- はじめに
- ―教育制度(変革)は教育現場から!
- Chapter1 7人に1人の子どもが貧困?
- ―社会的・職業的自立に関わる学校課題―
- 子ども健全育成支援員の3つの役割と4つの業務
- 貧困の連鎖
- 子どもの貧困対策推進と連携
- 社会的・職業的自立に関わる相談事例
- 社会的・職業的自立に関わる学校課題
- Chapter2 主体的な18歳を社会に送り出すための 学校コーディネート5つの提言
- 持続可能な社会の担い手づくりを
- 提言1 「学び」の作戦を変更する
- 01 先生のOS(オペレーティング・システム)を更新する
- 02 学習者主体の学びへの転換を図る
- 03 これまでの経験を活かす
- 提言2 学園祭や学校行事を充実させる
- 04 学園祭を学校・学級づくりの装置とする
- 05 出会いが感動と関係を生み出す
- 06 価値を高め,外とつながる
- 07 点は打ち続けると線になる
- 08 社会問題と向き合う〜学園祭テーマ企画〜
- 提言3 体験学習を充実させる
- 09 今の子どもたちにこそ必要な体験活動を実施する
- 10 地域と関わる社会体験活動を促進する
- 11 自然体験活動を設定する
- 提言4 新しいパートナーシップを結ぶ〜持続可能で包容的な学校・地域づくり〜
- 12 教育と福祉の連携・協働を進める
- 13 子どもを中心にあるべき地域社会をデザインする
- 提言5 子どもを社会全体で育む
- 14 「私は関係ない」と思わない
- 15 大人が信頼されるよう子どもと向き合っていく
- Chapter3 小学校・中学校・高等学校 キャリア教育支援の実践アイデア
- 子どもたちに「出会いと挑戦」の場を
- 小学校(1)
- 01 アイシン環境学習プログラム
- 小学校(2)
- 02 モノづくり魂浸透事業(学校派遣事業)
- 中学校(1)
- 03 ライフイベントコストゲーム
- 中学校(2)
- 04 池田中学校「池中15のREAL」
- 高等学校(1)
- 05 学校法人黄柳野学園黄柳野高等学校「プロジェクトT」
- 高等学校(2)
- 06 キャリア教育ネットワーク協議会「PBL」
- おわりに
- ―「子ども」を中心にOSを更新していく!
はじめに
―教育制度(変革)は教育現場から!
今の学校教育は,平成25年から開催され,令和2年8月で第47回を迎えた教育再生実行会議の提案を中心に,教育改革の具体化が進んでいる最中です。その教育改革が反映された学習指導要領が,今年度から小学校でスタートし,来年度に中学校,再来年度に高等学校で全面実施されていきます。今年度は,新型コロナウイルス感染症拡大により世界規模で学校教育に限らず,感染拡大防止やその対応に追われています。そしてもう一つ,現在先進諸国にも広がる社会格差が重要課題とされています。
今の日本は,先進諸国の中でも最も高い貧困率(相対的貧困)※1を示すグループに属し,7人に1人の子どもが貧困に陥っているとされます。相対的貧困の問題は,災害や病気で家族が亡くなったり,家庭の事情で離別したりして,ひとり親で子どもを育てながら非正規で働かなければならなくなるなど,誰にでも起こり得るという問題だと捉えられます。こうした経済的困難は,子どもたちの学習や体験の機会を失わせ,学力の低下など様々な影響を及ぼし,進学率や中退率によって表れます。そして,また非正規雇用などの不安定就労を生み,世代を超えて連鎖していきます。こうした状況の中で,平成25年6月に子どもの貧困対策の推進に関する法律が制定され,厚生労働省や文部科学省,自治体などで,様々な取り組みがなされるようになりました。
例えば,「子ども食堂」という言葉をよく耳にするようになったのは,この頃からです。こうした取り組みが学校教育と連携し,子どもたちの学習体験の機会を保障し,学力だけでなく,文部科学省のいう「生きる力」をしっかり育まなければ,貧困の連鎖は止められないでしょう。
言うまでもなく,こうした社会格差を生まない未来をつくるには,日々,子どもたちと向き合う先生と地域社会が協力して,子どもたちを育む地域・文化を創っていくことが必要です。教育制度としても,平成18年に教育基本法が大幅改正され,「生涯学習の理念」(第3条)と「学校,家庭及び地域住民等の相互の連携協力」(第13条)が新設されました。このことにより,より学校教育と地域が協力し合い子どもたちを育む環境が整備・強化されたと言えます。
このように,教育制度の改革は,子どもたちを中心とした,よりよい教育実践を推進するためのものでなければなりません。教育制度や学校の変革は,現場の実践とかけ離れたものや,子どもたちを中心とした考えとはまったく違う,選挙対策や予算の確保のためであってはなりません。将来を見据え,子どもたちをどのように育んでいくかを真剣に考えた結果,これまでとは違った価値観や方法が必要となったときに変革が起きます。
そうであれば,その変革は,国や行政からではなく学校現場から起きてくることが望ましいと考えられます。本書は,お読みいただいた先生や教育に携わる方などに何か新しいことに取り組んでもらうことを目的としているわけでも,学校や教育の課題を解決するためのノウハウを提供するものでもありません。課題先進国と言われる日本には,向き合っていかなければならない問題はたくさんあります。それらは,個人の意識の変革は必要ではありますが,個人で解決するには大きすぎるものです。
本書は,これから子どもたちを取り巻く環境の多様化を踏まえつつ,学校教育を中心に,未来につなぐ持続可能な社会の担い手づくりに向けて,提言と事例をまとめたものです。日本の教育を熱心に現場で支えていただいている皆様の気持ちの整理などに,少しでもお役に立てれば幸いです。
NPO法人アスクネット代表理事 /山本 和男
※1 「相対的貧困」とは,その国の文化水準,生活水準と比較して困窮した状態を指します。具体的には,世帯の所得が,その国の等価可処分所得の中央値の半分に満たない状態のことです。
特徴的な実践を沢山知れるという点はいいと思うのですが、それは持続可能な実践であるか、疑問に感じるものもありました。
また、カリキュラムにねじ込むために教科の時間を取るような事も書かれていたのは残念でした。