- はじめに
- 第1章 自閉症のある子どものことば・コミュニケーション・認知
- 自閉症とは?
- ことばとコミュニケーションの問題
- ことばとコミュニケーションの理論
- こだわりと特別な興味
- 感覚の特徴
- 共同注意の問題
- 心の理論の問題
- 語り―ナラティブ―の特徴
- 弱い中枢性統合
- 実行機能の問題
- 学習の問題
- 共感と感情の理解
- 道徳判断の特徴
- 読書の傾向
- 第2章 自閉症のある子どものことばとコミュニケーションの支援
- 自閉症のある子どもへの支援の原則
- 構造化
- ソーシャルストーリー
- ことばの支援1 声の大きさ
- ことばの支援2 会話
- ことばの支援3 意図の理解
- ことばの支援4 枠組みと視覚情報の活用
- 感情理解の支援
- 感情のコントロール
- 考えを整理する
- 援助要請
- 自己理解
- 余暇とサードプレイス
- インクルーシブ教育とICTの活用
- 第3章 教室の中の自閉症のある子どもたち
- エピソード1 みんなと楽しく話がしたい
- エピソード2 友達や先生の応援があれば大丈夫
- エピソード3 なぜ自分だけ静かにしないといけないの?
- エピソード4 人の心に気づき始めたら
- エピソード5 友達と仲良くするには
- エピソード6 クラスメイトに助けてもらおう
- エピソード7 大人の女性のマナーを学ぶ
- エピソード8 みんなが心地よく過ごせるクラスにするために
- おわりに
- 引用参考文献
はじめに
国連が日本政府にインクルーシブ教育の実現に向けた努力をするよう勧告したことは報道によってご存知の方も多いかと思います。インクルーシブ教育とは、障害のある子もない子も同じ場で共に学ぶことを基本とする教育システムのことです。
だれもが平等に教育を受ける権利をもつことはいうまでもありません。しかし、単に同じ教室で、同じ授業を一緒に受けられれば平等になるのかというと、事はそう簡単ではありません。通常の発達をしている子どもたちとは物事の感じ方、ことばの受け取り方、学び方のスタイルなどが異なる子どもたちがいるからです。その子たちが教室環境や授業の方法などが合わないために他の子たちより余分な苦労をしているのなら、みんなで一緒に勉強してはいても、それだけでは平等な状況とはいえないでしょう。
自閉症のある子どもたちは、感覚、認知、言語とコミュニケーションなどに独自のスタイルをもっています。その特徴は一見しただけではなかなかわかりません。例えば、蛍光灯の灯りは細かい光の点滅なのですが、自閉症がなく通常の発達をしている子にはその点滅は気がつきません。しかし、自閉症のある子にはそれが見えてしまい不快で集中できなくなることがあるようです。自閉症のある子にもそうでない子にも快適で学びやすい教室にする必要があるとするなら、インクルーシブ教育の実現のためにはそのような環境整備から始めなければならないことになります。
だれもが気持ちよく学べる学校にするために最初にしなければならないことは何でしょうか。それは自閉症など通常とは異なる発達をしている子どもたちの特性やスタイルを知ることです。そして、お互いの違いを理解し、歩み寄るところから真のインクルージョンは可能になるでしょう。本書はそのような思いのもとに執筆しました。自閉症のある子どもたちのことばとコミュニケーションについて解説しています。本書の内容は医学や心理学などの様々な研究から明らかにされたことに基づいています。三部構成で、第1章は自閉症のある子どもたちのことばやコミュニケーション、認知などの特徴について、第2章はそれらの問題に対する指導や支援の考え方と方法について書いています。そして、第3章はこれまでに私が経験したケースに基づき、細部を変え、登場する子どもを仮名にしたうえでエピソードの紹介をしました。主に学校でみられた出来事です。第1章と第2章で述べたことの実践例としてお読みいただければと思います。
なお、医学的な診断名としては、「自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)」という名称が現在使われていますが、本書ではASDと診断まではされないものも含め、自閉症の特性を有する子どもという意味で「自閉症のある子」と表現しました。ですので、本書の中の「自閉症」という文言は診断名でなく特性を表現したことばとしてご理解ください。
本書は、特に学校や幼稚園の先生方、そして放課後等デイサービスなどで日頃子どもたちに関わっている職員やスタッフの方々、それから一般の方々にも読んでいただきたいと思っています。内容は専門的な研究知見に基づいていますが、一般の人が読んでもわかるように、できる限り平易な表現を心がけました。なお、参考にした文献は多数に及びますが、主なもののみを巻末に挙げました。
人にとってことばやコミュニケーションとは何かについて、自閉症のある子どもたちは深く考えさせてくれます。「このことばは本当に相手に通じているか?」自閉症のない人同士のコミュニケーションでも、そういったことをあらためて考えることで、相互の理解が深まるように思います。
本書が自閉症のある子どもたちが心地よく勉強でき、楽しく仲間と関わることのできるインクルーシブな学校・学級環境づくりの一助になることを願っています。
/著者 藤野 博
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- 明治図書
- 自閉症とはと理論から始まり、項目ごとに解説されており読みやすかったです。2023/9/230代・小学校教員