能動的な「きく」能力を育成するための理論とともに、「つかむ」「ひきだす」「はこぶ」「うみだす」を縦軸にし対話能力の3要素「情意」「技能」「認知」を横軸に据えた能動的な「きく」ことの能力表を生かした小・中学校の国語の授業を提案する。


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PDF
ISBN:
978-4-18-236511-9
ジャンル:
国語
刊行:
対象:
小・中
仕様:
A5判 160頁
状態:
在庫あり
出荷:
2024年12月4日

目次

もくじの詳細表示

まえがき
第1章 対話的な学びを支える「きく」力を育てる理論と方法
1 対話的な学びと「きく」力の育成
2 「対話」とそれを支える主体的・能動的に「きく」力
3 【能動的に「きく」ことの能力表】と評価
4 音声言語教育の史的考察
5 対話学習指導と教師の対話力
6 音声言語教育研究の成果とこれからの課題
第2章 【能動的に「きく」ことの能力表】を生かした四つの機能別授業プラン
つかむ
1 きくことを中心にした単元で,子どもの姿を見とる
小学1年 単元名:「だいすきなもの」をもとにした,学習者個々の「すきなものマップ」
2 低学年におけるきいてメモをとる力
小学2年 単元名:だいじなことをおとさずに,話したり聞いたりしよう
3 子どもが「きく」ことを自覚し振り返る
小学3年 単元名:「きく」の指導について―「子どもたちとともに考える『きく』」―
4 日常的・継続的な活動で「話し合い」意識を育む
小学4年 単元名:話し合いのワザを見つけよう
ひきだす
5 オープンクエスチョンとあいづちでその人らしさを引き出すインタビュー
小学4年 単元名:〇〇さんらしさを伝える記者になろう
6 きいて引き出し感想を述べる
小学5年 単元名:「きく」能力に着目したインタビューの学習
7 能動的な受容ができる「きき手」を育てる
中学1年 単元名:きいて嬉しい 話して嬉しい 対話をしよう―思いを引き出す―
8 相互作用がつくり上げるインタビューの場
中学2年 単元名:インタビューについて考えよう
はこぶ
9 モニタリングで育むメタ対話意識と「応じる力」
小学2年 単元名:「きく」学習をフォローする「トークタイム」実践
10 スピーチとフリートークから「きく」を捉える
小学6年 単元名:ラストスピーチを楽しもう
11 メタ対話意識を育む
中学1年 単元名:メモカード・プレゼンテーションで伝えよう
うみだす
12 きいてほしいことを伝える・伝えたいことをきく
中学1年 単元名:私のお気に入りの本をポップで紹介しよう
13 古文を協同で読み合い,「きく」力を高める
中学2年 単元名:兼好法師に学ぶ
14 話し手を支えるきき手を育てる「企画会議」
中学2年 単元名:メディアの特徴を生かして伝えよう
コラム
1 生徒の「きく」姿を把握する
2 ホワイトボードを活用して「きく」力を育てる
3 PCタブレットを活用して聴く力を育てる
4 リフレクションタイムが育てる「きく」力
5 大切なことを意識して「きく」という生活習慣
あとがき
執筆者紹介

まえがき

 「話すこと・聞くこと」の学習指導を確かな手応えのあるものにしたい。しかし,その具体化と充実は難しい。特にどちらかと言えば受動的で内面的な理解活動である「聞く」は,その活動の実態や成果の的確な把握は困難であり,指導と評価には苦労する。

 こうした思いは,音声言語指導に当たって多くの教師が抱くところである。そうした困難を乗り越えるために聞き取りメモの活用など様々な工夫や試みがなされてきたが,音声言語がその場限りで消滅してしまうことや聞き手の内面的受け止めを把握する手立ての不十分なことなどにより,ややもすれば態度的な活動のありさまや情報受容の結果のみを問う表面的・形式的な指導や評価にとどまりがちであった。

 「話す」と「聞く」は切り離すことのできない一体の活動であることはわかっていながら,実際の学習指導においては「話すこと」と「聞くこと」を分けて,前者は能動的な表現活動の指導,後者は受動的な理解活動の指導として,別々に指導をすることも多かった。別々に指導すること自体は技能的な能力向上などの側面から見て必要なことではあるが,「話すこと」と「聞くこと」とが往還することなく,それぞれが一方通行の活動と見なされると,音声言語教育の担うべき,社会生活に資するコミュニケーション能力の育成という役割を見落としてしまう。中でも「聞くこと」が果たすべき能動的な能力の育成からは遠ざかってしまうことになる。

 平成29年版学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」が求められている。そのうち「対話的な学び」は平成10年版学習指導要領で提起された「伝え合う力」の育成,それを受け継いだ平成20年版の双方向的コミュニケーション能力育成の流れの上に立って提起されたものである。そうした「対話的な学び」が成立するためには「話すこと・聞くこと」と一体化して示されているように,対話者相互の協働的な言葉のやり取りによる話の進展や相互理解などが必要となってくる。「聞く」にも受け止め受容する機能だけではなく,対話を進展させ,話を次につなぐ能動的な機能が求められることになる。

 私たち国語教育実践理論研究会(略称「KZR」)では,先行研究に学びつつ,「きく」は単なる受動的な行為や能力ではないという考えに立って,対話的な学びを支える「きく」能力の育成を目指してきた。「聞くこと」のいくつかの能動的機能を確認し,それらの違いを区別するために,「聞く」を「聞く」「聴く」「訊く」と書き分けて,学習指導の段階的筋道やそれぞれの機能に応じた指導のポイントなどを具体的・焦点的に捉えるようにした。(以下本書では「聞く」「聴く」「訊く」を書き分けるとともに,それら三態を包括して示すときは「きく」と表記する。)

 こうした基礎的検討を踏まえて,「きく」(特に「聴く」)の能動的な機能を育成するための具体的めあてや手がかりとなる能動的に「きく」ことの能力表を提案し,それに基づく実践を行った。能動的に「きく」ことの能力表は能動的な機能として抽出した「つかむ」「ひきだす」「はこぶ」「うみだす」を縦軸に,対話能力の3要素としての「情意」「技能」「認知」を横軸に据えたマトリックスを作成し,各セルの中に具体的な「きく」の姿を位置付けた「きく」能力の基本台帳と言えるものである。日常的に使え,「きく」ことの確かな指導と評価に生かせる能力表である。まずはご自身の実践を能力表に重ねて授業の振り返りに活用し,次に観点や「きく」姿を加除することで自分用の能力表の作成や実践構想に挑戦してみてはどうであろうか。

 本書が,対話的に学び「きく」力が育つ国語の授業の実現にいささかでも役立てば幸いである。


  2018年7月   /益地 憲一

著者紹介

益地 憲一(ますち けんいち)著書を検索»

国語教育実践理論研究会会長。

元関西学院大学教育学部教授。兵庫県生まれ。お茶の水女子大学附属中学校教諭,信州大学教育学部教授等を歴任。

国語教育実践理論研究会(こくごきょういくじっせんりろんけんきゅうかい)著書を検索»

略称KZR。1961年発足の「国語教育実践理論の会」(飛田多喜雄氏が主宰)の後継研究会。現場の国語科学習指導の実践と理論の架橋を目指して研究活動を進め,その成果を著書にまとめている。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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