- はじめに
- 本書の使い方
- 第1章 オーセンティックな学びを取り入れた授業づくり 4つのポイント
- 1 カリキュラムづくり
- 1 なぜ社会科,歴史を学ぶのか
- 2 オーセンティックな学び
- 3 知識の構築
- 4 学問に基づく(鍛錬された)探究
- 5 学校を超えた価値
- 6 学習者からみたオーセンティックな学び
- 7 歴史学習でオーセンティックな学びを実現するために
- 2 単元・パフォーマンス課題づくり
- 1 単元全体の課題づくり
- 2 単元のデザイン
- 3 ポートフォリオづくり
- 3 授業・発問づくり
- 1 社会科の資質・能力の段階
- 2 発問の類型化
- 3 授業の組み立て
- 4 全員に力をつける(誰一人取り残さない)
- 1 環境のユニバーサルデザイン
- 2 学力のユニバーサルデザイン
- 3 意欲のデザイン
- 4 全員に力をつけるための授業デザイン
- オーセンティックな学びを取り入れた授業を成功させるためのチェックリスト
- 第2章 オーセンティックな学びを取り入れた授業展開&ワークシート
- 古代
- 単元1 文明繁栄の条件
- 単元2 古代リーダーの条件
- 単元3 中国にならった国づくりグランプリ
- 単元4 平安時代は平安?
- 中世・近世
- 単元5 源氏と平氏の政策比較
- 単元6 中世日本の生きる道
- 単元7 中世社会の変化と領国経営
- 単元8 結びつきがもたらした社会の変化
- 単元9 信長・秀吉への通知票
- 単元10 江戸幕府の長持ちのヒケツ
- 単元11 幕政改革への通知票
- 単元12 欧米諸国の近代化
- 単元13 江戸幕府滅亡の理由に迫る
- 近代・現代
- 単元14 明治政府の決断
- 単元15 帝国主義世界での日本の行方
- 単元16 日本の近代化の光と影
- 単元17 争いを生まない条約を提案しよう
- 単元18 大正デモクラシーと社会運動の広がり
- 単元19 いつなら泥沼の戦争を回避できたか
- 単元20 戦後の日本の進む道
- 単元21 戦後No.1政策はどれ?
- 単元22 現代の社会問題に迫る
- おわりに
はじめに
社会科に「本物の学び」を
社会科の授業は,社会の役に立つものになっているでしょうか。教科書の内容を理解させ,テストや受験で結果を出させることも,大事でしょう。しかし,現状として,そちらに重心が傾きすぎ,暗記教科という烙印を押されているのではないでしょうか。
社会科とは,本来「社会をよく理解し,より良い社会の形成者を育てる」教科であると言えます。そのような社会科を実現すべく,「本物の学び」=「オーセンティックな学び(authentic achievement)」が注目されています。
オーセンティックな学びの提唱者であるニューマンは,オーセンティックな学びの条件として,次の3つを挙げています。
・重要であること(importance):浅はかな活動主義でなく,学問の重要な概念や方法を扱うこと
・意味のあること(meaningful):断片的な知識の羅列でなく,課題に対して自分の意見を構築すること
・価値のあること(valuable):学校(テスト)以外の社会で役立つものであること
例えば,「明治維新ではどのような改革が行われたか?」という課題は,3つのどれも満たしません。
「なぜ明治維新は行われ,その結果社会はどのように変化しただろうか?」という課題になると,歴史の重要な概念を用いるので,「重要さ」はクリアできそうです。しかし,後の2つは満たしません。
「明治維新の政策で,一番日本を発展させた政策はどれだろうか? 1つ選び,理由を説明しよう」という課題になると,「重要さ」と,自分の意見を持つために情報をまとめるので,「意味のある」の2つはクリアできそうです。しかし,残り1つは満たしません。
「明治維新は,何にお金をかけるべきだろうか?(軍事・産業・貿易・教育・まちづくり・その他) 当時の状況を踏まえて1つ選び,その理由を説明しよう」という課題になると,「重要さ」,「意味のある」,そして現代の政策の評価や決定にも活用できるので,「価値のある」もクリアできそうです。
このように,授業を劇的に変えるのでなく,普段の授業に「オーセンティックな学び」の要素を少し取り入れることで,社会で役に立つ学びにつながります。本書では,ニューマンの提唱するオーセンティックな学びを日本の社会科学習に取り入れるために,筆者がその要素を取り入れた社会科授業プランを提案します。
加えて,授業は楽しくあるべきです。テスト・受験重視の授業では,楽しくありません。楽しくなければ,学習者は学習に向かわず,無気力になるか,他のことをするか,授業を妨害します。楽しくない授業をして,授業が荒れる,学力がつかないのは,授業者の責任です。
「すぐできる!」「楽しく,力がつく!」,しかも「深くてタメになる」授業!
このようなことから,本書では,次の3つを重視した授業を提案します。
@オーセンティックな学びを取り入れ,「重要で,意味のあり,価値のある」学びに近づける
普段の授業を少し変えることで,オーセンティックな学びに近づける授業プランを提案しています。そのポイントは,理論編で解説します。
A学習者全員が参加できる,「楽しく,力がつく」授業デザイン
いくら学問的に優れたプランでも,学習者全員に力をつけない授業ではダメです。学習が苦手な子も楽しく学習に参加でき,全員に力がつく授業デザインを心がけて紹介しています。
Bすぐに実践できる,教科書ベースの授業展開 + ワークシート
大きく単元構成を組み替えることなく,一般的な教科書の流れを変えずに,オーセンティックな学びを取り入れた授業展開を提案しています。そのため,オーセンティックな学びという視点でみれば,不十分かもしれません。しかし,大事なことは普段の授業をオーセンティックな学習に近づけていくことです。そのため「すぐ実践できる」ことを優先しました。本書をベースに,ご自身でさらにより良い実践を開発していってください。
本書は,理論編と実践編で構成されます。
理論編は,次のように構成されます。まず,オーセンティックな学びの概要と3つの柱,歴史学習でオーセンティックな学びをどのように取り入れるかを解説します。次に,単元レベルのデザインとして,単元全体の構成や単元全体の課題をつくるポイントなどを解説します。そして,授業レベルのデザインとして,社会科の資質・能力の階層に基づく発問の類型,それに基づく授業の組み立てを解説します。最後に,全員参加・全員に力をつける授業を行うためのポイントを解説します。
実践編は,歴史学習を全22の単元で構成し,それぞれの単元を紹介します。各単元では,まず単元全体の構成を示し,後のページに単元内の授業を,展開案とワークシートで紹介します。
本書のウリは,「すぐできる!」「楽しく,力がつく!」,しかも「深くてタメになる」授業です。本書が,普段の授業づくりに悩まれている方,より良い授業を模索中の方の役に立てれば幸いです。
/梶谷 真弘
-
- 明治図書
- 単元を貫く〜系の本と併用することで、想像力が膨らみます。2023/6/2620代・中学校管理職
- 歴史の授業や単元を考える上で参考になった。ワークシートがダウンロード特典などがあるとありがたい。2023/1/3130代・中学校教員