- はじめに
- 1章 道徳科改訂 7つのキーポイント
- 1 特別の教科への移行 「道徳の時間」→「道徳科」へ
- 2 道徳教育の目標の明確化
- 3 発達の段階を踏まえた指導の改善
- 4 多様な指導法の開発
- 5 教科書の作成と多様な教材の活用
- 6 成長を促すための評価
- 7 教員の道徳指導力の向上
- 2章 道徳教育の目標と内容のポイント
- 1 道徳教育と道徳科
- 2 道徳性を養うために行う道徳科における学習
- 3 道徳的な判断力,心情,実践意欲と態度を育てる
- 4 内容構成の考え方
- 5 内容の取扱い方
- 6 関連,発展,重点的指導
- 3章 内容項目の解説と指導のポイント
- A 主として自分自身に関すること
- 1 善悪の判断,自律,自由と責任
- 2 正直,誠実
- 3 節度,節制
- 4 個性の伸長
- 5 希望と勇気,努力と強い意志
- 6 真理の探究(5・6年のみの項目)
- B 主として人との関わりに関すること
- 7 親切,思いやり
- 8 感謝
- 9 礼儀
- 10 友情,信頼
- 11 相互理解,寛容
- C 主として集団や社会との関わりに関すること
- 12 規則の尊重
- 13 公正,公平,社会正義
- 14 勤労,公共の精神
- 15 家族愛,家庭生活の充実
- 16 よりよい学校生活,集団生活の充実
- 17 伝統と文化の尊重,国や郷土を愛する態度
- 18 国際理解,国際親善
- D 主として生命や自然,崇高なものとの関わりに関すること
- 19 生命の尊さ
- 20 自然愛護
- 21 感動,畏敬の念
- 22 よりよく生きる喜び
- 4章 指導計画の作成と内容の取扱いのポイント
- 指導計画作成上の配慮事項
- 1 指導計画作成の方針と推進体制の確立
- 2 全体計画と校長のリーダーシップ
- 3 特色のある全体計画例
- 4 年間指導計画の意義と内容
- 5 年間指導計画作成上の創意工夫と留意点
- 6 特色のある年間指導計画例(低学年)
- 7 特色のある年間指導計画例(中学年)
- 8 特色のある年間指導計画例(高学年)
- 道徳科の指導
- 9 指導の基本方針(道徳科の特質)
- 10 道徳科の学習指導案
- 11 道徳科の特質を生かした学習指導
- 12 多様な教材を生かした指導
- 13 体験の生かし方を工夫した指導
- 14 各教科等と関連をもたせた指導
- 15 道徳科に生かす指導方法の工夫
- 指導の配慮事項
- 16 道徳教育推進教師を中心とした指導体制
- 17 道徳科の特質を生かした計画的・発展的な指導
- 18 児童が主体的に道徳性を養うための指導
- 19 多様な考え方を生かすための言語活動
- 20 問題解決的な学習など多様な方法を取り入れた指導
- 21 情報モラルと現代的な課題に関する指導
- 22 家庭や地域社会との連携による指導
- 道徳科の教材に求められる内容の観点
- 23 教材の開発と活用の創意工夫
- 24 道徳科に生かす教材
- 5章 道徳科の評価のポイント
- 1 道徳科における評価の意義
- 2 評価の基本的態度
- 3 道徳科に関する評価
- 4 道徳科の授業に対する評価
- 5 評価の様々な方法
- 6 評価の工夫と留意点
- 7 指導要録・通知表への記入
- 6章 指導と評価まで分かる道徳科新授業プラン
- 1 児童が自らの課題や目標を見つける道徳授業
- 2 言語活動を充実させた道徳授業
- 3 問題解決的な学習を取り入れた道徳授業
- 4 体験学習等との効果的な関連を図った道徳授業
- 5 情報モラルを取り扱った道徳授業
- 6 現代的な課題(食育)を取り上げた道徳授業
- 7 現代的な課題(貧困)を取り上げた道徳授業
- 8 家庭や地域社会と連携した道徳授業
- 9 多様な教材を活用した道徳授業
- 10 いじめ問題を取り上げた道徳授業
- 付録
- 執筆者紹介
はじめに
子どもたちは一人一人が自らの命を輝かせて,よりよく生きたいと願っている。道徳教育は子どものその内的な力を信じ,活力ある生き方を応援する教育である。子ども一人一人の人間形成にかかわることは,学校教育に携わる私たちの重要な責務であり,大きな喜びでもある。
しかし,その道徳教育が,学校の教育活動の中で必ずしも十分にはその機能を発揮し得ていなかったのではないかと言われる。昭和33年に戦後型カリキュラムの中に特設された道徳の時間は,半世紀を超えて60年にもなろうとする経年変化の中で,ややもすると劣化し,その弾力性を失っているのではないかと指摘されて久しい。
しかも,子どもたちの生徒指導上の問題行動等の深刻さが低年齢化しつつある。例えば,平成27年に公表された文部科学省の調査においても,いじめの認知件数は,小学校のみが増加傾向を見せ,過去最高の件数を示したという。子どもたちの心の問題が様々に深刻化する中,私たち大人が責任を担う道徳教育も有効な手を打つことができず,その閉塞感を打ち破ることができない状況が続いてきたとも言えるのである。
そのような懸念の中,平成27年2月4日のまさしく立春の日に,「特別の教科」としての道徳科の位置付けを含む改正学習指導要領の案が公表され,新学期を直前にした同年3月27日に告示された。文字どおり,道徳教育に新たな風が吹き込まれ,萌えいずる春が訪れたと言ってもよい。
変化のときは,絶好の機会でもある。
この道徳教育史上の大きな変化の機会を大変な事態だと後ろ向きで受け止めていては,そこからは何も生まれない。むしろ,この機会は大きなチャンスなのである。今までのよさを基盤としつつも,改善すべき事項を課題として押さえ,新たな趣旨に基づく道徳科を中核とした道徳教育の可能性を広げ,その地平を切り開くときがきたのである。
そして,開拓的な取組こそが,よりよい変化への力となる。
子どもはよりよい生き方を自己の中で多面的に希求し,生き方の選択肢を多角的に広げて,しなやかな心でより豊かで力強い自己を実現しようとしていく。道徳教育は,そのような子どもの力を信じ,伸ばす教育である。だからこそ,私たちも,子どもの多面的な思考を促し,多角的な生き方の選択肢を受け止め,さらに的確に自己決定できる子どもの主体的な意志と,協働的な学び合いの場を,まさに柔軟に作り上げていかなくてはならない。教育課程全体の改訂に一歩先んじて改正された道徳教育及び道徳科の指導は,教育課程改善の重要な方向である能動的な学習,いわばアクティブ・ラーニングを実質化していくための先陣を担っているのである。
道徳教育の充実は,「特別の教科」としての道徳科の質的改善を見据えた取組がその中心になる。そして,それは,各学校での多彩な取組が展開されてこそ実現する。そのためにも,学習指導要領改正の趣旨を的確に理解することから出発することが重要にある。
本書は,改正小学校学習指導要領に描かれた道徳教育及び「特別の教科」としての道徳科の新たな趣旨やポイントについて,道徳教育に課題意識を強くもつ研究者や,授業実践家の力を凝集して,分かりやすく,しかも活用しやすいように腐心して整理したものである。これらが,日々道徳教育に取り組む各所で活用されることを期待している。そして,本書がこれからの道徳教育の共通の基盤を作る一助にでもなればこの上ないことである。
平成28年1月 /永田 繁雄
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