- はじめに
- 第1章 保護者が“オニの心”をもつ背景
- 1 “オニの心”の背景は,人と人との「かかわりの糸」の弱さ
- 2 “オニの心”を引き起こす直接的な要因
- 3 自尊感情・ソーシャルスキルが低い理由と“オニの心”
- 4 子どもの自尊感情調査に学ぶ;保護者も「炭鉱のカナリア」
- 5 子どものソーシャルスキル研究に学ぶ;保護者も「自然な時間経過によってソーシャルスキルの獲得は促されない」
- 6 保護者の“オニの心”を前に覚悟が問われる
- 第2章 保護者が敵ではなく,味方になる「豆まき理論」
- 1 私の強み
- 2 「豆まき理論」とは
- 豆まき理論1 名前を大切にする
- 豆まき理論2 「現実の打ち出の小槌」を振る
- 豆まき理論3 最強・最高・「最幸」の言葉「ありがとう」をなじませる
- 豆まき理論4 一緒に子育てという「登山」をする
- 豆まき理論5 うまくやれているときを逃さず言葉をかける
- 豆まき理論6 笑顔をその瞬間につくる
- 豆まき理論7 「私」の思い・気持ちを語る
- 豆まき理論8 「手柄」はすべて保護者に返す
- 第3章 マンガでわかる保護者との関係づくり「豆まき理論」
- 第3章の読み方
- 保護者の“オニの心”を鎮め,良好な関係という“福”を呼ぶ
- 事例1 気になることがあると毎日のように学校に電話をする保護者
- 事例2 子どものクラスメイトへの不満の気持ちが出てきた保護者
- 事例3 多くのことを要求する保護者
- 事例4 大声・強い口調で不平・不満を伝える保護者
- 事例5 メールで悩み相談をする保護者
- 事例6 過剰な好意を寄せる保護者
- 事例7 他の保護者・教師の悪口を言う保護者
- 事例8 子どもを叱り続ける保護者
- 事例9 子どもの「気になる言動」を受け入れにくい保護者
- 事例10 子育てに自信をなくし,自分を責め続ける保護者
- 自分自身の“オニの心”を鎮め,笑顔・元気という“福”を呼ぶ
- 事例11 気がつくと保護者への愚痴を口にしている私
- 事例12 保護者に助言ばかりしている私
- 事例13 相性の合わない保護者を避けている私
- 事例14 保護者とのかかわりに悩み,教師として自信をなくしている私
- 第4章 私のとっておき「豆まき」エピソード
- 1 保護者Aさんとのかかわりエピソード
- 2 保護者Bさんとのかかわりエピソード
- 3 「モンスターペアレント」という言葉を忘れること
- 第5章 保護者対応に悩むあなたにおすすめの本―私の読書記録から
- 「I think の前には理論が必要」―理論を貯えるために
- 「自分の一番の応援は自分がする」―教師としての自分にエールを贈るために
- おわりに
- 参考・引用文献
- 第1章
- 第2章
- 第3章
はじめに
私の初単著…それは『時々,“オニの心”が出る子どもにアプローチ 学校がするソーシャルスキル・トレーニング』(2010)です。仕上がった本を手にしたときの喜びは今でも忘れられません。今回,“オニの心”シリーズ第3弾として,保護者とのかかわり方について提言する本書執筆の機会を与えていただきましたことに心より感謝申し上げます。
“オニの心”とは,「自分勝手な振る舞い,わがまま等」を指しています。私が,この“オニの心”を講演や著作の中で,紹介したり,活用したりするようになったのは,以前,某ドキュメンタリー番組で「出会った」ある住職の言葉がきっかけです。住職は,「子どもは素晴らしい思いやりの心を見せてくれる。しかし,オニのような悪魔の心もまた素直に見せてくれる。そのオニの心が暴れ出さないように「叱る」等,大人の支援が必要」と語り,その言葉に感動した私は,特に“オニの心”を「言葉の引き出し」にしまい,時々,出して使わせていただいています。
「人とかかわり,人を育てる。そして,自分もまた人として育ててもらう」…私は今,教師という仕事をそのように捉えています。これまで36年間,多くの子ども,保護者とのかかわりの中で,私はどれだけ多くの「やりがい」「感謝」等の恩恵を受けてきたか数えきれません。こうした教師という仕事に対する思いを,講義の中で学生に語っているからでしょう。講義後の振り返りシートに,「私も教師を目指したくなりました」「教師という仕事への愛がひしひしと伝わってきます」等の言葉を見ることも多く,私は今も教師であることの幸せを日々感じています。
しかしながら,昨今,様々なメディアを通して見聞きする,教師という仕事に対するイメージは明るさ・輝きが減ってきているように感じます。さらに,以前に比べ,学級構成人数は少なくなり,手厚い教育ができそうな状況にもかかわらず,「授業中,立ち歩く子ども」「ガラスのように割れやすい心の子ども」「要求の多い保護者」「学校・教師不信の保護者」…等々の悩ましい問題により,心身に不調をきたす先生方が増えているのも悲しいことです。
このような学校現場の状況を前に,教師であり,研究者でもある私は何ができるのか。先生方を応援する者の1人として,私ができることの1つが自分自身の体験を整理し,言葉として先生方に届けることではないかと考え,まとめたのが,“オニの心”第1弾『学校がするソーシャルスキル・トレーニング』(2010),第2弾『気になる子に伝わる言葉の“番付表”』(2013)の2冊です。そして,第3弾である本書は,保護者とのかかわり方について,私の考えを整理した内容となっています。私は担任として多くの保護者とかかわってきましたが,すべての方と良好な関係をつくることができたわけではありません。私からすれば,「勝手だなぁ,わがままだなぁ」と感じるような“オニの心”が強く出ていた保護者とも出会いました。悩みながら,なんとか倒れずにかかわりを続けられたのは,周りの先生方から多くのサポートを受けたからであったと振り返っています。もし,今の私が当時に戻るならば,これまで学び続けてきた教育カウンセリングの理論・技法を駆使し,「“オニの心”が出た保護者にきっとうまく向き合い,かかわることができる」という思いがあります。そして,その思いを文章とマンガによって綴り,形にしたものが本書です。
本書のタイトルには「豆まき理論」という言葉を使っています。「オニは外,福は内」というかけ声とともに豆をまき,邪気払いする節分の「豆まき」になぞらえ,保護者の“オニの心”を鎮め,保護者との良好な関係という“福”を招くためのアプローチを「豆まき理論」と呼称することにしました。私自身の体験にもとづく14のエピソードを例示しながら,教育カウンセリング理論・技法によって整理した「豆のまき方」を読者の皆さんに提示します。皆さんと保護者に,たくさんの“福”が届きますように…。
/曽山 和彦
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- 明治図書
- 関連書籍や出典を明確にしているので、感情論や経験論に依っていないところがよい2021/2/520代・中学校教員