- まえがき
- 第1章 ICTによる「学級トラブル」の本質
- 01 ICT活用で起きるピンチは,学級の問題を解決するチャンス
- 02 ICTに振り回されないで利用する
- 03 予防に力を入れればトラブル対処もできる
- 第2章 トラブル一歩手前の予防術
- 01 まずは使用ルールを作る
- 02 チャット機能は制限する
- 03 IDとパスワードは保護者と学校で管理する
- 04 端末の故障を前提に準備する
- 05 ネットマナーと個人情報の守り方を教える
- 06 同期型授業では主導権を握る
- 07 同期型授業でも紙媒体を用意する
- 08 同期型授業は授業参観のつもりでやる
- 09 オンデマンド型は課題量を少な目に設定する
- 10 ハイブリッド型は「諦めて」もらう
- 11 ネットゲームやYouTube視聴は禁止にする
- 12 使用時間について事前指導をしておく
- 13 家庭に仕組みや使い方を共通理解しておいてもらう
- 14 家庭とICTで積極的につながる
- 15 ドリルアプリは補助的なものだと認識しておく
- 16 会議機能を使い慣れておく
- 17 教室での一斉大容量データ使用は控える
- 18 対面の授業でタブレット凝視状態は避ける
- 19 制限付きながら子どもに自由に使わせてみる
- 第3章 それでも起こったトラブル対応術
- 01 禁止したはずの時間にタブレットで遊んでしまったら…
- 02 掲示板上ですれ違いやけんか,いじめが起きたら…
- 03 パスワードを忘れたりなくしたりしてしまったら…
- 04 端末や部品を故障・紛失してしまったら…
- 05 友達の写真や著作権違反の動画像を勝手に使用してしまったら…
- 06 同期型の授業中に収拾がつかなくなったら…
- 07 画面を見すぎてしまったら…
- 08 同期型授業を受けられない家庭が出たら…
- 09 課題が多すぎる,できないと言われたら…
- 10 ハイブリッド型でクレームを受けたら…
- 11 禁止していたはずのネットゲームでトラブルが起きたら…
- 12 使用時間を大幅に超えてしまったら…
- 13 保護者が正しくない使い方を容認してしまったら…
- 14 保護者とのやりとりで誤解やトラブルが起きてしまったら…
- 15 ドリルアプリへの取り組みに個人差が出てしまったら…
- 16 会議機能で子ども同士のトラブルが起きたら…
- 17 一斉にネットを使用せざるを得なくなったら…
- 18 授業中にタブレットで遊んでしまう子どもがいたら…
- 19 子どもが好き勝手に使うようになっていたら…
- あとがき
まえがき
文部科学省よりGIGAスクール構想が打ち出され,コロナ禍がそれを後押しする形で,学校現場でのICT活用が一気に広がっていきました。
しかし,商売だろうが人間関係だろうがダイエットだろうが何にでもいえることなのですが,急激に広がったもの,急な変化をしたものには,大抵無理が生じます。今回の学校の変化でいうなら,ICT環境のようなハード面も,運営マニュアルのようなソフト面も,何もかも今までのものが全く通用せず,各地で対応が揃わない,間に合わないという事態になりました。
コロナ禍における急激な学校のICT化による学校現場の混乱は周知の通りです。活用しようにもハード面が揃わないという学校も数多い中,それでも何とかスタートできた自治体や学校では,ルールやマニュアルのようなソフト面が揃っていないために,各地でトラブルが頻発。中には想定されていたにもかかわらず,そのトラブルへの十分な対策がなされないままとりあえず実施されていたというようなものも散見されました。
問題とすべきは,なぜこうなったのかということへの根本的理解と,今後どうすればいいのかという解決策の提示です。
私の主宰する「学級づくり修養会HOPE」では,この問題についてどう扱えばいいのかという議論をオンライン会議上で重ねてきました。全国津々浦々から現役の学校教員,教育ICT関係者,教育出版関係者の方々などが集まり,各々の実体験や知見を共有していきました。
その中で見えてきた一つの真実は「学校のみんなにとって初めてのこと尽くしで,誰もどうしたらいいのか知らない」ということです。実際のところ,学校教員の仕事は,経験によるところが大きいのです。いわゆる「学級崩壊」が長らく問題になっていつまでも根本的解決に至らずにいるのも,次々に「新型」が発生するからです。時代の変化と共に社会も子どもも変わり,「今までだったらうまくいっていた」という方法が全く通用しなくなります。よって,新任者はもちろん,実力者の大ベテランの教員であっても,学級崩壊は起き得ます。「今までの常識・方法」が通用しなくなるからです。
そういった初めて尽くしの状況下において,必要なものは何なのか。それは,他者の実体験に基づく,具体的解決のための方策です。これらをなるべく早く提示すべきと考えました。
幸いなことに,私の元には多くの仲間が集まって情報に触れることができました。それのみならず,自分自身も千葉大学教育学部附属小学校というICT活用に大変積極的な学校に勤務しているところでした。ここはコロナ禍でICT導入が注目されている最中の2020年秋に『オンライン学習でできること,できないこと−新しい学習様式への挑戦』(明治図書)という本を出版し,夏休み前後には「オンライン通学」という他に類を見ない実践をしている先進的実践校でもあります。ICTに関する実践には事欠かない状況下でした。
そんな中で,仲間の知見と自分自身の経験の両方を生かし,具体的解決のための方策をまとめて示したのが本書です。第1章ではICTの教育活用における理念的な面を示しました。第2章ではタブレット端末を用いる際に予想される問題と予防策が羅列されています。第3章では予防しても起きてしまうかもしれない想定や実際に起きた事件・事故への治療的な対策を記しています。
もちろんこれらも,万能な方法ではありません。場所が違えば事情も違い,そのままでは使えないものもあるかもしれません。しかし本書は,ICT教育に関する本ではあるものの,実際は現代の教育が抱える本質的な問題へのアプローチを示すものとなっています。
第1章から順番に読み進めていただいても構いませんし,ご自身の学校に必要な予防と対策が書かれた第2章と第3章の項目から読んでいただいても構いません。本書を活用していただくことで,ICT教育の推進のみならず,学校現場の抱える諸問題解決へのヒントとなれば幸いです。
著者 /松尾 英明
数あるICTの教育書の中でもタブレット導入の利点ばかりを推すのではなく、きちんと危険性やデメリットを押さえた上での指導実践が書かれていて、指導として現場で活かしやすかったです。
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