- はじめに
- Chapter1 算数授業の「言い換え」 4つのポイント
- POINT01 「よい発問」とは何かを考える
- POINT02 「他の指導言」との組み合わせを考える
- POINT03 「自分が子供だったら」を考える
- POINT04 「指導言の一発屋」にならないように
- Chapter2 場面別 算数授業の「言い換え」事例60
- Part1 問題提示場面
- CASE01 前時をしっかり振り返らせたいときに
- 「この前は何をしましたか?」⇒「この前の学習でポイントとなるのは何でしたか?」
- CASE02 問題の提示の仕方を工夫したいときに
- 「今日の問題はこれです」⇒「今日はどんな問題が出てきそうですか?」
- CASE03 条件不足の問題を提示したときに
- 「何か足りない部分はありますか?」⇒「これくらい簡単に解けますよね?」
- CASE04 情報過多の問題を提示したときに
- 「どの情報が必要ありませんか?」⇒「すべて必要な情報ですね!」
- CASE05 問題の場面を理解させたいときに
- 「今日は〇〇な問題ですね」⇒「この前の問題とどこが違いますか?」
- CASE06 子供から「?」を引き出したいときに
- 「今日の問題は〇〇を使って解きましょう!」⇒「みんなはどこに困っているのですか?」
- CASE07 問題から内容の見通しを考えさせたいときに
- 「どうやったら解けそうですか?」⇒「今までの学習の何を使ったら解けそうですか?」
- CASE08 問題から方法の見通しを考えさせたいときに
- 「どんな方法で解けそうですか?」⇒「何を使ったら解いたり説明したりできそうですか?」
- CASE09 答えの見積もりをさせたいときに
- 「答えは何になりそうですか?」⇒「答えの予想をノートに書いてみましょう」
- CASE10 学習のゴール像をもたせたいときに
- 「今日のめあてを書きましょう!」⇒「今日考えたいことは何ですか?」
- CASE11 量感を掴ませたいときに(主に「C 測定」領域)
- 「どのくらいになりそうですか?」⇒「どのくらいになるか〇〇で表してみましょう」
- Part2 個人で思考する場面
- CASE12 全員を同じ土台に乗せて始めたいときに
- 「では始めましょう」⇒「今日追究することをもう一度確認しましょう」
- CASE13 考える時間の想定をさせたいときに
- 「〇分でやってみましょう!」⇒「何分あれば答えを出せそうですか?」
- CASE14 終わっていない人を強調したくないときに
- 「まだ終わっていない人はいますか?」⇒「考えをまとめている人が多いからもう少し時間をとります」
- CASE15 子供のやる気を削ぎたくないときに
- 「時間が来たので鉛筆を置きましょう」⇒「そこまででいいですよ」
- CASE16 聞いてもいいという雰囲気をつくりたいときに
- 「わからない人は手を挙げてください」⇒「困ったら呼んでくださいね」
- CASE17 自分の考えを絶えず見直しさせたいときに
- 「終わった人は見直しをしましょう」⇒「本当にそれで合っているのですか?」
- Part3 ペア・グループでの交流場面
- CASE18 交流する必要性をもたせたいときに
- 「隣と話し合いましょう」⇒「隣の人は同じ考えですか?」
- CASE19 相手の考えを理解させたいときに
- 「隣の人の考えを聞いてみましょう」⇒「隣の人のノートを見て,説明してみましょう」
- CASE20 子供の話し合いを活性化させたいときに
- 「まずはできた人から話しましょう」⇒「誰から話し始めてもよいですよ」
- CASE 21できていないことに焦点を当てたくないときに
- 「できていない人は,できた人に聞きましょう」⇒「わかっていることを,伝えてみましょう」
- CASE22 学び合いや教え合いを促すときに
- 「わからなかった人に教えてあげましょう」⇒「わかった人に尋ねてみましょう」
- CASE23 話し合いを子供に委ねたいときに
- 「ペアで話し合ってみましょう」⇒「話し合いの時間は必要ですか?」
- CASE24 話し合いから見えるものを想定させたいときに
- 「ペア(グループ)で話し合ってみましょう」⇒「話し合いの中で何がわかるとよいですか?」
- CASE25 話し合った意味を発表の中で感じてほしいときに
- 「話し合いでわかったことを発表してください」⇒「隣の人とどんなことを話し合いましたか?」
- Part4 考えを練り上げていく場面
- CASE26 答えから途中過程を想像させたいときに
- 「答えは何になりますか?」⇒「答えだけ先に教えてもらっていいですか?」
- CASE27 友達の考えを聞いて,考えさせたいときに
- 「〇〇くんに言ってもらいます」⇒「〇〇くんに途中まで言ってもらいます」
- CASE28 順序立てて説明できるようにしたいときに
- 「考えを発表してください」⇒「まず何をしたのですか? 次はどうしましたか?」
- CASE29 友達の考えから要点を考えさせたいときに
- 「〇〇くんの考えはわかりましたか?」⇒「〇〇くんの考えのポイントはどこですか?」
- CASE30 すべての子供に参加意識をもたせたいときに
- 「どちらがよいか発表してください」⇒「どちらがよいか@とAの指で表しましょう」
- CASE31 インプット→アウトプットを瞬時にさせたいときに
- 「〇〇くんの考えを隣に言ってみましょう」⇒「〇〇くんの考えを隣に説明できますか?」
- CASE32 話し合いの必然性をもたせたいときに
- 「この続きを言える人はいますか?」⇒「この続きはペア(グループ)で考えてみましょう」
- CASE33 子供の考えを起点にして広げたいときに
- 「なんで〜になったのですか?」⇒「〇〇くんはどうして〜しようとしたのですか?」
- CASE34 日頃発表しない子供の考えを拾いたいときに
- 「違う考えの人はいますか?」⇒「〇〇さんの考え方が面白かったから聞いてみてもいいですか?」
- CASE35 反復説明で内容理解ができるようにしたいときに
- 「〇〇さんの考えと似ている人はいますか?」⇒「同じ考えの人がいたらもう一度説明できますか?」
- CASE36 説明の中にキーワードを入れさせたいときに
- 「もっとわかりやすく説明できませんか?」⇒「〇〇という言葉を使って説明できますか?」
- Part5 子供の思考を揺さぶる場面
- CASE37 子供に「もっとあります!」を言わせたいときに
- 「他にありますか?」⇒「もうこれしかないですね」
- CASE38 子供に「いいえ,違います!」を言わせたいときに
- 「〇〇すれば解けますね」⇒「それってたまたまではないですか?」
- CASE39 子供に違いを見つけさせたいときに
- 「何が違うのですか?」⇒「どこか違うところはありますか?」
- CASE40 子供に共通点を見つけさせたいときに
- 「何が同じなのですか?」⇒「どこか考え方が同じところはありますか?」
- CASE41 学習単元ではなく内容で語らせたいときに
- 「この考え方,どこで使いましたか?」⇒「この考え方は,今までのどの単元に似ていますか?」
- CASE42 数理の一般化をはからせたいときに
- 「この問題だったらどうですか?」⇒「もし,数値を〇〇に変えたらできますか?」
- CASE43 数理の一般化をはからせたいときに(図形)
- 「この問題だったらどうですか?」⇒「もし,形を〇〇に変えたらできますか?」
- CASE44 前時とのつながりを大切にしたいときに
- 「前の時間と同じですね」⇒「前の時間と似ている(違う)ところはありますか?」
- CASE45 説明に見方・考え方を入れ込みたいときに
- 「どうして〇〇になるのですか?」⇒「〇〇になるのはどのような考えを使ったのですか?」
- CASE46 子供に判断を迫りたいときに
- 「どれが一番よい考えですか?」⇒「この問題の中で一番〇〇な考えはどれですか?」
- CASE47 説明する方法を複数出させたいときに
- 「〇〇を使って説明できますか?」⇒「もう他に説明する方法はないですか?」
- CASE48 数理を生活に汎化させたいときに
- 「どんなときに使えそうですか?」⇒「日常だとどこに使われていますか?」
- CASE49 子供に「いやいや!」と言わせたいときに
- 「これは間違っていますか?」⇒「先生は,〇〇だと思うのだけれどどうですか?」
- CASE50 子供に成り立たない理由を考えさせたいときに
- 「〇〇は〜だからできませんね」⇒「どうして〇〇ではできないのですか?」
- CASE51 きまりと言える理由を考えさせたいときに
- 「面白いきまりが見つかりましたね」⇒「本当にきまりと言っていいですか?」
- Part6 考えを統合・発展させる場面
- CASE52 考えを今までの学びと統合させたいときに
- 「同じ考え方ができますね」⇒「何かと似ている気がするのですが…」
- CASE53 他の場面でも考えたい!と思わせたいときに
- 「2問目はこれです」⇒「できるのはこの式のときだけですよね?」
- CASE54 他の場面でも考えたい!と思わせたいときに(図形)
- 「2問目はこれです」⇒「できるのはこの形のときだけですよね?」
- CASE55 子供の好奇心をくすぐりたいときに
- 「きまりはどのようなときでも成り立ちますか?」⇒「きまりはどこまでなら成り立ちますか?」
- CASE56 問題をつくって解かせたいときに
- 「他にも問題をつくって考えてみましょう」⇒「問題をつくるときに変える/変えないことは何ですか?」
- Part7 学習をまとめていく場面
- CASE57 まとめの言葉が感想にならないようにしたいときに
- 「今日わかったことは何ですか?」⇒「めあてを達成するために大切だったことは何ですか?」
- CASE58 「楽しかった」で終わらないようにしたいときに
- 「楽しかったことは何ですか?」⇒「どのようなことに面白さを感じましたか?」
- CASE59 教師が言ったことだけがまとめになってほしくないときに
- 「まとめを書きましょう」⇒「今日の発見をノートに書きましょう」
- CASE60 次の学習への意欲をもたせたいときに
- 「次の学習は〇〇していきましょう」⇒「次の学習ではどのようなことを追究したいですか?」
- おわりに
- 参考文献一覧
はじめに
皆さんは,算数の授業の中でどのようなことを大切にしていますか?
「問題提示」の仕方ですか?
「自力解決」の方法ですか?
「交流活動」の活性化ですか?
「まとめ」を子供たち自身が考えることですか?
上に挙げたものは,私にとってはどれも授業を構成するために大切な,「主役級の役者たち」です。
しかし,主役級の役者ばかりだと,授業の中で,それぞれの役割をつなぐときにどうしても無理が生じてしまいます。それを円滑にしてくれるのが,「教師の発する言葉」だと考えています。教師の発する言葉が,それぞれの役割をつないで,子供たちの頭の中で算数のストーリーができあがっていきます。算数の学習の中で,「おもしろいきまりを見つけたよ!」「これだったらどうなるだろう?」などとつぶやく子供の姿を想像するだけでにやにやが止まりませんよね。その中で教師の発する言葉は,いわゆる「バイプレイヤー」的な存在といったところでしょうか。
ただ,そのバイプレイヤーにも様々なタイプが存在します。適切な役者と組み合わせないと,授業がうまいこといきません。こちらが考えに考えてキャスティングした「教師の言葉」なのに,子供の思考に作用しなかったら…と考えるとその言葉一つひとつの重みはわかってもらえるのではないかと思います。
とはいえ,教師の言葉は授業を成立させる上でなくてはならないものです。教師は,授業の中で指示をしたり,問いかけたり,ときには考えをまとめて説明したりと発言の種類も豊富です。できることなら,主役たちの活躍を邪魔しない程度に,そのときそのときの場面に応じて「カチッ」とはまる言葉かけをしたいものです。
そこで,本書では,算数の授業中に使ってしまいがちな「NG 言葉」を,どうして NG なのかという解説とともに,こうするとうまくいくよという「OK 言葉」に言い換えています。さらに,その「OK 言葉」をより効果的に活用するために必要な準備や板書,問題の設定などの主役級の取り扱いについても説明しています。
言葉かけ「だけ」,板書「だけ」,問題設定「だけ」を極めても意味がないと思っています。それぞれがかみ合って,子供たちが活発に思考する素敵な算数の授業をつくるために,言葉かけを中心に据えて考えてみませんか?
算数の授業づくりに悩む全国の先生が,本書を通して算数の授業をする上で「教師の言葉かけ」を少しでも考えるきっかけになればよいなと福岡の地から思っています。
2024年5月 /渡邉 駿嗣
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- 明治図書