- はじめに
- 提言
- 高等学校等における特別支援教育の充実の基本的な考え方 /青木 隆一
- 特別支援学校高等部学習指導要領改訂の基本的な考え方 /田中 裕一
- 第1章 キーワードでみる学習指導要領改訂のポイント
- 全体にかかわるポイント
- 社会に開かれた教育課程
- 育成を目指す資質・能力の三つの柱
- 主体的・対話的で深い学び
- カリキュラム・マネジメント
- 指導の改善や学習意欲につながる観点別学習評価
- 学校段階等間の接続
- 外国語教育
- 道徳教育
- 教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成
- 特別支援学校高等部学習指導要領のポイント
- 特別支援学校高等部におけるキャリア教育
- 特別支援学校高等部に在籍する生徒の調和的発達を支える指導
- 特別支援学校高等部におけるガイダンス・カウンセリング
- 知的障害者である生徒に対する各教科の改善点
- 教科別指導,領域別指導及び各教科等を合わせた指導
- 自立活動の内容の改善と評価
- キャリア教育の視点に立った自立活動
- 高等学校における特別支援教育のポイント
- 高等学校における多様なニーズに対応する弾力的な取組
- 高等学校における通級による指導
- 第2章 事例でみる学習指導要領改訂のポイント
- 総則
- 総則を踏まえた学校経営@キャリア教育を中心に
- 総則を踏まえた学校経営A「学びの連続性」を意識した教育課程の編成・実施
- 知的障害特別支援学校の教育課程
- 教科別指導,領域別指導の例
- 各教科等を合わせた指導の例
- 指導の改善や学習意欲につながる観点別学習評価例
- 中学校から特別支援学校高等部への接続例
- 高校内特別支援学校における交流及び共同学習例
- 外国語教育の指導例
- 道徳教育の指導例
- 自立活動
- 自立活動の内容の改善と評価例
- キャリア教育の視点に立った自立活動の指導例
- 通常の高校における特別支援教育
- チャレンジスクールにおける弾力的な学習指導について
- 高等学校の通級指導教室での指導例
- 付録 特別支援学校高等部学習指導要領(抜粋)(平成31年2月)
- 執筆者一覧
はじめに
今回の特別支援学校高等部学習指導要領の改訂は,平成28年12月の中央教育審議会答申を踏まえ,次の基本方針に基づき実施された。
1 次に示す@からDまでの基本方針に基づき,高等学校の教育課程の基準の改善に準じた改善が図られた。
@今回の改訂の基本的な考え方。 ・教育基本法,学校教育法などを踏まえ,子供たちが未来社会を切り拓くための資質・能力を一層確実に育成することを目指す。その際,求められる資質・能力とは何かを社会と共有し,連携する「社会に開かれた教育課程」を重視すること。・平成21年改訂の学習指導要領の枠組みや教育内容を維持した上で,知識の理解の質を更に高め,確かな学力を育成すること。・道徳教育の充実や体験活動の重視等の充実により,豊かな心や健やかな体を育成すること等があげられている。
A育成を目指す資質・能力の明確化。今回の改訂では,知・徳・体にわたる「生きる力」を生徒に育むために「何のために学ぶのか」という各教科等を学ぶ意義を共有しながら,授業の創意工夫や教科書等の教材の改善を引き出していくことができるようにするため,全ての教科等の目標及び内容を「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力,人間性等」の三つの柱で再整理している。
B「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善の推進。「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を進める際の指導上の配慮事項を総則に記載するとともに,各教科等の「第3指導計画の作成と内容の取扱い」において,単元や題材など内容や時間のまとまりを見通して,その中で育む資質・能力の育成に向けて,「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を進めることを示している。
C各学校におけるカリキュラム・マネジメントの推進。総則において,生徒や学校,地域の実態を適切に把握し,教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと,教育課程の実施状況を評価してその改善を図っていくこと,教育課程の実施に必要な人的又は物的な体制を確保するとともにその改善を図っていくことなどを通して,教育課程に基づき組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上を図っていくこと(以下「カリキュラム・マネジメント」という。)に努める。その際,生徒に何が身に付いたかという学習の成果を的確に捉え,個別の指導計画の実施状況の評価と改善を,教育課程の評価と改善につなげていくよう工夫することを新たに示している。
D教育内容の主な改善事項。このほか,言語能力の確実な育成,理数教育の充実,伝統や文化に関する教育の充実,道徳教育の充実,外国語教育の充実,職業教育の充実などについて,総則,各教科に属する科目,総合的な探究の時間,特別活動及び自立活動において,その特質に応じて内容やその取扱いの充実を図っている。
2 インクルーシブ教育システムの推進により,障害のある子供たちの学びの場の柔軟な選択を踏まえ,小・中・高等学校の教育課程との連続性を重視。
近年,特別支援教育は,障害のある子供の教育にとどまらず,障害の有無や個々の違いを認め合い,誰もが生き生きと活躍できる社会を形成していく基礎となるものとして我が国の現在及び将来の社会にとって重要な役割を担っている。特別支援教育の進展に伴い,近年は幼稚園,小・中・高等学校等において発達障害を含めた障害のある子供たちが多く学んでいる。また,特別支援学校においては,重複障害者である子供も多く在籍しており,多様な障害の種類や状態等に応じた指導や支援の必要性がより強く求められている。このような状況に適切に対応し,障害のある子供が自己の能力や可能性を最大限に伸ばし,自立し社会参加するために必要な力を培うためには,一人一人の障害の状態等に応じたきめ細かな指導及び評価を一層充実することが重要である。このため,以下のアからウの観点から改善を図っている。
ア 学びの連続性を重視した対応。・「第8款重複障害者等に関する教育課程の取扱い」について,生徒の学びの連続性を確保する視点から,基本的な考え方を明確にした。・知的障害者である生徒のための高等部の各教科等の目標や内容について,育成を目指す資質・能力の三つの柱に基づき整理した。その際,各学部や各段階,小・中学校の各教科等,及び高等学校の各教科・科目等とのつながりに留意し,充実を図っている。
イ 一人一人の障害の状態等に応じた指導の充実。・視覚障害者,聴覚障害者,肢体不自由者及び病弱者である生徒に対する教育を行う特別支援学校における各教科・科目の内容の取扱いについて,障害の特性等に応じた指導上の配慮事項を充実した。・発達障害を含む多様な障害に応じた自立活動の指導を充実するため,その内容として,「障害の特性の理解と生活環境の調整に関すること」を示すなどの改善を図るとともに,個別の指導計画の作成に当たっての配慮事項を充実している。
ウ 自立と社会参加に向けた教育の充実。・卒業までに育成を目指す資質・能力を育む観点からカリキュラム・マネジメントを計画的・組織的に行うことを規定した。・幼稚部,小学部,中学部段階からのキャリア教育の充実を図ることを規定した。・生涯を通して主体的に学んだり,スポーツや文化に親しんだりして,自らの人生をよりよくしていく態度を育成することを規定した。・各教科の目標及び内容について,育成を目指す資質・能力の視点から充実が図られた。
このような特別支援教育の視点を押さえ,各学校が学習指導要領改訂の意図をしっかりと認識し,教育実践に生かしていくことが求められると思われる。本書がその一助となれば望外の喜びである。
2019年5月 /宮ア 英憲
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- 明治図書