- はじめに
- 第1章 「子どもの論理」で創る書くことの授業とは
- 1 書くこと指導の壁と向き合う―3Nを理解し,3Nを乗り越える
- 2 書くこと学習の全体像―「書く意欲」を育てる書くこと学習の要点
- 3 書くことへのアプローチ
- @ジャンル意識を育てる
- A「読む」と「書く」を関連させる
- BPBLで書く―チーム作文の実践より
- 4 特別寄稿 詩を創作するということ
- 第2章 「子どもの論理」で創る作文コンテンツの授業
- 1 句読点の学習指導
- 2 会話文の学習指導
- 3 段落の学習指導
- 4 引用の学習指導
- 5 情景描写の学習指導
- 6 構成の学習指導
- 第3章 「子どもの論理」で創る文学的作文の授業
- 1 物語文(低学年)の学習指導
- 2 物語文(中学年)の学習指導
- 3 物語文(高学年)の学習指導
- 4 短歌・俳句の学習指導
- 5 詩の学習指導
- 6 随筆の学習指導
- 第4章 「子どもの論理」で創る説明的作文の授業
- 1 観察・記録文の学習指導
- 2 紹介文の学習指導
- 3 説明文の学習指導
- 4 報告文の学習指導
- 5 意見文の学習指導
- 6 批評文の学習指導
- おわりに
- 執筆者一覧
はじめに
1 子どもの「困った」に寄り添う
学校生活の中で,子どもたちは実にたくさんの「書く」機会がある。例えば,日記,行事作文,読書感想文など,年間を通じて「書く」機会は多い。しかし,これほど多くの機会があるにもかかわらず,その度に,困っている子どもたちがいる。作文用紙が一方的に配られ,そして,「なんでも良いから,自由に書きましょう」と教師に指示される。指示されてからの,書き始め約5分で,子どもたちの姿は,以下のような4つのグループに分類される。
@書くことが決まって,すらすらと書き出す子
A書くことは決まったが,どう書けばよいかで悩んでいる子
B書くことが決まらず,何を書こうかと考えている子
C書くことをあきらめている子
A〜Cの子どもたちは,書き始めの段階ですでに困っている状況にある。例えば,この4つのグループが均等の数だと仮定する。そう考えると,学級の4分の3の子どもたちは,困っている。子どもたちの「困った」に耳を傾けてみよう。困っている子どもは,きっと,こう言うだろう。
「何をどう書けばいいかがわからない。」
2 書くことは,考えること
これまでの「書くこと」指導では,生活作文や物語づくりなど,主に文学的文章を書くことが目的とされていた。文学的表現に価値が置かれ,生活の実感を率直に述べ,感動的な内容が重視されていたといえよう。
国語授業における「書くこと」領域が抱える主な課題は何か。以下のように,3つにまとめることができる。
A 書くことに対する子どもたちの抵抗感
B 指導の順序性の硬直化
C 生活文,虚構作文への偏重
Aについて,例えば,授業や課題で生活作文や随筆,紹介文や報告文等の書くことを取り上げたとしよう。すると,抵抗感や拒絶感を抱く子どもたちも少なくない。子どもたちの中には何を,どう書けばよいのかがわからない,紹介文と報告文の違いがわからないといった要因がある。しかし,それだけでなく,自然と書き始めることができるほど,「書くこと」が日常化されていないといった要因もある。
Bでは@題材設定や情報収集,内容検討→A構成検討→B考えの形成,記述→C推敲→D共有と,どの文種でも同じような順序で指導が行われていることである。指導の順序性が硬直化することにより,文種の違いもわからない,何を学んだのかがわからないまま活動に重きが置かれる。上記の5つの学習過程は,指導の順序性を示すものでは決してない。必ずしも順番に指導する必要はなく,文種や児童の実態に応じて入れ替え可能なのである。指導の順序が形骸化,硬直化してしまっていることに課題がある。
Cでは「書くこと」においてこれまで取り上げられていた内容の多くが生活文や物語づくりなどの虚構作文であったということである。案内やお礼の手紙といった実用的な文章,説明文を生かした論理的文章を取り上げることがこれまでは少なかったといえる。
では,学習指導要領で「書くこと」領域に求められているものは何か。中学年の「B書くこと(1)」を取り上げてみる。
ア 相手や目的を意識して,経験したことや想像したことなどから書くことを選び,集めた材料を比較したり分類したりして,伝えたいことを明確にすること。(下線部 筆者)
下線部に着目すると,論理的な思考力や伝え合う力の育成の観点から,学習過程において「比較・分類等」の学び方の育成を目指す資質・能力が具体的に付加されていることがわかる。学習指導要領を考慮すると,「書くこと」領域において,今後は論理的な思考力・表現力が問われてくる。そのためには,実生活で実用的な文章,論理的文章を系統的に継続して書く指導の必要性があるといえる。
「書くこと」は,書き手自身のものの見方・考え方が最も総合的に発揮される行為である。
書くことは,「考える」ことである。
ただやみくもに書かせるだけでは,決して書く力は育たない。また,単なる書き方指導のみにとどまらず,思考を巡らせ,他者とつながるためにも,書く力を育てたい。
3 子どもの論理で創る国語授業―「表現欲求」と「表現方法」を育てる―
家庭学習も含め,学校生活において,子どもたちは実にたくさんの「書く」機会がある。ことばに対する見方・考え方を働かせながら,内容や技法,構成などを活用して文章表現していくのだから,書くことは「考える」行為そのものでもある。
子どもたちの「書く力」を育てるために,「表現欲求」と「表現方法」をねらいとした指導が必要だと私たちは考えている。
「表現欲求」とは,「書きたい」という思いである。内容だけでなく,その思いが膨らんだときに,子どもたちは「書くこと」を通して表現する。日記などの家庭学習や業間指導などで継続的に取り組む中で,書くことは日常化され,欲求が高まるといえる。
また「表現方法」とは,知識・技能である。書く内容とともに,個々の思いを表現するのに方法は必要である。効果的な表現方法を授業の中で教えていく必要がある。
本書が明日の授業を変えるきっかけとなる1冊になれば幸いである。
編著者 /白坂 洋一
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