- はじめに
- 1年
- 正の数と負の数
- きれいな式なんてどこにある?
- 絶対値は絶対ホントの値?
- 累乗と指数は同じもの?
- −3^2は,「マイナス3の2乗」と読むから,(−3)×(−3)でいい?
- 負の数のありがたみが感じられないんだけど…?
- 文字と式
- 代入は代わりに入れること?
- 1次式のひき算ではなんで各項の符号を変えるの?
- 通分するとなんで急に括弧が出てくるの?
- 1次方程式
- 式を整理するときにはなぜ,式を何倍かしてはいけないの?
- A=BからB=Aは言えるけど,移項のきまりと矛盾しない?
- いつですかという問題で,−4年後と答えてはいけないの?
- わざわざ方程式を立てる必要があるの?
- 比例と反比例
- 変人が変な人なら,変数は変な数?
- y=a/xは反比例なのにaをどうして比例定数と言うの?
- なんでグラフをかかなきゃいけないの?
- xが増えるときにyが減るから,yはxに反比例する?
- 双曲線って反比例のグラフのこと?
- 平面図形
- 作図の仕方がたくさんあってごちゃごちゃになるんだけど…?
- 円の接線の作図では,その点だけ通るように直線を引いていい?
- 対称の軸って掛け軸のようなもの?
- 空間図形
- 立って上から見た図なのに平面図?
- 正多面体の定義はなんでこんなに面倒なの?
- ねじれの位置は直線がねじれているの?
- データの分析と活用
- 代表値と度数分布表は小学校でもやったけど…?
- 階級って上流・中流・下流ってこと?
- 2年
- 式と計算
- 単項式を単項式で割る方法が2種類書いてあるのはなぜ?
- なんで整数が連続するの?
- 「nを整数とすると,偶数は2nと表せる」ってどういうこと?
- 2桁の自然数を文字で表す方法を見つけるにはどうしたらいい?
- 連立方程式
- 2元1次方程式の答えって何?
- 文字を消去するって,文字のデータを消すこと?
- 1次関数
- 変化の割合の増加量は大きい方から小さい方をひけばいい?
- y軸の正の方向って何なの?
- 2元1次方程式,1次関数,ax+by=cは同じもの?
- 1次関数が何の役に立つの?
- 平行と合同
- 同位角はいつも等しい?
- 平行線の性質って平行線の性格のようなもの?
- 内角が内側の角なら,外角は外側の角?
- 「2辺と1つの角が等しい」はなぜ三角形の合同条件にならないの?
- 三角形と四角形
- 図は自分でかいた方がいいって言われるけど,なぜ?
- 紙を折り曲げて示すのは証明とは言えないの?
- 正三角形はなんで二等辺三角形と言っていいの?
- どうして直角三角形の合同条件を考える必要があるの?
- データの分布と確率
- 確率ってつまらない…何が面白いの?
- 2枚のコインを投げる問題でコインを区別するのはなぜ?
- ヒストグラムがあれば箱ひげ図はいらないんじゃない?
- 3年
- 式の展開と因数分解
- 計算練習ばかりでつまらない…どうすれば面白くなる?
- 因数分解はなんでやる必要があるの?
- 平方根
- aの平方根と√aは同じもの?
- 無理数って「もう無理!」ってこと?
- √の中を簡単にする計算をどうすればいい?
- √2+√3=√5になる?
- 2次方程式
- x^2=2x。両辺をxで割ってx=2。これでいい?
- 2次方程式が何の役に立つの?
- 関数y=ax^2
- 関数y=x^2は身近なところにあるの?
- 放物線の先は頂点というから,グラフはとんがるようにかく?
- 関数の最大値って,xが最大になるときのyの値のこと?
- 関数y=x^2の最小値は0だけど,最大値は何?
- 変域のある関数y=ax2のグラフでは,なんで点線を使うの?
- 平均の速さは速さの平均?
- 相似な図形
- そもそも拡大とか縮小って何だっけ?
- 三角形の相似条件をどう覚えたらいい?
- 相似の証明への苦手意識をどう解消すればいい?
- 相似比1:2なら面積比1:4になるのは当たり前じゃない?
- 円
- 突然円の話が出てきて,なんか難しくない…?
- 鈍角の場合でも,円周角は中心角の半分と言っていい?
- 円周角の定理の逆って,円周角の定理を逆さまにしたもの?
- 三平方の定理
- 三平方の定理は直角三角形のときしか使えない?
- 空間図形に応用する問題をどう解けばいい?
- 標本調査
- 集団の傾向を調べるには,全員を調べた方が絶対いい?
- 無作為に抽出するって,無心になってくじを引くってこと?
- どうして高校でも数学を勉強しなくちゃいけないの?
- おわりに
- 参考文献
はじめに
本書は,中学生の困りごとや誤った思い込みに応え,授業を楽しい時間にしたいと考えている先生方のために書いたものです。3年間の単元の主なトピックを取り上げ,難所のくぐり方や授業づくりの工夫をまとめています。
心がけたのは生徒のつまずきの石を拾うことです。生徒は新米です。先達の先生からすると,そんなところでつまずくのかと思われるような,つまずきの石が足元に転がっています。初めて歩く道,初めて登る山。ちょっとしたことでとまどったり,不安になったりするでしょう。
つまずきの石は授業を変えるチャンスにもなります。初めて行った公園。どんな遊び場があるのかという,ドキドキ感があったはずです。つまずきの石を手に取り,忘れかけたドキドキ感を呼び起こすことができれば,形式にとらわれた授業から解放される糸口が見えてくるでしょう。
石はどこで見つかるのでしょうか? 今回私は,3つの場所でつまずきの石を探してみました。
1つめは,言葉への注目です。
数学は,言葉としての性格をもっています。固有の用語や言い回しがあり,文法があります。他の教科と比べても,数学は,概念で定義することでより抽象的な概念を導入していく性格を強くもっています。
数学の言葉としての性格は,生活や日常との関わりの点でも重要です。私は小学校5年生のときに福井から佐賀に転校しました。最初,特徴的な九州弁がわからずとまどいましたが,それは友達と遊んでいるうちに慣れました。
すっかり土地の人になったと思い込んでいたとき,教室で先生が「机を直して」と言いました。私は,机のどこかが壊れているのかときょろきょろ,あたりを見回しましたが,そんなことはない。周りの子たちはさっと,机の上の物をしまっていました。
土地の言葉で「直す」とは片づけることを意味したのです。一番厄介だったのは,方言と思えない方言でした。それと同じように,日常用語のようでいて,特有な意味をもつ数学用語はないか? 『広辞苑』『漢字ときあかし辞典』『字通』などの助けを借りて探してみました(これらの書誌は参考文献一覧をご覧ください)。
つまずきの石を探す2つめの場所は,生徒の困りごとです。
生徒の素朴な疑問にもいろんなものがあります。一番厄介なのは,これが何の役に立つの? というものでしょう。○○に役に立つという答え方もありますが,私自身は,この問いは,必要がなければ,数学から離れたいというメッセージとして受け取っています。数学の時間を面白くするのが正攻法だということです(その面白さの中には,数学と社会生活・職業生活との関連も含まれます)。
授業を面白くするヒントも数学の性格にあります。それは,数学の科学としての性格です。数学はパターンの科学と言われます。数学という言葉で探っていく現象には規則性があります。そこに着目すれば,単に言葉に慣れていく学習ではなく,関係を探究する学習が組織できます。現象を説明する仮説を立て,それが本当かどうか確かめていく―それは,ドキドキする楽しい時間になるはずです。
現象を説明しようとする生徒も,何らかの理屈をもっています。私自身は工作用紙とハサミを使った先生向けのワークショップが大好きなのですが,そんな道具立てを使わなくても,先生の中に柔らかい構えがあれば,生徒の素朴な思いつきや理屈をつなぐことで,ダイナミックな授業がつくれます。本書では,教材を紹介すると同時に,生徒のメッセージを読む構えについても考えます。
つまずきの石を探す3つめの場所は,教科書です。
教科書には,教師が授業で使う教材としての性格と,生徒が一人で読んで理解できる自習書としての性格があります。テスト前に復習したい生徒からすると,模範解答が整理して書いてある教科書は便利です。それが自習書としての性格です。しかし,先生が授業中に教科書の模範解答をそのまま繰り返したら,およそ面白い授業にはならない。つまり,教科書のこの2つの性格は相反することがあるということです。この相矛盾する性格を帯びた教科書に対して,私たちはどのように向き合えばよいのでしょうか?
鍵は,実践記録としての教科書の性格です。教科書は,定義や模範解答が書いてある数学書のようでいて,これまでのいろんな先生方の実践の蓄積が込められた実践記録でもあります。ですから,教科書を深く読めば,教科書として整理される前の様々な試行的な実践が浮かび上がってきます。教科書を深く読む?―どういうことでしょう。これを考えながら,つまずきの石を見つけていきます。
これまでお会いした先生方と学生さんに感謝します。私は,10年以上にわたり,東京都教職員研修センターの研修の講師を務めてきました。そこでの議論や大学での授業,阿原一志先生(明治大学総合数理学部)との議論が本書のもとになっています。また,草稿はいろんな先生方に読んでいただきました。菅達徳先生(明治大学付属中野中学・高等学校),桜井恵子先生(小田原短期大学),島智彦先生(神奈川学園中学・高等学校),日頃仕事で数学の思考法を活用しているという弁護士の寺尾幸治さん(みなと協和法律事務所)から貴重なコメントをいただきました。家族にも読んでもらいました。本書が読みやすく,有意義なものになっているとしたら,皆様のおかげです。そして,明治図書の赤木恭平さんにも大変お世話になりました。生徒の素朴な疑問から,数学の世界に入っていく―本当に取り組みがいのある,刺激的なテーマだと思います。
2022年3月 /佐藤 英二
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- 明治図書
- 子どもならこう考えるなぁと自分の中にない発想がたくさんあった。2023/8/420代・中学校教員
- 授業づくりの参考になりました。2023/2/2220代・中学校教員
- 好奇心をくすぐる内容が良かった。2022/9/2650代・中学校管理職
- 普段何気なく教師が分かっていると思い込んでいる生徒の困り感に気づかせてくれる一冊です。新たな教材を捉える視点を与えてくれます。2022/9/460代・中学校教諭
- 小見出しのタイトルが面白い。2022/4/1530代・中学校教員