- 本書執筆の意図
- 1 『学び合い』とは
- はじめに
- @ 一般的な授業レベルの『学び合い』
- A 「一人も見捨てない」という言葉の意味
- B 子ども達の考える「一人も見捨てない」とは
- C 熱き心と冷静な頭脳
- D なぜ,勉強が分かるのか
- E なぜ,人間関係が向上するのか
- F なぜ,今の授業は『学び合い』で行われていないのか
- G なぜ,『学び合い』が広がったのか
- まとめ
- 2 授業レベルの『学び合い』でつまずくポイント
- はじめに
- @ 集団の構造
- A 『学び合い』の学力観と特徴は何か?
- B どのように語ったらよいのか
- C 上手くいかない時にはどうすればよいのか
- D 同僚・管理職と上手くいかない時には
- E その子,その事を解決出来る集団をつくる
- F 『学び合い』によってソーシャルスキルは伸びるのか
- G 子ども達を知っていますか
- まとめ
- 3 『学び合い』でよく聞かれることQ&A
- はじめに
- @ 『学び合い』における教員の役割とは?
- A 医者との違い
- B 『学び合い』では本当に教師は教えなくていい?
- C 『学び合い』は学び合うことが目的じゃない?
- D 『学び合い』の実践者の陥る「罠」について
- E 『学び合い』は同調圧力なのか
- F 人と関わることが苦手な子に『学び合い』を強いていいのか
- G 荒れている学級で『学び合い』は出来るのか
- H 『学び合い』で本当にイジメはなくなるのか
- I 『学び合い』で本当に不登校はなくなるのか
- J 『学び合い』が出来ないクラスはあるの?
- K 子どもは教師をどう思っているか
- L 『学び合い』の評価はどうするのか
- M 受験指導で『学び合い』は出来るの!?
- N 『学び合い』は生活に転用できるのか
- O 『学び合い』に固定的な組織が無いのはなぜか
- P 自由進度学習と『学び合い』
- Q アドラー心理学と『学び合い』
- R イエナプランと『学び合い』
- まとめ
- 4 『学び合い』の目的とは? 子ども達の生涯の幸せを保障するために
- はじめに
- @ 脱工業化社会
- A 不幸にならないために
- B 反復囚人ジレンマ
- C 飛びぬけた人
- D 大部分の人の生き残り
- E 経済的自由
- まとめ
- 5 最高の『学び合い』とは何か 生き方レベルの『学び合い』の姿
- はじめに
- @ なぜ,怒らないのか
- A 評価が必要か?
- B 自由
- C 問答
- D 異学年集団
- E 問答での柱「幸せ」
- F 博愛主義ではありません
- G 生き方レベルの『学び合い』の課題
- H 研究室運営の変遷
- I 変遷の背景
- J 延長上にあります
- まとめ
- 6 『学び合い』の未来 自分自身の生き残り
- はじめに
- @ 学校の未来像
- A SNS
- B 副業
- C 志を高く維持できる方法
- D 何を学ぶべきか
- まとめ
- おわりに
- 付録1 『学び合い』の会の開き方
- 付録2 学校現場での問答の実践事例
本書執筆の意図
私は学力的には最底辺の定時制高校の物理教師として採用され,そこで見捨てられていく子どもを嫌というほど見ました。そして,分かる授業,面白い授業の限界を知りました。大学に異動してからは,「私はどうやったら子どもを救えたのだろう」と思い,狂ったように研究をしました。数多くの論文を書き,多くの学会から賞をいただきました。(興味のある方は「西川純の部屋」で検索し,プロフィールを開いて下さい。)
しかし,どこまでやっても出口が見えません。最終的には,「子どもの多様性を認め,三十人の子どもにはそれぞれに最適な学習が必要である」という結論に至りました。それは,一人の教師での対応が絶対に不可能であることは自明です。そこで『学び合い』研究にシフトしました。
2000年の「学び合う教室」から2006年の「勉強しなさい!を言わない授業」まで学術研究の成果を紹介する形式で,学び合うことによる子どもの変容を紹介しました。それらの一連の本は,教師用図書の大部分を占めるノウハウ本ではありません。私の研究室の内部では,それなりのノウハウが蓄積整理されていました。しかし,未成熟のノウハウを公開することに不安を持ちました。そこで,そのノウハウの一部をまとめた「『学び合い』の手引き」をネットで公開しました。ただし,大々的に宣伝はしませんでした。
限られた情報の中で実践を始めた方が全国におられます。その方々からお悩みメールが来ます。それに対して,私は応え,提案しました。提案された方々はそれを実践し,その結果を私にフィードバックします。それによって蓄積・整理されたノウハウは順次,SNSで公開します。それを見て実践した方々からのお悩みメールを受け…。この数千人の実践者との10年以上の蓄積をまとめたのが,『学び合い』最初のノウハウ本である「『学び合い』ステップアップ」です。その後,集中的にノウハウ本を書いた結果,初歩的な誤解によるお悩みメールは激減しました。
私の本のほとんどは,2010年までに確立したノウハウをまとめたものです。しかし,その後も西川研究室では研究を深めていたのは当然です。経営学で有名なドラッカーは「自らの製品,サービス,プロセスを自ら陳腐化させることが,誰かに陳腐化させられることを防ぐ唯一の方法である。」と述べています。2010年以降の西川研究室の成果は,私の本を陳腐化させ続けたのです。
私の本を読み続けている方だったら,2016年の「学歴の経済学」にビックリしたと思います。『学び合い』のことを書いていないからです。その後も,『学び合い』と無関係の本を書いており,最近ではその方が多くなっています。しかし,それは私が『学び合い』から離れたのではなく,授業レベルの『学び合い』より上の次元にシフトしただけなのです。これを「生き方レベルの『学び合い』」と呼びましょう。
私の教育実践の場は西川研究室です。当然,完全無欠の『学び合い』で運営されています。そこでは,授業レベルの『学び合い』の本(即ち私の大多数の本)で書いていることを,全くしていません。従来型授業の教師が『学び合い』の授業を見たとき,「丸投げ」という印象を持ちます。それは,従来型授業の教師が大事にしているものを捨てているから,何もしていないように見えるのです。しかし,生き方レベルの『学び合い』で運営されている集団(例えば西川研究室)を多くの『学び合い』の実践者が見れば「丸投げ」と見えるでしょう。それは授業レベルの『学び合い』で大事にしていることを,生き方レベルの『学び合い』では捨てているからです。
生き方レベルの『学び合い』が実践できれば,より高い成果を得られます。そして,個別最適化する未来の教育においてどのような授業をすべきかが分かります。不遜ですが,本当に個別最適化した教育においては,「生き方レベルの『学び合い』」が唯一の解答になると思います。
『学び合い』の考え方をさらに理解するには必読の一冊のように思った。