- はじめに
- 第1章 「むずかしい学級」,担任のマインドセット
- 1 「むずかしい学級」の担任マインドをつくる
- @ 「むずかしい学級」の担任マインドとは
- A 意味思考@ 「今年」の意味を考える
- B 意味思考A すべてが完璧である必要はない
- C 意味思考B 「何とかなるだろう」感覚をもつ
- D 意味思考C 成長の機会を与えられた
- E 他者理解@ 頭一つ抜け出す
- F 他者理解A 人生の宿題からは逃げられない
- G 他者理解B あたたかい考え方が,あたたかく響く
- H 他者理解C 自分理解も大切にする
- I 無力感の受容@ 周囲の助けを借りる
- J 無力感の受容A とにかく乗り切れば,ハナマルだ
- K 無力感の受容B 不安は口にしていい
- L 無力感の受容C 避けられないことがある
- M 無力感の受容D 道を開こうとすることはできる
- N 無力感の受容E 孤独にならない
- O 無力感の受容F 正解はなく,物語がある
- 2 「観」を見直してみる
- @ 指導観を磨く@ 「ラーメン屋=教師」モデル
- A 指導観を磨くA 粘り強くがんばらない
- B 指導観を磨くB 少しだけ信念を曲げる
- C 指導観を磨くC コントロールしようと思えば思うほどうまくいかない
- D 指導観を磨くD 指導には「あそび」をつくる
- E 指導観を磨くE 障害はカリキュラムの方にある
- F 指導観を磨くF 子どもは変えられない,環境は変えられる
- G 学級経営観を磨く@ 学級経営のフェーズは変わった
- H 学級経営観を磨くA 学級=公園モデルで考える
- I 学級経営観を磨くB 教師と子どもはわかりあえない
- COLUMN1
- 第2章 「むずかしい学級」,出会いのアプローチ
- 1 出会い前夜のアクションガイド
- @ 告げられた次の日から関わる
- A 「指導」せずに,解きほぐす
- B 引継ぎ情報をもとに備える
- C 引継ぎ情報を初期システムに生かす
- 2 出会いのアクションガイド
- @ 初期の学級アセスメント45のポイント
- A 嫌われてはいけない
- B リレーションとルールを,一本化する
- C 三領域の指導の違いに留意する
- D 保護者対応は,先手を打つ
- E 学級生活の意味を話す
- F 一人ひとりとつながる時間を確保する
- G 接触&声掛けをする
- H 雑談から始める
- I 全員の声を聴く
- COLUMN2
- 第3章 学びやすく過ごしやすい教室づくりへのアプローチ
- 1 学びやすい教室づくりのアクションガイド
- @ 学ぶゴールを明確にする
- A ゴールの設定は登山と似ている
- B プロアクティブに支援を用意する
- C ゴールとその手順を具体的に示す
- D 多様な学び方を奨める
- E 学力差に対応する
- F 多様な学び方を学ぶ機会を設ける
- G 協働と仲間集団を育む
- 2 過ごしやすい教室づくりのアクションガイド
- @ まずは,「安全と安定」を感じてもらう
- A 「安全と安定」を生む学級目標づくり
- B 「規範遵守目標」を提示するときには注意する
- C 規律遵守学級をつくる教師の在り方とは?
- D 心理的安全をリードする
- E 再び,愛のある言葉かけ
- F いじめが起きにくい学級をつくる
- G 行事指導は隅へと視線を注ぐ
- H 保護者対応には2つのポイントがある
- おわりに
はじめに
ある年,むずかしい子どもの担任をしました。
髪の毛はかなり明るく色がついていましたし,ピアスも数個,耳を飾っていました。
あわせて,保護者もかなりむずかしい方でした。少しでも子どもを指導すれば,すぐに放課後学校に怒鳴り込んでくるという状態でした。
全体にルールの確立がうまくされていない学級でしたが,その子と,その子の親しい友人は特にひどい状況でした。
例えば,朝の読書時間に,教室にいたことはなく,お手洗いで鏡を見ながら,髪の毛に櫛を通したり,化粧をしたりしていました。
他の子どもたちは,朝の読書時間に何とか座ってはいましたが,注意をすると,「先生,あいつらはいいの?」と,件の2人のことを引き合いに出してきました。
私は,非常に不安でした。その子たち2人の言動を起点にして,綱渡り的な学級経営が,更に大きく乱れてしまうのではないか,と。
さて,そのピアスをつけた子は,実は,漢字がほとんど読めないということが,すぐにわかりました。
私は,そのことがわかったときに,「ひょっとすると,この子は本を読まないのではなくて,読めないんじゃないのかな」と思ったのでした。
そこで,漢字がいっぱいある大人の本を用意しました。その本は,その子の好きなバスケット選手の本でした。漢字の少ない本では,本人が傷つくと考えたのです。
それで,「そういえばさ,バスケがすごい好きだったよね。この本,朝読書の時間に読んでみない? まあ,読んで面白くなかったら,返してもらってもいいからさ」と声をかけてみました。
その子は,本を見て,一瞬ためらいましたが「うん」と答えました。
翌日,私が担任をしてから,はじめてその子は,朝読書の時間に教室にいて,座っていました。私は,その本にちょっとした細工をしておきました。全ページにルビをふっておいたのです。
その子は,座ると同時に,もったりとした手つきで本を開きました。内心,「どうせ,漢字があるから読めないし」と,思っていたのかもしれません。
しかし,数ページめくると,ふられたルビを見て,顔を上げ,私の顔を見ました。そして,本を閉じて,目をつぶってしまったのです。
朝読書の時間が終わると,その子は本を返しに来ました。
私は,「ああ,ダメだったか」と思いました。
しかし,次の日,その子は私のところに来て,「本」と言うのです。
私は,戸惑いながら本を差し出しました。
その子は,本を受け取り,自分の席に着き,本を机上に置くのですが,開きません。そして,やはり目をつぶって静かに,10分間を過ごすのでした。翌日も,まったく同じことが繰り返され,とうとう,そのことは最後の日まで続いたのです。
これは,あの子と私の物語のほんの一部です。
この本には,むずかしい学級で,効果的に指導を行うことへのヒントが,多く書かれています。しかし,それらは万能ではありません。
どの教室でも,どの教師にも当てはまるヒントなど,本当は存在しません。一番大切なことは,むずかしい学級の担任として,あなたがクラスの子たち一人ひとりと,一つでも多くの物語を紡ぐということです。
この本が,そのためのお役に立てると,私は確信しています。
筆者記す
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- 明治図書
- 簡潔に、でも要点を押さえて書かれていて分かり易かった2025/3/3140代・中学校教員