- はじめに
- 第1章 子ども主体の学びを支えるための心構え
- ―「子どもが学ぶ」を教育活動の中心に据える―
- 子どもの「自ら育つ力」を信じる
- 子どもを能動的な学習者として見る/その子の成長をじっくり待つ
- はじめに子どもありき
- 教師の都合ありきの状態を認識する/「教える」から「支援する」へ意識を変える
- 子どもと教師の役割の違い
- 子どもも教師も主体的に動く/子どもと教師の役割の違いを理解する
- 常に子どもの事実に立ち返る
- 教材・ルール・場に着目する/子どもの事実から教材・ルール・場を決定する
- 自ら歩みを進めるために
- 自分の立ち位置はどこなのか,その子がわかるようにする
- 欲求充足と必要充足
- やらされている感から,追究の面白さに気付かせる
- 体育の目的(役割)
- 日常的に運動を楽しむためにどうするかを考える/体育の目的(役割)を広く解釈する
- 第2章 子ども主体の授業づくりロードマップ
- ―5年生・ボール運動 ゴール型『ハーフバスケ』―
- 子どもの事実から単元目標を決める
- 子どもの事実を把握する
- 目の前の子どもたちの現状を分析する/長期的な視野で子どもの成長を見る
- 学力観を転換する
- 教科特有の知識・技能と汎用的スキルを意識する/2つの関係性を意識しながら単元目標を決める
- 身に付けてほしい力に応じて教材やルールを選ぶ
- 子どもの願いと課題はどうやって生まれるのか
- 子どもが抱く課題を予測する/課題は個人の課題に絞る
- 課題解決のための視点(知識)
- 何をしている運動なのか(子どもの願い)から視点を考察する/課題解決するための視点(知識)を教材研究する
- 子どもが自ら学べる環境(教材・ルール)を考える
- 見えづらくしている要因を教材やルールで取り除く
- 系統性とルールの関係
- 条件を変えても同じように技能発揮できるかを問う
- なぜ指導案に特性を書くのか
- その教材にした根拠を示すために特性を書く
- 子どもとともに授業を創る
- チームを決める
- チームの決め方を子どもが選択する/チームを決めるときに配慮すること
- 子どもとともに創る
- 単元の流れを子どもとともに創る/見通しをもちながら,話し合いに参加する/ルール変更で,譲れない部分をもっておく
- ゲームの時間を捻出する
- 準備の時間を短くするために工夫する/徐々に学習内容の声がけに変える
- 教えることと考えさせること
- 教師が教えることと子どもが考えること
- 子どもだけで考えられる足場を整える/作戦はシンプルにし,パス回しの時間を短くする/子どもが課題を把握するために作戦に目を向ける
- 課題をぶれさせない
- 一単位時間を通して課題を一本化する/客観的に課題が把握できるようにする
- 子どもを見取る
- 子どもを共感的に見る
- 大人の物差しを捨て,その子の世界観で見る/紆余曲折できる自由度を保障する/不確実性を受け入れる
- 何のために何を見取るのか
- 声なき声を聴く/この先,予想される展開と支援を考える
- 第3章 子ども主体の授業デザイン
- ―3年生・マット運動『ペアマット』―
- 子どものやりたい気持ちを引き出す
- 子どもの願いから授業を構想する
- 子どもがやりたいことを目的にする/技術ポイントを学んでおく
- 子ども同士の学び合いを成立させる
- 協働性が発現できる環境を整える
- 「みんなでできる」をテーマにする/教え合いは時間で交代する
- その子の課題を絞り込む
- 課題を絞り込むためには ―意識の焦点化―
- 友達と話し合いながら課題とポイントを絞り込む/称賛の声とともに矯正の声がけを行う/内観と他者評価を一致させる/「どうしてできたのか」を説明させる
- 何のために協働するのか
- 協働の目的を子どもに伝える/「わからない」と自分から言える関係づくりを促す/「できるまでの時間」を子どもに伝える
- 振り返りを行う意味
- 振り返りは自分の立ち位置(課題)と見通し(解決方法)を書く/単元終了時には「学び方」を振り返る
- 第4章 低学年で実現する子ども主体の学び
- ―1年生・走の運動遊び『ぐねぐね走』―
- 教師の引き出したい動きを遊びの中に仕掛けておく
- 子どもにとっては遊び,教師にとっては学習
- 場の設定によって動きを引き出す/教具によって動きを引き出す/教材や技術によって子どもをつなぐ
- 体と頭をフル回転させる
- 運動量と運動の質を確保する/頭も同時に働かせているかを見る
- 多様化と洗練化,どちらを目指すのか明確にもつ
- 子どもの遊びと教師の指導事項
- 多様化と洗練化を視野に入れた計画を立てる/見本になる動きを見せる/飽きてきたら,課題の難易度を1つ上げる
- 第5章 子ども主体の学びを実現させる学級づくり
- ―年間を通した取り組み―
- 安心して意見が言えるクラスの雰囲気をつくる
- 子どもと同じ立ち位置になる/人のよい面に目を向ける/褒めるではなく,価値付ける/間違いや失敗から学ぶ姿勢を見せる/教師としての覚悟を示す ―共同探究者としてともに学ぶ―
- 学び方を教える
- 問いとは何かを教える/学び方の引き出しを増やす/自主学習ノートで学び方を教える/合意形成の進め方を伝える
- 評価の見方を変える
- 教師の見方を変える/保護者の見方を変える
- 当たり前を疑う
- 子どもとともに本質を追究する/既習事項が生かせる単元配列を考える
- 第6章 体育学習で考えるその子の“ 生き方 ”
- ―体育学習のその先にあるもの―
- 競争ではなく,過程を楽しみたい子
- 1年生 ボールゲーム『なげなげゲーム』・『じゃまじゃまサッカー』
- 自由とルールの間で揺れる子どもたち
- 4年生 ゴール型ゲーム『フットボール』
- 個人差をどうするか
- 5年生 陸上運動『リレー』
- 曖昧さはよくないものなのか
- 6年生 ゴール型『サッカー』
- 第7章 子どもが主役の運動会
- ―「子どもとともに創る」の裏側―
- 方向性を決め,子どもが考える余白は残す
- 【1年目10月】管理職との交渉/【1年目2月】運動会の方向性について先生方と確認する/【2年目4月】子どもとの話し合い/【2年目4〜5月】体育の延長線上に運動会を据える/【2年目5月】子どもの願いを形にする係活動
- おわりに
- 参考文献
はじめに
本書は体育の本でありながら,各運動の技術ポイントはほとんど書かれていません。代わりに体育における子ども主体の学びを成立させるための視点が書かれている,まったくの新しい本です。子ども主体の学びを実現させたいと多くの教師が望みますが,それは「こうすればよい」という方法論ではなく,目の前の子どもの実態に応じて,その都度,教師が判断するしか道は開けません。だからこそ,子どもの何を見て,何を根拠に判断するのかを教師は学んでおく必要があります。本書はその一助となる本です。
最近は多くの研究と実践の蓄積によって,ある程度,子ども主体の学びのイメージが見えつつあります。「子どもが自分で問いをもち,その子の学び方で学ぶ」,大まかではありますが,このような姿を皆さんおもちでしょう。しかし,イメージはできても,まだまだ実現は難しいと感じている教師も多くいます。それは,下記の3点が大きな壁になっているからです。
1つ目は「子どもにどこまで任せるのか」「任せるために教師はどこまで,どんなふうに環境を整えるのか(条件を整えるか)」という問題です。環境設定については,教科特性によっても異なるし,単元(体育では種目)にもよるところが大きいです。その教科(もっと言えば教師の力量)によってどこまで思考の枠組みを設定するか,何によって課題を焦点化させるのかが異なります。本書は体育ですので,教材選択とルール,場の設定が非常に重要であると考えています。このような環境設定について本書はかなり深いところまで追究した内容になっています。この環境設定は他教科においても今,まさに研究されているところであり,その蓄積が期待されるところです。
2つ目は教師の役割の問題です。子ども主体の学びの場合,教師は「教える」ではなく「支援する」ことが主な役割となります。しかし,この支援もマニュアル的な対策では上手くいきません。「こういう教材をもってきて,こういう発問をして,子どもがこのような反応をしたら……」といったハウツーは,現場に立てばその通りにいかないことにすぐに気付かされます(後述しますが,私は決してハウツー本を否定しているわけではありません。むしろ,本書とセットになってさらに威力を発揮すると考えています)。
「じゃあ,どうしろと言うのですか?」という声が上がってきそうですが,私は「その教師が目の前の子どもをよく見て,考え,柔軟に対応するしかない」と思っています。子どもが自分の力で学ぶ姿をイメージしつつ,目の前の子どもたちの状況を見取ります。すると,そこには教師のイメージしていたことと,実際の子どもとの間に「ズレ」が生じていることに気付きます。「あれ!? 自分で問いをもつと思っていたのに,子どもは無関心だぞ」といった具合です。そこで,そのズレを解消するために,次なる一手を考えるわけです。しかし,「考える」と一言で言っても,何をどのように考えればよいのかがわからないため,実際にはどうすることもできず,困っている教師が多くいます。そうしているうちに結局,教師主導で教え込む方向へ舵を切ってしまうのです。
授業中,子どもを見取りながら,どうすればよいのか考えるためには,教師にとって考える拠り所,つまり視点が必要です。それらの視点を基にじっくり考えながら,具体的な手立てを打っていくわけです。本書はその視点を丁寧にまとめました。こうして初めて手立てに意味が生まれます。
3つ目は「子ども主体の学びと学力との関連はどうなっているのか」という大きな問題です。教師である以上,全員がわかってできるようになることが責務であり,単に楽しく学んでいればよいわけではないといった声を多く聞きます。受験という現実があり,点数を取らせてあげたいという親心もあります。
そこで,この「学力」をどのように捉えるのかを丁寧に解説します。その中で,子どもが自ら学ぶ中で得られる汎用的スキル(学ぶ力)を高めることが,(一見,遠回りに見えるようでも)実は数値や目に見える「わかって,できる」の近道であることが理解されることと思います。
本書は子ども主体の視点を,理論と実際の子どもの姿からまとめました(登場する名前は全て仮名です)。ですから,全ての領域には触れていません。しかし,本書に書いた視点は全ての領域に汎用できるものと自負しています。それと同時に手立てもセットで書いてあります。どのような流れで教師が何を考え,どうしてその手立てに至ったのか,一連の流れ(ストーリー)で捉えてもらいたいからです。ただし,実践をそのまま真似されても上手くいかないと思います。それは私が目の前の子どもとともに創った実践だからです。そうではなく,それらの実践から視点と手立てを感じ取ってもらいたいと願っています。そして,書かれている内容を自分事として咀嚼し,自分だったらどうするかを考えながら読んでもらいたいです。子ども主体の学びを成立させるためには子どもと教師,両者の主体性が必要なのです。
私は公立小学校に勤務し,ずっと体育を研究してきました。また,最近では子ども中心の学びについての研究も進めています。ですから,現場の本音はよく理解していますし,様々なことが求められる現場にあって授業づくりだけに専念できない難しさも感じております。そこで,本書は「ありきたり」「きれいごと」をできるだけ排除し,本当に地に足の着いた話をしたいと思っています。そして,これまで多くの研究者や実践者から学ばせていただいた体育の知識を余すことなく盛り込みます。また,体育が専門でない方でも,若手の教師でも誰もが「この視点で授業を考えればいいんだな」と思えるような内容を心がけています。
様々な新しい用語に溢れている現場において,いつの時代も変わることのない教育の本質,それは何か。本書の中に感じていただければ幸いです。
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- 明治図書