- はじめに
- 第1章 授業づくりの要所
- 1 知的障害教育における個別最適な学びと協働的な学び
- 2 知的障害教育における授業づくりのポイント
- 3 ゲーム的活動を通した学習のポイント
- 4 教材・教具の工夫
- 第2章 ゲームでつくる特別支援教育の授業活動レシピ
- 国語
- 1 これなぁに? みのまわりのことばかるた
- 2 3ヒントかるた
- 3 めくってミッション
- 4 すきなのどっち?
- 5 だるまさんのまねっこ!
- 6 しりとりゲーム
- 7 おつかいゲーム
- 8 トライゲーム やってみたいのはどっち?
- 9 でんごんゲーム
- 10 どんなきもち?
- 11 ひらがなビンゴ
- 算数
- 12 たまいれゲーム
- 13 かたちさがしだいさくせん!
- 14 レールつなぎゲーム(ながさ)
- 15 じんとりゲーム(ひろさ)
- 16 まとあてゲーム
- 17 あわせていくつ?
- 18 まえ・うしろ・みぎ・ひだりクイズ
- 19 たまはこびゲーム
- 20 どちらがながいかな?
- 21 ブロックつみゲーム(たかさ)
- 22 どっちがおおい?(みずのかさ)
- 23 しらべよう!みんなのすきなもの
- 各教科等を合わせた指導
- 24 [生活・国語・算数・音楽]ぐるぐるうたすごろく
- 25 [算数・音楽]かもつれっしゃ なんばんめ?
- 26 [生活・算数・国語]ざいりょうをかいにいこう!
- おわりに
はじめに
2017(平成28)年・2019(平成30)年の特別支援学校学習指導要領の改訂(以下,新学習指導要領)では,通常の学校の教育課程と「知的障害である児童生徒を教育する特別支援学校における各教科」(以下,知的障害教育各教科)による教育課程等との連続性の可視化が重要ポイントの1つとされました。新学習指導要領では,知的障害教育各教科の目標や内容が,小学校等の通常の各教科と同じく,「育成を目指す資質・能力の3つの柱(@ 知識及び技能,A 思考力・判断力・表現力等,B 主体的に学習に取り組む態度)」で整理されました。ここでは,知的障害各教科の各段階の内容が,通常の学校の各教科の学年段階のいずれの段階に相当する内容までを含んでいるかが精査され,教科の系統性が重視されました。
この新学習指導要領に対する評価には,@ 知的障害児童生徒に対する学力保障立場から教科別領域別に学習内容を明らかにする教育実践の拡充・蓄積とカリキュラムの整理を期待する声や,A 知的障害教育の全国的な一定教育内容水準の確保の可能性を指摘しつつも教師の創意工夫の余地がなくなり教育課程に子どもを合わせる「水増し教育」への逆戻りを懸念する声,B 新学習指導要領の示し方のパラダイムシフトを前向きに捉えて知的障害教育の意識改革やさらなる充実を期待する声などがあります。
新学習指導要領後の知的障害教育の授業実践においては,各教科別の授業をよく目にするようになりました。各教科別に育成すべき資質能力の3観点で学習評価を行うことが求められていることも,各教科別の授業が多く試みられるようになった理由の1つではないかと思います。
知的障害教育では「子どもがわかる」授業を通して子どもの自立と自己実現を図るために,より具体化した指導内容を設定し,実際的で多様な生活経験を通して指導することを基本としています。知的理解(理解できていることが何かを説明させることによって評価すること)よりも行動的理解(社会的文脈の中で求められる行動をとれることをもって何ができるかを評価すること)を重視し,生活上の課題解決に取り組む学習活動(思考・判断し表現する活動)を通して,各教科の知識・技能が習得されるという考え方が,知的障害教育の根底にはあります。この考え方は,思考・判断し表現することを通して知識及び技能の育成を図るという新学習指導要領が重視する学習過程の考え方と共通するものです。
知的障害のある子どもの「わかる授業づくり」にあたっては,各教科等の示す内容をもとに子どもの知的障害の状態や経験等に応じて,「生活に結びつく具体的な内容」を設定する必要があります。実際的な状況下で体験的に活動できるようにすることで,子ども一人一人が見通しをもって,意欲的に学習に取り組めるようにするのです。
本書で取り上げているゲーム的活動の利点は,複数の子どもが一度に参加でき,簡単なルールの繰り返しの中で見通しがもちやすい活動であることと,勝敗に偶然性を設け実態に関係なく誰でも勝つことができるようにすることで,期待感や楽しみをもちながら活動できることです。ゲーム的な活動を学習活動の中心に据えることで,集団で1つの活動を共有しながら,個々の子どもの実態によって,扱う教材や活動のタイミングを変えたり,「役割分担」という形で活動を設定したりすることができます。さらに,ゲームを楽しむために,ペアやチームでの活動が必要な必然性をもたせることによって,1つの目的に向かって友達と取り組む中で,友達への関わりが促進されるという効果もあります。
このように,学び方や学びの進度の多様な集団でゲーム的活動を行うことにより,友達が学ぶ姿をモデルにしたり,自分の知っていることを友達に教えることで学びを深めたりするなど,同じ活動を通して段階の違う学習に触れる「主体的・対話的で深い学び」を実現できます。
知的障害教育の肝は,集団のダイナミクスを活用できる学習活動題材の設定です。本書に実践を寄せてくださった先生方は,具体的な経験を活動題材に据えた「わかる授業づくり」に優れた実績のある選りすぐりのメンバーです。実践紹介は,特別支援学校小学部,特別支援学級低学年の授業に取り入れられるゲームのアイデア集として,指導アイデアの形に一般化して提案していただきました。知的障害教育各教科の小学部1〜3段階の子どもや小学校1・2年生の各教科の内容を学習する段階の子どもたちが1つのゲームに一緒に参加し,どのようなねらいで学習を進め,どのように学習評価を行えばよいのかを示しています。
令和の「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実させて,知的障害教育における「主体的・対話的で深い学び」を体現する授業改善の試みが,本書を種にして,広がり,そして深まっていくことを願っています。
編著者 /米田 宏樹
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- 明治図書