- はじめに
- この本の読み方
- INTRODUCTION 発問ことはじめ
- 1 発問とは“問い”である
- 2 “問い”ならではの効果
- 3 発問と質問はどう違う?
- 4 教師の話すことば全体の中での発問
- 1 何を問うか
- 1 ごんぎつね
- 「みんな,教科書は開いたかな?」
- 2 メディアと人間社会/大切な人と深くつながるために
- 「わからないところはあるかな?」
- 3 大造じいさんとガン
- 「ガンは,どのぐらい『りこう』な鳥なんだろう?」
- 4 どうぶつの赤ちゃん
- 「筆者が一番伝えたいメッセージは何かな?」
- 5 お手紙
- 「なんでかえるくんは,足の遅いかたつむりくんに手紙をあずけたのかな?」
- COLUMN1 この本に込めた願い
- 2 どう問いを並べるか
- 1 イースター島にはなぜ森林がないのか
- 「序論には,何が書いてあるのかな?」
- 2 スイミー
- 「気持ちはどう変わっていったのかな?」
- 3 お手紙
- 「かなしかったのはがまくんだけかな?」
- 4 すがたをかえる大豆
- 「本文で『すがたをかえる大豆』の例として紹介されているものを順番にあげていくと?」
- 5 海の命
- 「『村一番の漁師』って誰なんだろうか?」
- COLUMN2 “その教材ならでは”を発問するということ
- 3 どう問いを発するか
- 1 ごんぎつね
- 「このとき,ごんはどんな気持ち?」
- 2 メディアと人間社会/大切な人と深くつながるために
- 「この二つの文章を比べてみると,どうかな?」
- 3 ありの行列
- 「『なか』に書かれているウイルソンさんの実験について読み取っていこうと思うんだけど,ウイルソンさんが最初に何をしたら,結果として何が起きたかな?」
- 4 大造じいさんとガン
- 「先生,“山場”って何ですか……?」
- 5 お手紙
- 「つまりみんなに考えてほしいのはね」
- 6 イースター島にはなぜ森林がないのか
- 「筆者はどのように論を進めているかな?」→まとめ「図にすれば,論の進め方を読み取りやすくなる!」
- 7 どうぶつの赤ちゃん
- 「書きながら聞いてね」
- 8 サーカスのライオン
- 「〜さんに聞いてみよう。お客はどうして『手をたたいた』のかな?」
- 9 ごんぎつね
- 「ごんは幸せかな? それとも不幸せかな?」
- COLUMN3 私たちが理想とする国語の授業
- 4 どう答えを受け止めるか
- 1 サーカスのライオン
- 「他には?」
- 2 アップとルーズで伝える
- 「〜ということかな?」
- 3 サラダでげんき
- 「うん,そっか。」
- 4 たずねびと
- 「関係のある話?」
- 5 世界一美しいぼくの村/世界一美しい村へ帰る
- 「もう少し詳しく説明してくれる?」
- 6 「弱いロボット」だからできること
- 「じゃ,◯◯さん,どうかな?」
- 発問を学び続けるためのガイド
- おわりに
はじめに
この本は,教師になってすぐ,または数年が経った小学校の先生方に向けて書きました。「毎日国語の授業で発問しているけれど,改めて自分の発問を見つめ直したい」と,発問の基礎固めをしたいと思われている方を読者に想定しています。もしかしたら,まだ教壇に立っていない大学生・大学院生の皆さんにとっても役立つかもしれません。
さて,皆さんは「授業は発問で決まる」「授業づくりとは発問づくりである」などと聞いたことがあるかもしれません。そう,国語の授業にとって,発問はとても大事です(なぜ大事なのかは,また本書の中で)。
「よし,そんなに発問が大事なら発問力を鍛えよう」と考えた皆さんは,教育に関わる本や雑誌をザッと眺めてみます。すると,発問について書かれた文献がとても多いことにすぐ気づくでしょう。さまざまな先人たちが「この教材ではこう発問せよ」と,具体的な発問の仕方を示してくださっている。とてもありがたいことです。
試しに,少しそれらの文献を読んでみましょう。ある本Aでは,文学作品「白いぼうし」の授業の,「『夏みかん』という題だったらどうでしょうか?」という発問がモデルとして紹介されています。一方,別の本Bでは,文学作品に対して「もし」という仮定の発問をすると「作品の世界全体を壊してしまうことになりかねない」と述べられています。本Aでは仮定の発問が推奨されているのに,本Bでは仮定の発問への注意喚起がされている。
あれ? 真逆ですね。このように,文献間で「良い発問」が異なっていることも多いです。
このような現状は,「良い発問」というものが諸条件によって変わるものだ,ということを示しています。
例えば,授業の目標です。確かに,文学の世界に浸ることが重視される授業では,仮定の発問は危険です。せっかく作品に浸っていた子どもたちの作品世界を壊してしまうおそれがある。しかし,文学作品の読みを「作品の世界にどっぷり浸りがちな子どもたちを作品世界から脱け出させ,分析的に読ませたい」という目標があるとしましょう。その場合は,むしろ「作品の世界全体を壊」すような仮定の発問がその授業にとっては「良い発問」だということになります。どんな授業でも使えて,あらゆる子たちに響く唯一の「良い発問」なんてものは存在しないわけです。
だからこそ教師は,いろいろな発問モデルを引き出しに持っておくのが望ましい。自分が目指したい授業のゴールや,目の前の子どもたちの状況に合わせて,種々の発問パターンを試してみる必要があるのです。
その意味で,文献ごとに「良い発問」観が異なり,さまざまな「良い発問」モデルを参照できる現状はとても役に立ちます。
それは,あたかも料理レシピのカタログが準備されているようなものです。「この料理,おいしいですよ」というレシピが溢れていて,私たちは,そのときの気分や食べてもらう人の好みに合わせて好きな料理を選択できる。いつでも,誰にとっても「おいしい料理」なんてものはありません。さまざまな発問カタログを参照し,教室で実践しながら,教師は発問マスターになっていくのだと思います。
「よし,じゃあいろんな発問モデルをどんどん実践して,発問の引き出しを増やそう」と思われた皆さん,ちょっと待ってください。実は,NG発問というものが存在します。そして,「良い発問」は文献間で異なっているのですが,NG発問はほとんどの文献で共通しているのです。
NG発問をしないということは,発問をするための最低限のルールです。料理で言えば,「毒キノコを使わない」とか,「包丁で自分の指を切らない」などにあたります。どんな料理を作るにしろ最低限そこは頼むよ,という部分ですね。このNG発問については,先人たちのどの文献でもほとんど同じことが指摘されています。「発問する上で,最低限これは避けてほしい」という点が,歴史の成果として蓄積されてきているわけです。
しかしこれまで,そのような,発問のための最低限のルールであるNG発問を一冊にまとめてくれている文献はありませんでした。この本は,まさにそのNG発問に焦点を当てた本です。
発問マスターを目指す前に,まずは本書を読み,自分が普段NG発問をしていないか,確認することからスタートしましょう。
/幸坂 健太郎
本A:齋藤浩『アクティブな授業ができる! 小学校国語科「開かれた発問」30のしかけ』明治図書,2015年
本B:鈴木一史『中学校国語科 授業を変える課題提示と発問の工夫39』明治図書,2015年
自分の発問を見直すことができました。