『中学校技術・家庭　技術分野「主体的に学習に取り組む態度」の学習評価完全ガイドブック』の詳細情報

　今回の改訂では，情意にあたる観点「主体的に学習に取り組む態度」は，従来の「関心・意欲・態度」から考え方が拡張されたため，何をどのように評価すればよいのか，迷っている学校が多いと思います（これは，技術分野に限らず，全ての教科・領域で共通の悩みではないでしょうか）。全く違う趣旨になったわけではありませんが，生徒の情意を見る視点が90度変わったと考えることができます（くわしくは第１章で解説しています）。しかし従前から，学校現場においては，「関心・意欲・態度」を育てるという視点や，「主体的に学習に取り組む態度」を育てるという視点が不足していたように感じることがあります。その結果，「態度」という用語だけが独り歩きすることもあり，この観点の評価に授業中の問題行動や，提出物の有無，挙手や発言の回数，安全な作業行動といった減点しやすい要素が用いられることにつながったと考えられます。

　そのような背景もあって，校内研究や指定研究等で「主体的に学習に取り組む態度」に注目している学校が多いのではないかと推察いたします。高等学校の入学者選抜の資料として「主体的に学習に取り組む態度」の観点別評価を活用するという自治体もあり，「主体的に学習に取り組む態度」の本来の趣旨を尊重したくてもできないのではないかという懸念が生じている方もいらっしゃるかもしれません。

　情意にも学習の目標があります。そのため，中・長期的な題材学習を通して，生徒の「主体的に学習に取り組む態度」を丁寧に育てていく必要があります。その上で，育った態度の状況を適切に把握して，Ａ評価，Ｂ評価，Ｃ評価を判断していくことが求められます。本書のテーマは，このように「評価」だけではなく「指導と評価」をセットにして事例を紹介することです。そうすることで，「主体的に学習に取り組む態度」の評価の本来のねらい（意義）を理解しやすくなり，適切な「評価」につながるのではないかと考えたからです。

　本書の実践事例には，全国各地で「評価」について工夫している先生方が，研究授業等を通して練られた「理想的な実践例」もあれば，その先生の悩みが投影されている「現実的な実践例」もあります。そういう意味で，本書は技術分野の評価に関するバイブル的な存在ではなく，「評価」というキーワードで読者と執筆者とをつなぐ「縁結び」のような存在でありたいと願っています。「評価」に全国統一の正解（唯一解）はありません。しかし，学習指導要領がある以上，全国のどの学校でも一定の水準を満たす「評価」を進める必要があります。本書はその架け橋になりたいという思いで編纂しました。

　本書のテーマは，３観点のうち「主体的に学習に取り組む態度」をどうやって育てて，どうやって評価するかということです。生徒全員が同一の製作品を完成させて技能の習得に重きを置く授業だけでは，評価することが難しいでしょう。また，安易に「感想」によって評価することも好ましくありません。従前のような「態度は授業態度や安全面で評価する」といった主観的な考え方から脱却することが求められます。そのため本書では，生徒の記述やレポート，表現等の「アウトプット」や，それらを蓄積した「情意の変容」に注目した事例を紹介するよう心がけました。また，生徒の文章表現から評価する際に「どうやってＡ評価・Ｂ評価・Ｃ評価を区別するのでしょうか？」といった判断の迷いや，「あの生徒はどう考えてもＢ評価ではありませんか？」といった先入観の悩みが生じると思います。それを排して，できるだけ客観的に評価するための考え方や視点を解説するようにしました。

　技術・家庭科技術分野の教員は，各校に１人いるかどうかという現状です。そのため「評価」について悩みがあっても，気軽に相談できないことが多いのではないかと推察いたします。そんなときこそ，本書が皆さんのよき相談相手になってほしいと願っています。本書の事例を読んで，そのまま実践してもよいでしょうし，「自分の授業ならこういう方法でやってみたいな」とアレンジして実践してもよいと思います。また，本書が橋渡しとなって，校内で他教科の先生方と相談しやすくなったり，地区の研究会等で技術分野の担当教員同士が「評価」について共通理解を図るきっかけになったり，さらに家庭分野の先生と「評価」について共通認識をもつきっかけになってもらえたら幸いです。そして全国の学校で，生徒の資質・能力を適切に把握する「評価」が実践され，生徒たちの未来の可能性が広がるような授業実践がさらに増えるように，微力ながら本書が貢献できることを願っています。

　最後になりましたが，各学校での実践を玉稿にまとめていただいた各著者の皆様，本書の根底に流れる理念を汲み取って全体編集に多くの時間と労力を割いてくださった編著者の小八重先生と向田先生に，この場をお借りして感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

　　　編著者代表　／尾�ｱ　誠