- まえがき
- 第1章 特別支援教育の課題と今後の方向性
- 1 人生の質を高める教育とは
- (1) どういう内面の育ちが必要か
- (2) 全人教育の推進
- (3) 自ら社会参加(生活適応)する
- (4) 自分を知る
- (5) 人生の質を高めるために重視すべきこと
- @ 存在価値を高める
- A 社会的役割を高める
- B コミュニケーション力を高める
- 2 生きる力・働く力とは
- (1) 生きる力とは
- (2) 生きる力につながる力
- @ 思考,判断,見通しをもって主体的に行動する力
- A 般化する力
- B 地域生活に適応する力
- (3) 働く力とは
- (4) 働く力につながる力
- @ 目的,目標の達成に向けて努力する力
- A 貢献できる力
- B 職業生活に適応する力
- 3 「日常生活の指導」と意識の向上
- (1) 自分のことは自分でしなければいけないという意識
- (2) 主体的にしようとする意識
- (3) 目的意識
- (4) 支援を求める意識
- (5) 日常生活の指導のまとめ
- @ 周りの人に受け入れられる行動を身につける
- A 周りの人を意識した行動ができるようにする
- B ベースラインに基づく指導を行う
- C 指示をしない対応を考える
- 4 「生活単元学習」と主体性の向上
- (1) 自らする生活を当たり前にする
- (2) 主体的に役割,課題を果たす生活を当たり前にする
- (3) 自らかかわる生活を当たり前にする
- (4) 自ら支援を求める生活を当たり前にする
- (5) 生活単元学習のまとめ
- @ 興味・関心がもてる学習
- A 子どもの実態に合った生活課題,役割の選定
- B 全体と部分の両方を理解した学習
- 5 「作業学習」と意欲の向上
- (1) スキルよりも働く意欲に焦点を当てる
- (2) 人間性を育てる
- (3) 貢献の体験を積み重ねる
- (4) 作業学習のまとめ
- @ 一人で質の高い作業ができる子ども
- A 自らが努力してスキルを高めることのできる子ども
- B 自覚,責任感,目的意識がもてる子ども
- C 貢献をしていることが実感できる子ども
- 第2章 人生の質を高める教育課程の編成
- 1 連続性・総合性・積み重ねを重視した教育課程を編成する
- (1) 基本的生活への適応(日常生活の指導)
- (2) 地域生活への適応(生活単元学習)
- (3) 職業生活への適応(作業学習)
- 2 人生の質を高めることを目指す教育課程を編成する
- 3 キャリア発達の促進を目指す教育課程を編成する
- 4 授業の見直し
- (1) 授業と発達
- (2) 日常生活の自立
- (3) 生活への適応
- (4) 職業生活への貢献
- (5) 人生の質の向上
- 5 授業改善のポイント
- (1) 「できる・わかる・見通しのもてる」授業
- (2) 学習活動がフルに確保されている授業
- (3) させられるのではなく,自らやる授業
- (4) 生活の質,集団の質を高めることを意識した授業
- (5) 役割,課題を主体的に果たす授業
- (6) 子どもが思考,判断,工夫ができる授業
- (7) 教師のかかわりが少ない授業
- (8) 子どもが自己評価できる授業
- 6 支援・対応の改善
- (1) 子どもが気づき行動し始める支援
- (2) ねらい,目的を明確にして行う支援
- (3) 成功体験を実感する支援
- (4) スキルよりも主体的行動を優先する支援
- (5) 教材,教具,構造化等は発達的視点を重視する
- (6) 子どもは教師が側についているほど安定しない
- (7) 学習中は身体接触(手つなぎ等)は避ける
- (8) 見て学ぶ支援を重視する
- (9) 教師の働きかけは機能しているかどうかで評価する
- (10) 新たな役割,課題に挑戦する対応を行う
- (11) 目標行動を設定し,それをクリアする体験を積み重ねる
- (12) 学習の終わりと終わった後の行動が理解できるようにする
- (13) 対症療法的対応は効果がない
- (14) 主体的行動はスタートと終わりが重要である
- (15) すべての生活,すべての授業において基本行動を重視する
- 第3章 生活適応教育の実際
- 1 生活適応教育の目指すべきこと
- 2 生活適応とは
- 3 生活適応学習の実際
- (1) 家庭生活(学校生活)に適応する日常生活の指導の実際
- 家族の一員としての役割の指導の実際
- ・炊事
- ・掃除
- ・洗濯
- (2) 学校生活・地域生活への適応学習の実際(生活単元学習)
- @ 嶺南西特別支援学校の生活単元学習
- A 小学部の生活単元学習 「地域の小学生を笑顔にするチャレンジランド」
- B 中学部の生活単元学習 「地域の人を屋台に招待しよう」
- (3) 職業生活への適応学習の実際(作業学習)
- @ 嶺南西特別支援学校の作業学習
- A 木工作業 「名人検定を取り入れ自らスキルアップを目指す木工作業」
- B 陶芸作業 「買い手を意識して質の高い製品を作る陶芸作業」
- C クリーン・サービス作業 「清掃検定を生かし地域への貢献を目指す清掃作業」
- D エコ・クリーン作業 「リーダーを中心に自分たちだけで進めるリサイクル作業」
- 執筆者紹介
まえがき
筆者は,長年,特別支援教育にかかわり,この子どもたちの学校卒業後の生活はどうあればよいかを模索し続けてきました。就労することを教育の第一義に据え,就労率アップのために努力をした時期もありました。少しでも職場に適応できるようにするために,できることを増やしたり,スキルアップに一生懸命になったりもしました。その結果,多くの子どもたちが就労できましたし,保護者からも感謝されました。しかし,就労した子どもたちが,学校卒業後の人生において,どれだけ質の高い,豊かな生活を送っているかとなると反省せざるを得ない実態が明らかになってきました。
学校卒業後の子どもたちの生活実態を調査してみますと,就労していない人はもちろんのこと,就労している人も含めて,ほとんどの人たちが生活の質を低下させています。通常の子どもであれば,職業生活,社会生活を積み重ねるにつれて,次第にそれぞれの場で生活の質を高め,生き生きとした,充実した人生を送るのですが,この子どもたちはそうではないのです。逆に,年齢を重ねるに従い,生活の質を低下させています。何よりも気になるのが,地域生活や職業生活において自分の存在を示すことができていないことです。生活はしているが生活が実感できていない生活状態と言えます。
これで学校教育の役割を果たしていると言えるのでしょうか。人生は在学中よりも学校卒業後がはるかに長く,また,重要です。この長い人生が充実していないとするならば,今まで行ってきた学校教育は,一体何だったのか,どこに問題があり,どこを,どのように改善しなければならないか,真剣に問い直す必要があります。
まず,考えなければならないことは,今までの教育は,子どもの学校卒業後の人生を充実させるための教育をしていたかどうかという点です。筆者もそうであったように,多くが学校卒業時点に焦点を当て,就労を実現するための教育を展開していたのではないでしょうか。決して,これを否定するわけではありません。しかし,これからは就労の実現だけではなく,学校卒業後の生活にも視点を当て,人生の質を高める教育を推進する必要がある,と思うのです。就労の実現だけを目指した学校教育12年間ではなく,学校卒業後の長い人生を充実したものにするための学校教育12年間の在り方を考える必要性を強く感じます。
では,子どもたちが,学校卒業後,質の高い,充実した人生を送れるようにするためには,これからの教育はどうあるべきでしょうか。この課題に応えるべくまとめたのが本書です。
筆者が改善策として提言したいのが,「内面を育てる教育」と「生活適応教育」の推進です。
まず取り組んでほしいのが,「内面を育てる教育」の充実です。
今までの教育の中で,どれだけ「内面を育てる教育」を重視してきたでしょうか。子どもたちの生活の質,人生の質が低いのは間違いなく,内面が育っていないからに他なりません。まさに発達していない状態で生活を強いられている日々を送っている,と言えるでしょうか。彼らは障害をもっているためにできないことも多く,スキルも低いのも事実です。だからと言って,それだけに焦点を当て教育することが,どれだけ子どもを成長,発達させるでしょうか。できることが多く,スキルも身についているのに地域や職場で通用しない子どもがたくさんいます。その原因を探ってみると,明らかに,人としての育ちが伴っていないことがわかります。せっかくもっているできることやスキルが内面の育ちが備わっていないために機能していないのです。一方,できることも少なく,スキルも低いのに,地域や職場で生き生きと活躍できている子どもがいます。できなくてもやらなくてはいけないという意識,意欲(内面)が育っているのです。これからの教育は,この点に注目し,「内面を育てる教育」を充実させていく必要があります。
次は「生活適応教育」の充実です。キャリア発達を重視し,生活適応学習を推進しようという提言です。
学校で12年間,一生懸命教育をしてきたが,実際はその成果があまり出ていない,と感じることはないでしょうか。子どもたちは,本当に地域生活,職業生活に適応できる力を備えているでしょうか。筆者の見る限りでは,そうした力が育っていない気がします。その原因はどこにあるのでしょうか。
これは「内面を育てる教育」とも関連しますが,できることが生活に適応できるのではありません。スキルが高いことが生活に適応できるのではありません。内面の育ちを伴うできることやスキルが生活に適応できる力になるのです。生活に適応するためには内面の育ちが欠かせません。
家庭生活に適応できていない子どもが学校生活に適応できるでしょうか。学校生活に適応できていない子どもが地域生活に適応できるでしょうか。地域生活に適応できていない子どもが職業生活に適応できるでしょうか。職業生活に適応できていない子どもが社会生活に適応できるでしょうか。いずれも否です。学校教育12年間で重視してきた,できることやスキルに焦点を当ててきた教育を改め,これからは内面を伴うできることやスキルに焦点を当て,確かに生活に適応する取り組みを推進しよう,というのが筆者の提言です。
適応とは,筆者は「子どもにとってふさわしい生活の中で,主体的に役割,課題を果たすことができている状態」と定義づけています。この定義に合わせて,家庭生活,学校生活,地域生活,職業生活,社会生活へと段階的に適応する学習を行えば,間違いなく,学校卒業後は人生の質を高めることにつながる,と考えているのです。
本書は,筆者のこうした考えを具体化し,教育実践に生かすことができれば,能力や障害にかかわらず,すべての子どもの学校卒業後の人生は,必ずや充実したものになる,と信じてまとめたものです。
第1章では,「特別支援教育の課題と今後の方向性」と題し,今までの教育の,どこに問題があり,具体的にどのような改善が必要か,人生の質を高めるという視点に立って,今後の教育の方向性についてまとめました。特に,次期学習指導要領でも重視されている生きる力,働く力の具体化を中心に日常生活の指導,生活単元学習,作業学習は今後どうあればよいか,について改善点を示しました。
第2章では,「人生の質を高める教育課程の編成」を取り上げ,今後はどういう教育課程を編成していくべきかを提示しました。特に,これからの授業の在り方,支援や対応の基本姿勢について具体的に示しました。
第3章は「生活適応教育の実際」について,この教育の3本柱である,「家庭生活(学校生活)に適応する日常生活の指導の実際」,「学校生活・地域生活への適応学習の実際(生活単元学習)」,「職業生活への適応学習の実際(作業学習)」を取り上げ,生活適応学習の指導の実際を提示しました。
日常生活の指導では,家庭生活に適応するために必要な,家族の一員としての役割を果たす具体的な指導について述べました。
生活単元学習と作業学習は,4年間,筆者と共に実践研究に取り組み,確実に成果を上げた福井県立嶺南西特別支援学校の実践事例を掲載しました。今後の教育の在り方を含め,生きる力,働く力を育てるための数々の実践が紹介されています。是非,参考にしてほしいと思います。
最後に,本書は,子どもたちの将来の生活に視点を当て,学校卒業後,質の高い人生を送ることができるようになるためには,今後どういう教育実践が必要かを,今までの教育を検証しながら明らかにしたものです。
本書を通して,多くの子どもたちの存在価値が高められる教育実践が,全国で展開されることを切に望みます。
2017年8月 編著者 /上岡 一世
-
- 明治図書
- 上岡一世先生は、自分で考えて行動する、日常生活でできる行動が働く行動の基礎になると繰り返し述べられる。いつも励まされる。2021/11/2340代・男性