『４年間まるっとおまかせ！ 短時間でパッとできる　英語あそび大事典 見やすい２色刷り』の詳細情報

　こうした力の涵養が求められている今，課題になるのが，子どもたちの学びへの動機を高め，いかに学びに没頭させるかです。この大きな鍵を握るのが，「学びのエンゲージメント」（以下EG）。「EG」とは，「学習者が夢中になって学習に取り組んでいる状態」のことです（Mercer & Dörnyei, 2020）。

　小学生は集中力の持続時間の限界が，15分だとも言われています。しかし，この「EG」の土台をつくることが，子どもの集中力を高め，限界時間を超えても意欲を持続させ，さらに豊かな学びを引き出します。

　「EG」の効果を引き出す盤石な土台となるものは何でしょうか？それは，

　「児童生徒と教師の信頼関係」

　「ポジティブなクラス・カルチャー」

の構築にほかなりません。安心して自分を出せる居心地のよい教室集団が，言語バリアを取り除き，子どもたちの夢中を引き出すEGの基盤になります。

２．英語に夢中にさせよう

　人が夢中になるのはどんなときでしょうか？授業では，活動の中で，「思わず時間を忘れて没頭する」状態になるときが「夢中になる」ときです。では，子どもの夢中を引き出すのに必要な原則は何だと思われますか？

　　　�@目的

　　　�Aレアリア

　　　�B自分ごと

　　　�C協働

　　　�D楽しさ

　この５つは，子どもの夢中を誘う私の授業のキーです。なぜでしょう？

　「目的」は，「目指す子どもの姿・最終到達点」であり，「どんな児童生徒に育てたいか」「どんな教育をしたいか」という「教師の理念」が反映されます。例えば，「温かい言葉を通したやり取りを通し，自分の考えをもち，仲間を尊重し思いやりのある人間性を身につける」ことは私の目指す子どもの姿の1つです。この理念こそが，大きく授業デザインに影響します。

　また，外国語学習では，意欲と主体性の喚起には，「レアリア」（児童生徒が身近に感じる生の情報）や興味をもち「自分ごと」として迫れる課題が必須です。知的好奇心や価値観の揺さぶりには，協働での活動を仕組みます。

　そうすると，子どもは，単に楽しい“fun”だけではなく，仲間と課題を乗り越えるからこその楽しさ“enjoyment”を感じるはずです。それが，次のステップへの勇気となり，夢中のスパイラルを生みだします。

　各ページにある「うまくいくコツ」には，夢中を引き出すために，活動を円滑に進めたり配慮したりするのに必要なマネジメントを紹介しています。また，最終ページには，「ポイント」（気をつけたいこと）もしくは「プラスα」（アレンジ）で効果的に活動を行うことができるように先生方をサポートしています。活動の導入で，子どもの「意欲の喚起」ができたら，帯活動に取り入れ，「意欲を維持」させ，さらにプラスαの要素を加えることで，「意欲の発展」につなげてください。

３．遊び（使い）ながら身につける

　子どもは言葉やものの使い方，さらに周囲の人との関わり方をどのようにして身につけているのでしょう。それは，生活の中で実際に体験することを通してです。そして，その体験のほとんどが「遊び」です。英語は言語なので，最も理に叶った習得方法は，やはり「使いながら身につける」ことです。

　ここで，日本の英語使用環境について考えてみましょう。日本はEFL（English as a foreign language）環境です。一歩教室を出ると日常生活で差し迫った英語使用の状況に置かれることはまずなく，input-poorな環境なのは言うまでもありません。だったら，英語を使うチャンスをつくればよいのです。

　その鍵が，“Output First”です。outputを通し，英語を意識的に使わせる状況をつくることで，教室をinput-richな環境にしてしまいます。「言葉は使いながら学び，使う中で身につけるもの」です。

　本書に掲載の活動はすべて，実際のコミュニケーションの場面と身につけさせたい力を明確にしたものになっています。お使いいただくと，子どもたちが，言語活動の中（場面）で，文のルール（文法）や表現を獲得していくのを実感いただけます。個人の活動だけでなく，協働で取り組むことを仕組めば，子どもの学習意欲と学習効果も最大限に高めることができるでしょう。

　本書を活用して，子どもたちの夢中を引き出し，英語の虜にしてしまいましょう。

【参考文献】

胡子美由紀（2011）『英語授業ルール&活動アイデア35』明治図書

Mercer, S. & Dörnyei, Z. （2020）. Engaging Language Learners in Contemporary Classrooms. Cambridge University Press.（鈴木章能・和田玲訳（2022）『外国語学習者エンゲージメント─主体的学びを引き出す英語授業』アルク）