- まえがき
- 第1章 子どもと社会をつなげる! 深い学びを実現する授業デザイン
- 1 自分は社会にどのようにかかわるのか
- 2 「見方・考え方」を鍛える教材づくりの視点
- 3 「主体的・対話的で深い学び」を実現する学習過程
- 4 選択・判断,参加をどう誘うか(体験,専門家)
- 5 「子どもの育ち」をとらえる評価の工夫
- 第2章 「見方・考え方」を鍛える社会科授業デザイン 小学校編
- 1 お店の人とかかわりながら販売について価値判断・意思決定をする活動を通して実社会とつながる社会科授業づくり
- ―小学校第3学年「はたらく人とわたしたちのくらし」―
- 2 教科横断的な学習から自分たちのできることを選択・判断し,未来を考える社会科授業づくり
- ―小学校第4学年「タイムスリップ―大和川をめぐる過去から未来への命のバトン―」―
- 3 現在の課題から未来の社会を考える社会科授業づくり
- ―小学校第5学年「2030年,未来の持続可能な社会を考える産業学習」―
- 4 世の中に興味がある学級の雰囲気の中で市民性の育成を志向する社会科授業づくり
- ―小学校第5学年「『わたしたちの国土』を中心として」―
- 5 子どもが主体的に取り組む小学校社会科の授業づくり
- ―小学校第5学年「わたしたちの食生活と食料生産―米作りのさかんな地域―」―
- 6 未来を「そうぞう」する子どもたちを育む社会科授業づくり
- ―小学校第6学年「核利用のあり方を考えよう」―
- 7 国際的イベント(オリンピックと万博)を切り口に,子どもと社会をつなぐ社会科授業づくり
- ―小学校第6学年「2025年大阪万博のテーマは?」
- 8 高齢世代と若者世代の立場から予算配分の選択場面を取り入れた(社会科)授業づくり
- ―小学校第6学年 総合「財政教育プログラム」―
- 第3章 「見方・考え方」を鍛える社会科授業デザイン 中学校編
- 1 オーストラリアが多文化社会の実現を選んだ背景をラテンアメリカの文化との比較で理解する地理的分野の授業づくり
- ―中学校第1学年 地理的分野「世界の諸地域―オセアニア州―」―
- 2 単元をつらぬく問いを立て,探究する地理的分野の授業づくり
- ―中学校第1学年 地理的分野「世界の諸地域―アフリカ州―」―
- 3 貨幣経済の発達を,自分たちの生活と関連づけて理解する歴史的分野の授業づくり
- ―中学校第1学年 歴史的分野「中世の経済と生活」―
- 4 問いの積み重ねと,単元を貫く課題の設定による,社会とのかかわりを意識した歴史的分野の授業づくり
- ―中学校第1学年 歴史的分野「武家政権の成立と発展」―
- 5 「景観」に込められた人々の意図を読み解く地理的分野の授業づくり
- ―中学校第2学年 地理的分野「近畿地方の街並みについて考える」―
- 6 自分自身と社会とのかかわり方を考える歴史的分野の授業づくり
- ―中学校第2学年 歴史的分野「ホロコーストにかかわった人々―もし,自分がホロコーストが起こった時代にいたら?―」―
- 7 経済の視点を取り入れ政策評価する歴史的分野の授業づくり
- ―中学校第2学年 歴史的分野「江戸時代の政策を評価しよう」―
- 8 SDGsの視点と視座から社会問題を発見,分析し,自分とのかかわりから社会的実践につなぐ公民的分野の授業づくり
- ―中学校第3学年 公民的分野「コンビニでチョコレートを買うわたし」―
- 9 自らの主張を多面的・多角的に考察する公民的分野の授業づくり
- ―中学校第3学年 公民的分野「社会保障―持続可能な社会保障の仕組みを考えよう―」―
- あとがき
まえがき
これからの社会に生きる子どもたちに
台風,高潮,噴火,地震。想定外の自然災害が全国各地で起こっています。経済社会面では,グローバル化の進展の中で,ナショナリズムが強化される矛盾が起きています。他方,IoTやAIの発達は,困難であった問題解決を瞬時に行う可能性を広げ,社会の変革を急速に進めています。このような状況に,社会科はどのように対応できるでしょう。
筆者(峯)は,長らく事実の詰め込み,暗記社会科の改善を目指して討論やディベート,ICTや学級集団での話し合いを取り入れたアクティブな実践を紹介してきました。それは学習者の価値観の育成や選択・判断を促し,社会への参加に結びつけることはできないかというメッセージを読者に届けたいという願いからです。子どもたちが大人になって,身近なボランティア活動に参加したり,将来,地域を支える職員として災害復興に奔走したり,中には報道にかかわって情報を伝えたりすることに,どのようにつなげていけばよいのかとも思います。それらは成長する中で,子どもたちが見つけていくことで,学校教育で教えるべきではない,そもそも資質・能力の育成と関係ないということなのでしょうか。未来を生きる子どもたちに対する,学校教育の教科としての社会科はどのように考えればよいのでしょう。
私と共に編著者である唐木清志氏とは,20数年来,選択や判断,社会への参加について,ときどき議論を重ねてきました。唐木氏からすれば,教育活動全体の中で,子どもの成長を支えるのであって,教科を越えた学びこそ本物であると首尾一貫しています。私は,その考えに同意しつつも,では,学校で長く教えられてきた社会諸科学の知識はどこまで必要とされるのかを自問自答してきました。恐らく,社会を知る・わかるということと,行動・参加の間をつなぐのは,体験を通した感情や共感,責任などの情意にかかわる領域でしょう。
このような考えを研究室で学生と共に,また小学校や中学校の附属学校の先生方や研究会で出会った多くの先生方と話し合ってきました。今回,ご執筆頂く先生方には,私のこれまでの考えや,学会において,価値判断や意思決定,社会参加について提唱されている理論に基づいて実践するのではなく,それらを契機としつつも,日頃の自分自身の問題意識から実践を振り返って,どのように考えるのかを示す形で,ご協力をお願いしました。なぜなら,読者の皆さんがそうであるように,実践者自身は,既に無意図的・意図的に自らが理想とする授業のスタイルをもっているからです。そして,自分自身の授業デザインに取り込めそうないい考えを見つけ,それを自分のものとして再構成して活かすアプロプリエーション(appropriation)をしているからです。
但し,執筆者の先生方にはできる限り,その学習によって,子どもたちの何がどう変わったのかを,わかる形でお願いしました。それは,到底できそうにない,計画だけの実践書でなく,本書で提案する考えや実践から着想のヒントを得て,読者の皆さんに,さらに進化した授業をデザインして頂くことを期待するからです。
(本研究はJSPS科研費JP16K04684の助成を受けたものです。)
/峯 明秀
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