- プロローグ 教師になるまで
- Chapter1 新卒教師が過酷な現場に立ち向かうための成功法則
- 1 新卒教師と「困難な学級」の子ども達との出会い
- 1 提灯学校ー夜遅くまでの勤務が常態化
- 2 「学年主任用クラス」=「最も困難な学級」
- 3 出会いの日にした山の話
- 4 新卒の学級開き
- 5 日々起きるトラブル
- 6 ルールの確立で遅刻を激減
- 7 日々の生活場面での指導
- 8 授業がうまくいかない現実
- 9 研究授業で得た金言
- 10 授業の上手い、下手の違い
- 11 必要なのは情熱よりも教育方法
- 2 新卒教師の事件簿
- 1 真面目に見えた子ども達による「お菓子分け合い事件」
- 2 「くつかくし」からの再犯防止指導
- 3 新卒教師の失敗事例
- 3 新卒時代を終えて
- Chapter2 気になる子ども達に立ち向かうための成功法則
- 1 自信のもてない子どもへの対応
- 1 家まで迎えに行く日々
- 2 縦の関係を築き、その後に横の関係を築く
- 3 教師の意図的な支援
- 4 信頼できる友達ができるまでの苦悩
- 2 反省部屋で一人ぼっちの子どもへの対応
- 1 専門的な知識を学ぶ必要性に気付く
- 2 教師の指導を子どもに合わせる
- 3 ほめて見守る
- 4 反発する周りの子ども達への説明
- 5 「良い授業」が荒れたA君の解決策に
- 6 効果がなければ対応を変える
- 7 「ほめる」と「頑張る」の良いサイクル
- 8 油断から生まれた失敗
- 9 原因を教師に求める
- 10 子どもの可能性を信じることの大切さを学んだ一年間
- 3 荒れの収まらない子どもへの対応
- 1 自信を失っていた子ども
- 2 新学年に向けた準備と決意メモ
- 3 一年後の理想をゴールに合わせて考える
- 4 順調なスタートと一つの山場
- 5 無理は禁物
- 6 「先生、俺、すごく頑張っている」
- 4 「二度と学校には来ない」と言った子どもへの対応
- 1 不登校の原因は「学校自体が面白くない」から
- 2 家を訪ねる
- 3 登校へのハードルを下げる
- 4 昼からの登校と教室で起きた盛大な拍手
- 5 安心して過ごせるようにするための手立て
- 5 様々な子ども達との出会いが教師としての生き方を磨いてくれた
- Chapter3 授業における困難に立ち向かうための成功法則
- 1 挑戦するのを嫌がる子どもへの指導
- 1 「自分はできるんだ」ということを事実として示す
- 2 詩の暗唱で挑戦の場を与える
- 3 クラス全員の成功体験がみんなの自信につながる
- 4 子どもに夢(目標)をもたせ、達成させる
- 2 算数の学習を拒否する子どもへの指導
- 1 算数の苦手な子が多数いる学級
- 2 間違いの分析を行う
- 3 子どもの実態に合わせて教える
- 3 集団で学ぶ効果を高める
- 1 子どもの「わからないこと」や「間違い」を扱う授業
- 2 討論の授業
- 4 運動が苦手な子どもへの体育指導
- 1 具体的な事実の記録から上達方法を考える
- 2 パーツに分けた運動技能の習得と運動技能の連結〜走り高跳びの指導
- 3 根気よく取り組む細かいステップとできるようにするという決意〜二重跳びの指導
- 5 一人ひとりに最適な教育を目指す
- 1 一人ひとりに最適な教育を行う
- 2 学級の全員に対する「指導計画書」の作成
- 3 詳細な「目標シート」の活用
- 4 一人ひとりの思いや願いを実現するための指導力
- Chapter4 学級集団の荒れに立ち向かうための成功法則
- 1 どんな学級集団を育てたいか
- 2 現実の学級集団の姿
- 3 荒れた学級の立て直し
- 4 いじめや差別を許さない学級づくり
- 1 何気ない会話の中の差別
- 2 学級全員の問題として考えさせる
- 3 子ども達だけの真剣な話合い
- 4 全員参加で問題に立ち向かう
- 5 子どもの日記に書かれていた「差別」に対する考え
- 5 「学級風土」=「学級集団が共有している雰囲気」をつくる
- 1 新学期のはじめにつくりたい「風土」を子どもと共通理解する
- 2 マイナスの言動は、子どもの行動ではなく学級の雰囲気を変える
- 3 より良いプラスの雰囲気のつくり方
- 6 「学校は楽しい」と思えるイベントづくり
- 1 様々なイベントの機会を用意する
- 2 出し物大会に学年全体で出場
- 3 授業でイベントを仕掛ける
- 7 学級崩壊の立て直しに大切な「教育方法」と「子どもの意識改革」
- Chapter5 学校現場における問題に立ち向かうための成功法則
- 1 若い教師ほど学校現場のおかしさに気付いている
- 2 学校現場のおかしさ
- 1 おかしな提案
- 2 おかしな要望
- 3 突然の転校生
- 1 突然の連絡
- 2 転校までの出来事
- 3 抗議の電話
- 4 より良い教育を求めて
プロローグ 教師になるまで
私が教師になった頃、学校現場は、学級崩壊の嵐に見舞われていた。
小学校一年生の学級でも、学級崩壊は起きていた。
教師の指示が通らない。授業中も遊び回っている。
中には、教師に反抗し、暴言を繰り返す子もいる。トラブルを頻繁に起こす子もいる。
私のいた地域では、小学校一年生、五学級に対し、補助教員も合わせ、十名体制で指導を行う学校もあった。通常の二倍の人員配置である。
それだけ、小学校での学級崩壊は深刻化していた。時に、学年全体が荒れることもあった。
小学校一年生での学級崩壊は、日本の義務教育史上、初めての出来事であった。
一年生の学級で学級崩壊が起きるのだから、高学年の学級崩壊は、さらにすさまじい状況だった。対教師暴力・暴言や、器物破損など、様々な問題が日常的に起きていた。教室の窓ガラスは割られ、壁には落書きがあり、掲示物は破られ、教室の床はゴミだらけになっていた。
日本全国で、学級崩壊の現象が見られ、様々なメディアで報道されていた時代であった。現場は混乱していた。
さて、幼い頃の私の夢は、教師になることだった。
父も祖父も曾祖父も教師であった。また、他の親戚にも教師が多くいた。校種も、小学校から大学まで様々だった。そんな影響もあり、将来教職の道を歩みたいと、幼い頃から考えていた。
私が幼い頃、親戚が集まった席で、ふと尋ねたことがあった。
「将来、学校の先生になりたい。先生になったとき困らないよう、秘伝の書みたいなものをくれよ」
すると、一斉に笑い声が起きた。「そんなものはない」と言うのである。
私は、忍者や剣術家、戦国武将が子孫に残したように、何らかの秘伝書が教師の世界にもあると、当然のごとく思っていた。しかし、そんなものはなかったのである。
私はなお食い下がって大きな声で言った。「秘伝の書がないなら、自分のためにつくって、この家の宝として残しておいてくれよ」
「わかったわかった」、「そんなものが本当にできたら残しておくよ」、そう言われてその場は終わった。
それ以降、幼い私は、いつ秘伝書が渡されるか楽しみにしていた。正月、お盆と、親戚が集まるたびに、まだかと催促していたのである。巻物のような立派な秘伝書がもらえると思っていたのだ。
結局、その秘伝書は、つくられることもなく、私に渡されることもなかった。
私は教員として、四月に赴任する年齢になっていた。
私は、秘伝書のないまま、学級崩壊の嵐の中に身を投じていくこととなった。
私の長年の問題意識はここから始まっている。教師の世界に秘伝書がないのはおかしい。後世に伝えるべき「どの時代の教師にとっても大切な知恵」があるはずだと。
だからこそ今、後進に伝えたい知恵を、少しでも残したいと願っているのである。
本書では、私が現場に適応する中で起きた様々な出来事を、どう乗り越えたか紹介していく。
※本書は、既刊書『若い教師の成功術』(学陽書房)、『20代でプロの教師になれる』(学事出版)、『大前流教師道』(学事出版)、『教壇に立つのが楽しみになる修業術』(ひまわり社)を加筆・修正し再編集してつくられた「要諦集」である。
※なお本研究の一部は、JSPS科研費 JP20K03261の助成を受けて行った。
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