- まえがき
- 第1章 インクルーシブな国語科教育を考えるまえに
- 1 私が国語科教育に惹きつけられた理由
- 2 私がインクルーシブ教育に惹きつけられた理由
- 3 国語科とインクルーシブ教育のそれぞれの問題点
- 4 国語科とインクルーシブ教育の研究で生まれた自問自答
- 第2章 インクルーシブ教育とは何か
- 1 インクルーシブ教育が生まれた背景
- 2 日本におけるインクルーシブ教育の展開
- 3 合理的配慮とは
- 4 インクルーシブ教育をめぐる誤解
- 5 「学びへの参加」のインクルーシブ化へ
- 6 「学ぶ内容」のインクルーシブ化へ
- 第3章 「授業のユニバーサルデザイン」は答えになるか
- 1 「授業のユニバーサルデザイン」とは何か
- 2 国語科の「授業のユニバーサルデザイン」の特徴
- 3 国語科の「授業のユニバーサルデザイン」の問題
- 第4章 インクルーシブな国語科教育を構想する
- 1 人権、民主主義、反差別の原理
- 2 多様な感情や感覚の共有
- 3 「包摂」と「再包摂」
- 4 価値の追究過程
- 5 マジョリティの側の変革
- 第5章 国語科カリキュラムのインクルーシブ化に向けて
- 1 インクルーシブ化はどうあるべきか
- 2 国語科の目標を分解する
- 3 国語科のインクルーシブ化に向けた二つの方向性
- 第6章 国語科カリキュラムをインクルーシブ化する@
- ―「伝え合う力」等の文言を有効活用する
- 1 「伝え合う力」の経緯
- 2 「伝え合う力」をめぐる理論をインクルーシブ化する
- 3 「インクルーシブな伝え合う力」を獲得する授業へ
- 第7章 国語科カリキュラムをインクルーシブ化するA
- ―「我が国の言語文化に関する事項」と向き合う
- 1 「我が国の言語文化に関する事項」の経緯
- 2 「伝統的な言語文化」をめぐる学びの課題
- 3 先行研究に見るインクルーシブ化の可能性
- 第8章 インクルーシブな国語科授業づくりに必要な視座
- 1 国語科に関心がある/ない教員の包摂に向けて
- 2 国語科授業づくりに必要な三つの視座
- 3 インクルーシブな指導と評価の一体化へ
- 第9章 インクルーシブな国語科教育に残された研究課題
- 1 残された三つの研究課題
- 2 絵本を用いた授業開発・教材開発の研究へ
- あとがき
まえがき
皆さん、はじめまして。原田大介(はらだだいすけ)と申します。
本書の目的は、インクルーシブな国語科教育のつくり方や考え方を提案することにあります。本書の主な読み手には、小学校教員になることを希望する大学生の皆さんや、国語科授業をよりよいものにしようと考え始めている若手の先生方を想定しています。
「インクルージョン(inclusion)」とは、日本では「包容」や「包摂」などと訳されます。「インクルーシブな国語科教育」を言い換えるのであれば、「多様性を包摂する国語科教育」となります。より詳しく言えば、「多様な身体や生活背景のある子どもを含む、すべての子どもたちが参加できる国語科教育」や、「多様性をめぐる知識、技能、価値観、態度について学ぶことができる国語科教育」といった意味になります。
本書において「インクルーシブな国語科教育」という概念を打ち出した背景には、国語科教育の現状に対して、エクスクルーシブな側面を見出すことができるからです。「エクスクルージョン(exclusion)」とは「排除」を意味します。つまりは、「多様な身体や生活背景のある子どもが学びに参加できない国語科教育」や「多様性をめぐる知識、技能、価値観、態度について学ぶことができない国語科教育」が、今日なお続けられている、ということです。
「国語科」という名前のもとに行われる一つひとつの授業を、多様性を包摂するものへと変えていきたい。そして、子どもたちには、ことばを学ぶことを通して、自分自身の生きづらさを見つめたり、生きづらさを生み出す社会問題や社会構造を考えることができるようになってほしい。このような思いから、本書が生まれました。
本書は全9章からなります。どこから読まれても内容が理解できる構成にしていますが、筆者の研究の経緯や思いを記した第1章は本書の軸に位置づくものであるため、はじめに読むことをお勧めいたします。
その上で言えば、国語科教育を専門とする研究者や大学院生の方、インクルーシブ教育をより専門的に学びたいとお考えの方は、第2章からお読みください。学術図書や学術論文を多数引用して論を展開しているため、読み応えのある内容になっています。
先生方の中で、国語科の授業研究の考え方を早く知りたい、という方は、第6章や第7章からお読みになるとよいでしょう。インクルーシブな国語科教育を構成する考え方や授業のつくり方を確認できます。
教員養成系の大学生の皆さんや、就任一年目の小学校の先生においては、第8章から読むことをお勧めします。この章では、インクルーシブな国語科授業づくりに必要な考え方について、かなり思いきって集約しています。国語科教育にそこまで関心のない方でも、授業づくりのポイントがイメージできると思います。
少しでも興味のある章から読んでいただければ幸いです。
本書が、教育現場に携わる若手の先生方や、先生になろうとしている大学生の皆さんの国語科教育観を見つめる一助になれば、これにまさる喜びはありません。
※本書で登場する子どもたちの名前はすべて仮名です。個人情報の観点から、本人を特定できない範囲でエピソードの一部を修正しています。
※本書では、障害の要因は皮膚の内側ではなく外側にある(個人の側にあるのではなく社会の側にある)という「社会モデル」の考え方を採用しているため、「障害」という漢字表記で統一しています。
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- 明治図書