- はじめに
- 見直し編 作文指導のつまずきに迫る
- 1 学校でなぜ「作文」をするのか?
- 作文は,振り返り指導の一環
- 学習権とは,読み書きの権利である
- 「書くは,考えるだ」
- 2 作文の「指示」は適切か?
- 書かせるための,最低の指示
- 「副詞に逃げる」指示
- 先生が好きに書いていいって言ったじゃん!
- 3 書くことを指導しているか?
- 読み書きそろばんって何?
- 文章を書くって何?
- 書くって,実は簡単なことじゃない
- 4 「誰が,いつ,どこで」指導するかが定まっているか?
- 国語科が指導した後に,作文を書かせる
- 原稿用紙の使い方?
- ローカルルールの調整をする
- 5 「文章の種類」を押さえているか?
- なぜ,伝える文章の書き方を学校教育でするのか?
- 「伝える」の3つの考え方
- 伝えるための文章は3種類ある
- 6 「美しい文字・正しい漢字」指導をしてはいないか?
- 歓声を上げた子供たち
- 池田少年の場合
- 文字の指導を作文指導から切り離す
- 7 作文の「基礎体力」を測定しているか?
- 小論文を書く時に,最初にすることは?
- 自分の今の力を知る
- 準備→執筆→見直し
- 8 作文を1人の作業にしていないか?
- 編集者のサポートを受けて原稿は書く
- 子供には,編集者がいない問題
- 大学の卒論指導でも実施
- 対策編 作文指導を変える実践法
- 子供が作文を書けない4つの理由
- 4つの理由の正体
- 4つの理由をどうやって手に入れたか
- 「なぜ書けないの?」は実は,NGワードだった
- WhyをWhatに変える
- 子供たちの声を理解するとは
- 対策@ アイデア出しを支援する
- 実践法1 単語のメモ
- お話タイムを設定する
- 体育大会が終わった帰りの学活で
- メモをもとにお話タイムをさせる
- 実践法2 イメージの花火
- イメージの花火を理解し,練習をする
- イメージの花火のやり方
- マインドマップとの違い
- メモとの違い
- 実践法3 書くための「素材」の吟味
- 素材を選ぶ
- 素材を選ぶ観点
- 読者意識と目的意識
- 対策A 書き始めを指示する
- 実践法4 書き抜きエッセイによる書き始めの指導
- 子供に好きに書かせると,時間順に書く
- 書き始めにある矛盾
- 文集の作成
- 書き抜きエッセイ
- 書き抜きエッセイの廊下への掲示
- 読者が読みたくなる文章を書こう
- インパクト順で書く
- さらに工夫をしてみる
- 良いタイトルを付けるための練習方法
- ビーズ順で書く,謎かけで書く
- 最後を固定すると,説教臭くなる
- 対策B 作業の流れを明示する
- 実践法5 作文は料理に似ている?!
- たとえるということ
- 推敲は,味見では?
- 準備はどうなっている?
- 表にある言葉の解説1 準備
- 表にある言葉の解説2 制作
- 対策C 作業の目的・読者を設定する
- 実践法6 作文を書いて,読み合う
- 廊下に貼り出した後に考えたこと
- 鑑賞の時間があってもいいのではないか?
- 私の結論は,「授業中に読む」でした
- 何のために書くのか理由が分からない
- 実践法7 書き込み回覧作文
- 読みながら,書き込みをして,回覧するだけ
- 書き込み回覧作文をすると
- 負けた時の書き込み回覧作文は,実にいい
- 批判的なコメントもほしいという子供が出てくる
- 3年生最後の学活で
- 書き込み回覧作文のバリエーション
- 書き込み回覧作文までが,作文指導
- 書き込み回覧作文がもっている意味
- アンケートから授業づくりを考える
- アイデア編 今すぐ使える指導アイデア
- アイデア1 このタイトルなら読んでみたいコンテスト
- 読んでみたくなるであろうタイトルを考えさせる
- 正選句と逆選句を選ばせる
- 天地人の方式で選ばせる
- 振り返りをする
- アイデア2 コピー作文/キャプション作文
- コピー作文
- キャプション作文
- 非連続型テキストの読解
- アイデア3 調べて書く作文
- 文学史の履歴書
- デートのプランを立てる
- 「聖地巡礼」をする
- アイデア4 お神籤作文
- お神籤作文で解決できること
- お神籤作文のやり方
- お神籤作文の何がいいのか?
- 配慮すること
- アイデア5 ディバイスを使った作文
- タッチタイプを身につけさせる
- 便利な機能,ショートカットを教える
- 「作文は料理に似ている?!」の流れに従って書く
- アウトライナーやエディター
- 音声入力
- 校正
- 完成したら,共同編集して電子ブックに
- 共同編集
- 共同編集の注意点
- 電子ブックにする
- DTPにも挑戦する
- おわりに
はじめに
指導する先生が,作文の指導の仕方を知らない
「作文って楽しいね」
1人でも多くの児童・生徒*1が,この言葉を言えるようになってほしい。このような作文の授業を作り出せるようにと,大学で学生たちを指導しています。
しかし,作文の指導は難しいものです。理由はいくつかあります。ありますが,最大の理由は,作文の指導の仕方を指導者が知らないことでしょう。
私は,教員免許更新講習で「体験作文の書き方」という講座を担当してきました。その講習では,受講した延べ400人以上の先生方にアンケートを取ってきました。その結果,作文の書き方や,作文の指導の仕方を,大学や研修で習ったことがあるという先生には,お会いすることはありませんでした。
教師の仕事のメインは,授業をすることです。その授業では,習うものに関して「つまらない,分からない,できない」という思いをもっている子供が,「面白い,分かった,できた」になるように指導していきます。
授業では,泳げなかった子供が泳げるようになり,解けなかった問題が解けるようになり,歌えなかった歌が歌えるようになります。これは,指導者である教師が指導の方法を身につけているから可能になります。しかし,作文は指導者が指導の方法を知らないまま,指導しているという実態があきらかになりました。これはかなり問題ではないでしょうか。
また,面白い事実もあります。子供たちは,必ずと言っていいほど行事の後などに作文を書かされます。ところが,平成10年,平成20年,平成29年度版の,約30年間の小学校・中学校の学習指導要領には,「作文」という言葉は出てきません。それはなぜでしょうか。この解説は,本書の「学校でなぜ『作文』をするのか」でしていきます。そこにたどり着くまで少しお考えください。
「じゃあ,あなたは最初から作文の指導ができたの?」
…と思われるかもしれません。中学校の教員になった時,作文の指導法は,私もよく分かりませんでした。国語の教師なのに?ではなく,国語の教師だからだと考えています。
国語の教師になるには,国語が好きで国語ができることが必須です。小・中学校レベルの国語は,授業で教わらなくてもできる力をすでにもっています。作文も書けます。
そんな私が中学校の教師になった時,子供に国語に関して何が分からないかを確認すると,(え,そんなところが分からないの?!)ということがたくさんあったわけです。
そこから,私の作文指導の修行が始まりました
作文なんて指導を受けなくても書けていた私は,自分がどうやって書けているのかをメタ認知する必要がありました。また,子供たちの実態を観察し,問題を発見し,解決するための指導方法を開発することをしていきました。
私が児童・生徒・学生の頃は,自分自身では無自覚のまま,言語化されることなく,作文を割とうまく書き上げていました。しかし,教師は,それを言語化して,子供たちに説明できて,子供たちが書けるようにできなければなりません。それが教師の仕事だからです。
本書は,私が中学生への作文指導をどう開発してきたのかの過程に従って書き進めていきます。どうぞ,お付き合いください。
なお,GIGAスクール時代である今,子供たちの手元に文章作成のためのディバイスがあるのに,これを活用しないのは非常にもったいないと思います。本書は手書きの作文指導をベースに書いています。しかし,本書で説明していることは,様々なディバイスを使って作文をする時にも活用ができます。手書きにこだわることなくご活用ください。
演習1
では,早速演習を始めていきましょう。原稿用紙を用意してください。以下の指示に従って,作文を書きます。これは誰に見せる必要もありませんから,安心して書いてください。この後,作文の指導方法を考えていく上で大事な資料になります。書いて,取っておいてください。
@「まずは書いてみてください。テーマは,『夏休み』。時間は5分です。しっかり書いてください。終わらなかったら宿題ですよ。では,どうぞ」
執筆中
A「5分です。やめてください。では,隣の人と交換して読み合ってください。嘘です。やらなくていいです。これで演習を終わります」
演習2
@演習1で出された指示で,(それはちょっとおかしいんじゃないの?)と思った指示がありましたら,それを原稿用紙の裏側に書き出してください。いくつ書き出しても結構です。
準備は整いました。さあ,体験作文の指導の仕方について,学んでいきましょう。
本書を読み終えた時,みなさんが,
(ああ,早く子供たちに作文指導をしてみたい)
という思いになられたならば,私は幸せです。
そして,みなさんの教室から
「先生,作文って楽しいね!」
という声がたくさん聞こえることを願っています。
2023年1月 /池田 修
*1 児童・生徒のことを本書では,以下,子供と表記します。
本書でご紹介している資料は以下からダウンロードできます。
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内容 | ファイル名 | サイズ | |
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