- はじめに
- 第1章 本当の「問題解決」とは
- 問題解決学習の役割と課題
- 「授業・人」塾主宰 /田中 博史
- 1.育てたい「問題解決の力」を問い直して
- 2.現場の先生が感じている,問題解決「型」授業の課題
- 3.子どもの姿から「当たり前」を問い直す
- 4.先人の理論の本質を読み解く
- 5.子どもの状況を観察し,その事実によって教師が方法を使い分ける
- ―日々の授業は教師にとっての問題解決の連続
- だれのための問題解決なのか
- 関西大学初等部 /尾ア 正彦
- 1.問題解決「型」ってわかりやすい!?
- 2.「自力解決」で抱いた違和感
- 3.「考えの発表」で抱いた違和感
- 4.「練り上げ」で抱いた違和感
- 5.教師のための「まとめ」
- 6.問題解決「型」授業は1時間で終わらない
- 第2章 算数授業の当たり前を問い直す
- 全国の算数教師の経験則に基づく,本当に役立つ授業の「型」の提案
- 「めあて・まとめ・振り返り」を問い直す
- 子どもの実態に合わない「めあて・まとめ・振り返り」を止め,問いの鮮度を意識した授業をつくろう
- 関西大学初等部 /尾ア 正彦
- [田中博史の分析・解説]子どもよりいつも先に動いてしまう教師の意識改革に取り組もう
- 「既習を使った問題解決」を問い直す
- 既習と未習が結びつく喜びを子ども自身が感じる授業をつくろう
- 横浜国立大学教育学部附属鎌倉小学校 /山本 順一
- [尾ア正彦の分析・解説]復習はさせるのではなく,子どもがしたくなる瞬間を引き出す
- [田中博史の分析・解説]既習の活用も,問いづくりも,大切なことは子どもたちの必要感をどうつくり出すか
- 「問題提示」を問い直す
- 素直な感覚を引き出し,算数の表現に変えていく過程を共有しよう
- 東京都江戸川区立南篠崎小学校 /木村 知子
- [尾ア正彦の分析・解説]感覚から論理の世界へ授業をデザインする
- [田中博史の分析・解説]自力解決は,修正されることを前提に授業を構成する
- 「自力解決」を問い直す@
- 人が人らしく学ぶという視点で,自力解決の時間を考え直そう
- 昭和学院小学校 /平川 賢
- [尾ア正彦の分析・解説]「自力解決」ではなく「問い見つけ」と捉えよう
- [田中博史の分析・解説]「自力解決」という言葉に対する概念を多様化させよう
- 「自力解決」を問い直すA
- 「問い」が変化することを大切にする
- 元佐賀県公立小学校 /浦郷 淳
- [尾ア正彦の分析・解説]「自力解決」は,答えが出ても出なくてもかまわない
- [田中博史の分析・解説]「自力解決」に向かう子どもの価値観をどう育てるかを意識する
- 「自力解決」を問い直すB
- 画一化された時間を少し変えると見えてくるもの
- 京都府南丹市立八木西小学校 /谷内 祥絵
- [尾ア正彦の分析・解説]自力解決の場を選択できる柔軟性と型式指導の柔軟性
- [田中博史の分析・解説]目的に合わせて自力解決の仕方も変える
- 「比較・検討」を問い直す
- 子どもたちのわかりづらさや疑問を共有し,みんなで問題に立ち向かおう
- 東京都豊島区立高南小学校 /河内 麻衣子
- [尾ア正彦の分析・解説]話し合いたいと考えていないのに,無理に話し合わせていませんか?
- [田中博史の分析・解説]子どもの必要感で比較・検討の時間をもつ
- 「対話活動」を問い直す
- 形態にとらわれず,子どもが話したいと思える「自由対話」と「仕組む対話」
- 大分県別府市立亀川小学校 /重松 優子
- [尾ア正彦の分析・解説]対話したくなる思いを引き出すことと,子どもの意識を高めること
- [田中博史の分析・解説]「自由対話」と「仕組む対話」にさらに細かな表現の過程を意識する
- 「練り上げ」を問い直す@
- その子らしい捉え方を大切にし,修正に開かれた練り上げを意識しよう
- 新潟大学附属新潟小学校 /志田 倫明
- [尾ア正彦の分析・解説]子どもの論理を読解する場面設定が思考力を高める
- [田中博史の分析・解説]練り上げの時間に子どもの困り方の原因が見えてくる
- 「練り上げ」を問い直すA
- 高学年でも発表する子どもに育てるために
- 雙葉小学校 /永田 美奈子
- [尾ア正彦の分析・解説]小刻みな読解をヒントとして練り上げを活性化させる
- [田中博史の分析・解説]子ども同士の考え方を交流させるときのポイント
- 「練習問題」を問い直す
- 子ども自身が学びを広げていくことを大切にしよう
- 鹿児島市立清和小学校 /福島 淳子
- [尾ア正彦の分析・解説]練習問題をクラス全体でつくり上げる価値
- [田中博史の分析・解説]「つくる」活動をすると見えてくるものがある
- 「習熟」を問い直す
- 問題の量だけを意識した習熟の時間を考え直そう
- 宮崎市立江平小学校 /桑原 麻里
- [尾ア正彦の分析・解説]何のために習熟させるのか
- [田中博史の分析・解説]パターンで解くだけの適応問題からの脱却を
- 「まとめ」を問い直す
- 数学的な見方・考え方の変容を「小さなまとめ」で価値づけよう
- 兵庫県西宮市立鳴尾東小学校 /久保田 健祐
- [尾ア正彦の分析・解説]「まとめ」は授業終末に行うものだと決めつける必要はない
- [田中博史の分析・解説]「型」を2つの視点で柔軟に捉え,役立つものにしていこう
- 第3章 経験則からつくる授業の羅針盤
- 尾ア正彦が使い分けている授業構成とその意図
- 関西大学初等部 /尾ア 正彦
- 1.問題の一部提示と子どもに任せる展開
- 2.2つの考え方を対立させながらブラッシュアップ
- 3.1つの考え方の共有と汎用性の検証
- 4.複数の考え方の比較と使いやすさの場合分け
- 5.考え方0からの話し合い
- 6.考え方の理解から単元全体の課題発掘へ
- 田中博史が使い分けている授業構成とその意図
- 「授業・人」塾主宰 /田中 博史
- 1.経験則から授業の拠り所を整理する
- 2.問題を子どもたちに伝える場面
- 3.授業の中心課題となる問いの発生
- 4.問いの発生は,大きく分けて2通り
- 5.展開場面で意識することは,わかることとわからないことの境界線を探る活動
- 6.算数でも常に子どもの心情をはかる言葉かけを意識する
- 7.振り返りやまとめは必要なときに行う
はじめに
「子どもの姿」から,授業づくりの羅針盤を創り直す
本書の目的は「子どもの姿」から問題解決の授業を問い直すことです。問題解決「型」授業についての問い直しは,実はこれまでに何度も行われ,改善すべき点についての議論は繰り返し行われてきました。しかし,現場の授業はなかなか変わりません。それどころか,最近ではこの型と同じ欠点をもつ形式が押し付けられる地域さえ見られるようになったと,力あるリーダーたちから嘆きの声が届きます。
もちろん,最低限度の授業をどのクラスにも保障したいという願いは理解できます。若い先生たちには拠り所となるものが必要だという意見もわかります。でも,だからといって,そのための手立てが,だれでもできる機械的な方法による授業づくりになったのでは,教師という職業の専門性自体が問われてしまうことになりかねないと考えます。これから教師を目指す若者たちにとって誇りをもてる職業であり続けるためにも,今一度子どもの姿の事実から現場の教師が主体になって日々の授業づくりを問い直し,役に立つ拠り所をつくることに挑む責任が私たちにはあると考えるのです。本書の第2章では全国の算数授業の達人と言われる面々の叡智を集めました。各提案を田中と尾アの2人が,それぞれの個性で分析を行い,それらを踏まえたうえで,第3章でさらに2人が独自の視点を付け加え,具体的な整理と提案に挑みました。
現場の先生方が「考え」「選んで」「使い分ける」ことができる本当に役に立つ算数授業の具体的な羅針盤づくりができたのではないかと自負しています。本書が明日からの算数授業で,子どもたちの確かな思考力を育てること,さらには笑顔いっぱいの算数好きな子どもを増やすことに少しでも役立つことを願っています。
最後になりましたが,今回の企画に快く応じてくれた頼りになる同志の尾ア正彦氏と,投稿の呼びかけに応じてくださった全国の先生方,そして本書の作成にあたり,終始的確なアドバイスで支え続けてくださった明治図書出版教育書編集部の矢口郁雄氏に厚く感謝を申し上げる次第です。
「授業・人」塾主宰 /田中 博史
型通りに授業をすること=「よい授業」ではない
「ググる」という言葉が世の中に定着して,かなりの年月が経過しました。意味のわからない言葉や問題に出会うと,すぐにググってそれを調べる光景は日常茶飯事となりました。そして,そこに書かれたことを見て納得・安心する人たちがいるのも,当たり前の光景になりました。
このググるに似た光景は,先生の世界でも当たり前のように見られるようになりました。算数の指導方法に困った先生や,研究授業の指導案づくりが迫った先生が,ググることでそれらの目的を果たそうとする光景です。ググることで出会った指導方法でそのまま子どもに授業をしたり,ググった結果をそのまま指導案としてコピー&ペーストしたりすることも多々見られるようになりました。
ところが,前述の先生方も,「問題に出会ったら,じっくりと考えることが大切ですよ」と子どもたちに教えてはいないでしょうか。その先生が,自分自身の教え方に関してはじっくりと考えることもなく,ググった結果をそのまま使うことに違和感を抱いていないのです。
ググること自体は,悪いことではありません。瞬時に莫大な情報を検索できる機能は,忙しい先生にとっては救世主です。問題なのは,ググった結果に疑いをもたないことです。ググったことで出会った指導方法は,本当に目の前の子どもたちのためになっているのでしょうか。その指導案は,本当に目の前の子どもたちの思考に寄り添った展開なのでしょうか。
算数の授業には,なんの疑いもなく当たり前のように考えられてきた教え方の型があります。その型通りに授業をすることが「よい授業」という価値観もあります。本当でしょうか? 型通りに授業をすることでよい授業がつくれるのであれば,こんなに簡単な仕事はありません。私たちは,工業製品をつくっているのではありません。クラスによって,個人によってまったく反応が異なる子どもを相手に授業をしているのです。型通りに授業がいつでも展開できると考えること自体が間違っています。子どもに寄り添った授業とは,どのようにしてつくるべきなのかを,本書では具体的な実践を通して提案していきます。
関西大学初等部 /尾ア 正彦
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