- まえがき ―社会科を限界教科にしないために―
- 第1章 新学習指導要領をどう読み解くか―授業づくりの観点から―
- 1 新学習指導要領 3つのポイント―これさえ押さえれば大丈夫―
- 2 中学校社会の目標・内容の主な変更点
- 3 評価への取り組みと課題
- 第2章 中学校社会 授業づくりの基礎基本
- 1 社会科授業づくりの基本原理
- 2 探究としての社会科授業
- 3 課題(問い)をどう設定するか
- 第3章 見方・考え方を生かした社会科授業づくりの方法
- 1 見方・考え方をどう捉えるか
- 2 見方・考え方を授業づくりに生かす方略―カリキュラムの構造化―
- 3 見方・考え方と教材・教具
- 第4章 地理的分野のポイントを押さえた授業づくり
- 1 地理的分野の授業づくりの基礎基本
- 2 新しい地理の内容を踏まえた授業づくりのポイント
- 3 世界の諸地域の授業づくり―「オセアニア州」―
- 4 日本の地域構成と領域の授業づくり―「領土問題について考えよう」―
- 第5章 歴史的分野のポイントを押さえた授業づくり
- 1 歴史的分野の授業づくりの基礎基本
- 2 新しい歴史の内容を踏まえた授業づくりのポイント
- 3 エンパシーに着目した授業づくり―「中世の日本 民衆の成長と新たな文化の形成」―
- 4 時代を大観する授業づくり―「中世の日本の大観」―
- 第6章 公民的分野のポイントを押さえた授業づくり
- 1 公民的分野の授業づくりの基礎基本
- 2 新しい公民の内容を踏まえた授業づくりのポイント
- 3 憲法学習の授業づくり―「憲法って何だろう」―
- 4 社会的論争問題の授業づくり―「沖縄の基地問題について考えよう」―
- あとがき
まえがき
―社会科を限界教科にしないために―
過疎化と少子高齢化の進展に伴い,「限界集落」(65歳以上の高齢者の割合が5割を超え,社会的な共同生活の維持が困難になった集落を指す。大野晃が提唱)なる概念は今や広く人口に膾炙しているが,近年はさらに「限界国家」(毛受敏浩が同名の著書で提唱。2017年刊行の朝日新書を参照)なる概念も出現し,移民政策に向き合おうとしない日本の内向き姿勢に警鐘が鳴らされている。最初にこんなことを述べるのは,社会科が少子高齢化に取り組むべきだといいたいからではない(無論,その必要性はいうまでもないが…)。むしろ,社会科自体が今や「限界教科」になりつつあるのではないかとの危機感を伝えたかったがために他ならない。それは一体どういうことか。
例えば,高等教育では,2015年に下村文科大臣(当時)が全国の国立大学長に対し,人文社会系学部・大学院の廃止ないしはより社会的ニーズの高い領域への組織改編に努めるよう通知したことは記憶に新しい。この背景に,産業界の要請があったのは確かだが,他方で学生の人文社会系離れが進んでいるのもまた疑うことのできない事実である。ことは日本だけに限らない。米国の有力大学においても,経営学を除けば,文学,哲学,歴史学,政治学等の人文社会系学科の人気はきわめて低いといわれている。
初等・中等教育においても事態は変わらない。児童・生徒の選択のせいではないとしても,従前の国語と算数・数学を重視する傾向に加えて,近年は道徳や外国語の教科化や理数教育の重視に伴い,ますます社会科の地位が低下している感は否めない。今や,小学校の研究会で社会科を取り上げる事例はほとんどないのではなかろうか。それにもかかわらず,例えば中学校の社会科や高校の地理歴史科・公民科では,依然としてトーク&チョークの授業が幅をきかせ,教師は教科書を漏れなく教えることを最優先し,生徒もまたテストのために文脈を無視した一問一答式の用語暗記を当然視している。そして,世間では社会科は暗記教科との見方が広く共有されるに至っている。これを「限界教科」といわずして,他に何と表現できようか。
国語や数学は日常生活のツールとなる読み書きや計算を学ぶという意味で用具教科といわれるのに対し,社会科や理科は地理・歴史や生命・物質等を学ぶことから内容教科といわれる。それゆえ,どうしても地理学・歴史学・生物学・物理学等の学問の論理が優先されがちで,例えば歴史を取り上げれば,日本史・東洋史・西洋史のどれもが重要であり,また近現代史のみならず古代史も中世史も近世史も欠かせないと考えてしまう。その結果,小・中・高と3回にわたって日本史の通史的学習を繰り返すとともに,高校の世界史では日本と全くつながりの感じられないような地域世界の歴史を学ぶという奇妙なカリキュラムが一般化しても,誰も不思議に思わないのである。
だが,学問の成果を尊重することと,教育の論理を生かすことは,本来矛盾しないのではないか。問題は,教師やそれを取り巻く世間の人々が,教育の論理を十分に意識せず,例えば歴史なら古い方から順に教える,各時代を飛ばすことなく通史的に教える,といった旧来のやり方に安住して疑問を抱かないことにあるのではなかろうか。教育の論理とは,「どんな人間を育てるのか」ということに尽きる。目指すべき人間像を描き,その育成のために地理なり歴史の何を,どう取り上げて教えればよいのかを考え,カリキュラムを構成するのである。つまり,目的ないし目標を考えることが,教育では何よりも重要になるのである。
その点で,今回の学習指導要領の改訂は画期的といえる。すなわち,「何ができるようになるか」という育成を目指す資質・能力を,広く社会と共有・連携しつつ明確化し,その上で「何を学ぶか」「どのように学ぶか」を考える,目標に導かれたカリキュラムの開発と運営・評価が奨励されているからである。まさしく,社会科を限界教科化から脱却させる絶好のチャンス到来といえるだろう。今こそ,「いつやるの?今でしょ!」の心意気で社会科の復活・再生を図りたい。本書がそのための一助となれば幸いである。
平成30年7月 /原田 智仁
また、指導要領のポイントを上手くまとめられていたので、後輩にも勧めたいと思う。
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