- まえがき
- 第1章 なぜ、その話し合いで「読み」は深まらないのか
- 01 他者と読むということ
- 02 交流の核となる問い
- 03 導入に求められること
- 04 読みを更新する話し合い
- 05 再考を促すための全体共有
- 第2章 話し合いで「読み」が深まらない全場面と解決策
- 話し合い前
- 01 何を問われているのかわからない
- 02 問いに対する考えがまとまらない
- 03 問われていることとは違うことを考えている
- 04 本文をほとんど読まずに考えている
- 05 交流前に考えを更新しない
- 06 問いを受け入れられない
- 07 交流に対する誤解がある
- 08 前時の学びを生かしていない @(内容)
- 09 前時の学びを生かしていない A(読み方)
- 話し合い中
- 10 友達の考えが理解できない
- 11 自分の考えを堅持する
- 12 安易に友達の考えに乗り換える
- 13 ナンデモアリになる
- 14 どんな反応をすればよいかわからない
- 15 自分の判断で交流に参加していない
- 16 話し合うことが目的になる @(運営・維持)
- 17 話し合うことが目的になる A(話し方)
- 18 話し合うことが目的になる B(論破)
- 話し合い後
- 19 教師自身の解釈で統制する
- 20 多様な考えに翻弄される
- 21 叙述の確認を怠る
- 22 叙述の確認に終始する
- 23 落とし所がわからない
- 24 特定の子どもの発言に頼る
- 25 他の役割に気づけない
- 26 オープンエンドに不安がつのる
- 27 書いてまとめさせることに固執する
- 第3章 話し合いで「読み」を深める授業モデル
- 1年 おおきなかぶ(光村図書版)
- 2年 お手紙
- 3年 モチモチの木
- 4年 ごんぎつね
- 5年 大造じいさんとガン
- 6年 やまなし
- あとがき
- 引用文献
まえがき
読むという行為は他者との対話を内包しています。ここでの他者とは、実体としての他者に限ったことではなく、読む対象としてのテクストが備えている他者であり、自己内に取り込まれる他者のことです。
テクストは忽然と姿を現すものではありません。社会文化歴史的な文脈の中に生成されています。テクストに投射された作家の断片は社会生活や時代の背景に紐づいています。また、生まれたテクストはメディアとして文化として位置づきます。一方、読み手はテクストをできるだけ妥当な形で読もうとしながらも、自身の実生活の経験や趣味嗜好、文化的な興味関心などを恣意的に持ち込んでいきます。さらに、時間によって私は次の瞬間、内的な他者に変わり、今の私と向き合うわけです。読み手によるテクストの対象化は、時空間を伴って恣意性・妥当性・他者性を付与することといえます。つまり、書き手もテクストも読み手も、他者と切り離された状況に立つことは不可能なのです。
読むことが個に閉じたものではなく、他者との相互作用を内包した行為であるならば、実体としての他者との協同的な学びが求められる教室ではなおさら他者の存在は重大なものになるでしょう。教室での読みでは、実体としての他者とのコミュニケーションが強調されやすいということです。
読みの学習における対話が多様な他者を対象としているならば、そこでの対話は「話し合う」という一言では言い表せるはずがありません。松本修は、読みの学習における自他の解釈の交換を巡る一連の営為を指して「読みの交流」と呼びました。読みの交流は、他者との相互作用を伴う言語活動です。
西田(2021)は読みの交流を次のように述べています(4頁)。
読みの交流は、複数の視点から検討し合う協同的な学びを構築する中で、教材テキストと他者の発話を一つの媒体(文化的道具)としながら、そこに新たな意味を付与することで自己内に対象化された文学テクストを創造する行為の集合体である。読みの交流での行為は、文学テクストとのかかわり、他者とのかかわり、自己とのかかわりという三つの位相があり、それぞれが社会文化的な文脈を形成している。
これは読みの交流を社会文化的な文脈から説明しようとしたものです。ここには、文学テクストを媒体とした読むという行為と他者の発話を媒体とした話し合いという行為を認めています。
このような背景から、本書では「話し合い」という用語を「読みの交流」と区別して扱っています。これは、読みの交流における話し合いがテクストに対する読みを更新するものであるためには、読みの交流がどのような言語活動であるのかを理解し、話し合い以外の部分を効果的に引き出すことも重要になるからです。
本書は三つの章で構成しています。第1章では読みの交流にかかわる理論的な背景を述べます。読みの交流における「話し合い」をいかにして充実させるか、という本書の趣旨に沿って、導入・話し合い・全体共有という学習活動を切り口にしました。
これを受けて第2章では学習場面を取り上げ、その背景にある問題の所在を明らかにしていきます。場面例は、話し合い前・中・後を区切りとしています。本書は基本的に学習者が学ぶ状況をデザインする教師の視点に立っています。ただし、第2章の各項タイトルは、話し合い前・中では教師を主語としたものになっています。これは読みの交流が導入での学習者の気づきから始まっていること、話し合いそのものに対する教師の働きかけが難しいことを示しています。だからこそ、教師は話し合い前・中の学習者の姿を具体的に想定し、導入や全体共有において、適切な手立てを用いる必要があるのです。
第3章では、小学校第一学年から第六学年までの文学教材を扱い、第2章で示している手立てを用いた学習デザインを提案します。各項の前半は教材の特徴や単元全体の構造についての説明です。後半は学習場面を取り上げていますが、紙面は単元の時系列ではなく、第2章に沿って話し合い前・中・後の順に構成しています。また、学習場面は想定される学習者や教師の発話を挙げながら学習デザインの意図や留意点を示します。
本書は、「理論と実践の往還」によって教室でのよりよい学びを追究するものです。教室での学びの実態は特定の理論で説明できるほど単純なものではありません。しかし、教師がそこへ用いる手立てには理論的な背景があってこそ持続的安定的なものとなります。だからこそ本書では、実践場面と国語科教育学における先行研究との結びつきを割愛することなく、読みの交流を充実させるための手立てを提案していきます。
2024年6月 /西田 太郎
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- 明治図書
- 読ませて、交流させても意見の紹介ばかりになってしまう。そんなとき、この本と出会いました。発問のあり方から、話し合い前後の留意点を項立てて詳しく書かれています。正直、この本を基に改善を図ろうとしても、まだ実現できていないのですが、授業を振り返る視点としては参考になりました。2024/10/2040代・小学校教員
- これは深い。じっくり読み返して「問い」について検討し,2学期に備えたい。2024/8/850代・小学校教員