- まえがき
- 第1章 「ことばを磨き考え合う」授業づくりの理論と方法
- 1 「ことばを磨き考え合う」授業をつくる
- 2 「感性的思考」と「論理的思考」を授業づくりに生かす
- 3 「見方・考え方」と「感じ方」で学びを深める
- 4 「感性的思考」の評価を拓く
- 5 日本語教育から学ぶ―ことばをもとにイメージ化を図る指導技術
- コラム
- 「新学習指導要領」のここに注目
- ICT導入Society5.0時代と思考力育成
- これから始める思考指導 若手のはじめの一歩
- 第2章 「感性的思考」と「論理的思考」を生かした学習指導プラン
- 1 「話すこと・聞くこと」の学習指導プラン
- @ 「話す・聞く」の中で生起する感性的思考
- A 小学5年 感性的な選択をもとに聴き合い,自分の価値観を更新する
- 教材名:「町に描いた円」『羊飼いの指輪 ファンタジーの練習帳』
- B 小学6年 「対話型」鑑賞で他者とつながり作品の解釈を広げる
- 教材名:「『鳥獣戯画』を読む」「この絵,私はこう見る」
- C 中学2年 グループパネルディスカッションに感性的思考を見いだす
- 教材名:「一番好きな音楽は?」(自主教材)
- 2 「書くこと」の学習指導プラン
- @ 表現することばを選び磨く―創作に焦点を当てて
- A 小学2年 絵を見て想像を広げ,お話を作る
- 教材名:「森の音楽会」(自主教材)
- B 小学5年 「解説シート」づくりでおもしろさを味わう
- 教材名:「注文の多い料理店」
- C 中学1年 色から感性を引き出し,詩を創作する
- 教材名:「140色の色紙からイメージする」(自主教材)
- 3 「読むこと」(文学的文章)の学習指導プラン
- @ イメージの形成と「感性的思考」をつなぐ
- A 小学2年 「すきな一文」から感性を伝え合い読み深める
- 教材名:「スイミー」
- B 小学3年 文学対話を通して,読みを深め合う
- 教材名:「おにたのぼうし」
- C 小学4年 「○○なごん」の「○○」を吟味する
- 教材名:「ごんぎつね」
- D 中学3年 複数教材を関連付けて読む
- 教材名:「握手」「故郷」
- 4 「読むこと」(説明的文章)の学習指導プラン
- @ 納得につながる「はまりどころ」を探る
- A 小学2年 みんなに伝わるように感じたことを言葉にする
- 教材名:「ビーバーの大工事」
- B 小学4年 調べ学習で自分の考えをもち,読み深める
- 教材名:「くらしの中の和と洋」
- C 中学3年 「共感・納得・疑問」と感じる感性を「論理的な読み」につなぐ
- 教材名:「誰かの代わりに」
- 5 「語彙・語感・レトリック」の学習指導プラン
- @ 「直観」と「洞察」との往還が「感性的思考力」を磨く
- A 小学5年 片仮名言葉について話し合う
- 教材名:「どうして片仮名で書くのかな?」(自主教材)
- B 中学2年 辞書ゲーム「たほいや」で遊ぶ
- 教材名:「たほいや」(自主教材)
- C 中学2・3年 週末課題にわくわくするか
- 教材名:「従来を“破壊”する心意気」「一歩ずつ,一緒に,二人三脚」(新聞記事・雑誌)
- D 中学3年 語彙的な発想を用いた詩の学習
- 教材名:「挨拶−原爆の写真によせて」
- コラム
- 日常の指導の積み重ね
- あとがき
- 執筆者紹介
まえがき
本書『「感性的思考」と「論理的思考」を生かした「ことばを磨き考え合う」授業づくり』は,「ことばを磨き考え合う」授業づくりを,「思考(力)」を切り口として研究・実践した成果をまとめたものである。「ことばを磨き考え合う」ことは,国語科教育の本質的なねらいにつながり,「思考(力)」を授業づくりの視点に据えることは能動的で問題解決的な,すなわち主体的な個の学びを生み出すことにつながる今日的課題である。
「思考力」は,今回の学習指導要領改訂に伴い,国語科の「育成すべき資質・能力」として位置付けられた。以前からその重要性が指摘され,取りあげられてきたが,抽象的なとらえや活用の難しさなどから十分に検討実践されてきたとは言い難い。国語教育実践理論研究会(略称「KZR」)では,能力としての「思考力」ではなく,学習指導場面における具体的な作用としての「思考」に着目し,授業づくりにどのようにかかわり生かすことができるかを考えることとした。
「思考」については「直観的思考」「創造的思考」「批判的思考」など,これまでも様々な名づけや考え方が示されているが,実践において扱いが煩雑になることを避け,国語科として最低必要と思われる二つの思考に集約して考えることとした。一つは既に周知の「論理的思考」であり,もう一つは,それと補完し合い,響き合う関係にある「感性的思考」である。前者は「考える」と表されることの多い「論理に則って行われる思考」であり,後者は「思う」と表されることの多い「感性に則って行われる思考」である。両者は,すでに述べたように互いに補完し合い,響き合う関係にある。従来「思考」はややもすれば「考える」に偏って扱われてきたように思われるが,今後はバランスのとれた位置付けが望まれる。
「感性的思考」に眼を向けることで,これまで見過ごしてきた学習者の学習実態に気付いたり,授業に臨む学習者と教師の意識や視点のずれに気付いて教材研究が深まり,学習者主体の考え合う授業実現への見通しがもてた,といった教師自身の報告も寄せられている。
本書は,第1章「『ことばを磨き考え合う』授業づくりの理論と方法」と,第2章「『感性的思考』と『論理的思考』を生かした学習指導プラン」との2章仕立てである。第1章では,まず,「ことばを磨き考え合う」授業とその実現のための手立てと位置付けた「思考」についての基本的な考えを示した。続けて,「深い学び」の鍵として示されている「見方・考え方」に「感じ方」を加えることの有効性,「感性」・「感性的思考」の評価についての具体的提案,隣接領域としての日本語教育からの示唆,を取り上げ,いずれも踏み込んだ提案を示せたと考えている。
第2章では,「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと(文学的文章)」「読むこと(説明的文章)」「語彙・語感・レトリック」の五つの領域に分けて,それぞれ工夫のされた実践例を載せている。タイトルを見るだけでも,興味を覚える実践や,新たに考えたくなる課題を示唆してくれるものが多い。各章末の四つのコラムも,授業づくりの大切な手がかりや視点を示してくれている。
こうした実践を通した「思考」の具体例の提示は,これまで敬遠しがちであった「思考」を授業づくりにどのように生かし,学習者の主体的な学びの成立と学力形成に役立てることができるのかを考える手がかりとなるのではないだろうか。ぜひ「思考」という切り口から国語の授業を見つめ直してほしいと考えている。本書がそのことに少しでも役に立てば幸いである。
2020年6月 国語教育実践理論研究会会長 /益地 憲一
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