- 序文
- 教師と生徒がともにつくる挑戦と探究のサイクル
- 東北学院大学 /稲垣 忠
- 1章 本書におけるPBLとは
- 1 ハイ・テック・ハイにあこがれて
- 2 社会と共に変化する教育
- 3 情報活用型PBLで教育を改革
- 2章 実践のための組織づくり
- 1 探究誕生
- 2 探究カリキュラムのつくり方
- 3 探究世界の広がり
- 3章 PBLのカリキュラムデザインの実際 @[中学1年]
- 探究GC(1学期) 学校のある地域の解剖図鑑をつくろう
- 探究IT(1学期) デザイン思考で魔法の秘密道具を提案しよう
- 探究GC(2学期) 伝統工芸品のミライを考えよう
- 探究IT(2学期) デジタルツールで遊ぼう
- 探究GC(3学期) マイクロプラスチック問題を科学し、今すべきアクションを考えて表現しよう
- 探究IT(3学期) 先端技術ロボットを活用した課題解決策を提案しよう
- 4章 PBLのカリキュラムデザインの実際 A[中学2年]
- 探究GC(1、2学期) 現地の方との交流を通して、地域振興のアイデアを考えよう
- 探究IT(1学期) 本質的問題から解決すべき課題を定義し、解決のためのアイデアを練ろう
- 探究IT(2学期) 定性データ・定量データを分析して、課題解決のためのアイデアを創出しよう
- 探究GC(3学期) D&Iスポーツ、ボッチャに匹敵する新競技を考えよう
- 探究IT(3学期) 企業課題の解決策を考えよう
- 5章 PBLのカリキュラムデザインの実際 B[中学3年]
- 探究GC(1学期) 当事者に想いをインタビューして、行動しよう
- 探究IT(1学期) 社会課題の解決のための製品を提案しよう
- 6章 総合探究のカリキュラムデザインの実際
- 理工系の知識で社会課題を解決しよう
- 7章 グローバル探究のカリキュラムデザインの実際
- 海外教育旅行を通して日米を比較し、ポスター、動画にまとめよう
- おわりに
- 執筆者一覧
序文
教師と生徒がともにつくる挑戦と探究のサイクル
東北学院大学/ 稲垣 忠
「てんこ盛りが来たなぁ」
芝浦工業大学附属中学高等学校との出会いはそんな第一印象でした。パナソニック教育財団の2020年度特別研究指定校のアドバイザとして最初の顔合わせはコロナ禍の真っ只中、オンラインでした。「生徒の学びの質の向上「STEAM × PBL ×デザイン思考」〜探究活動と SDGs、海外教育旅行プログラムとの連動〜」とテーマだけで2行に渡る壮大さにたじろぎつつも、アドバイザを引き受けたからには、何を目指しているのか、まず聞いてみました。すると、ITとGCという2つの探究科目を2021年度に立ち上げる、同じタイミングで男女共学化する、とのこと。これだけの大仕事を進められる先生方とはどんな方々なのか。心配と興味とアドバイザとしての責任感が募ります。
当時のメモには「体験したこと、聞きかじったこと、本で学んだことから知恵を出し合っている。これ以外の方法は何かあるのだろうか。生徒にとって何がベストなのか」とあります。関連する書籍などを紹介してほしい、といったリクエストもいただきました。不安に苛まれ、途方に暮れているのではないかと心配していた自分を恥じました。芝浦の先生方は、新しい教育課程の創造に向けて、すでに走り出していたのです。しばらくはリモートでのアドバイスでしたが、そのたびに先生方からは、新たな情報を集め、体験し、プロジェクトのタネを探している様子を聞きました。「教師自ら探究する」姿そのものです。
生徒たちと会うことができたのは2022年の5月になってからでした。工業大学の附属校ならではの充実した学習環境は、随所にものづくりの楽しさと奥深さが感じられます。1年生の地域の解剖図鑑をつくるプロジェクト(p・24)では生徒たちと一緒にスカイダックを体験し、7月には探究DAYで1年生、2年生の発表を見ることができました。新しいアイデアを考えること、それを形にしてみること、そしてだれかに伝えること。芝浦のPBLにはそんな機会があふれています。チャレンジすることを厭わず、こだわりをもって試行錯誤を重ね、理工系の知識を生かして社会課題の解決に取り組む姿の「明るさ」が印象的でした。豊洲で、長野県で、そして海外で、彼らはGCで多くの社会課題に向き合う機会がありました。それと同時に、ITでは新たなテクノロジーに出会い、課題解決の方法を学んでいます。見つけた課題が今すぐ解決できないことだったとしても、今自分たちが考えたアイデアを未来のテクノロジーで実現できれば、解決につながるかもしれない(そしてそのつくり手に自分たちがなるかもしれない)。そんな希望が、生徒たちの明るさを支えているのかもしれません。
「探究は生徒が問題を発見することが大事だ」「探究のサイクルを何度も繰り返さなければ深まらない」など、専門書にはいろいろなアドバイスが書かれています。探究を支援する企業や探究のパッケージ教材も散見されます。しかし、芝浦の探究は、どこかの借り物ではなく、先生方自身の探究の成果です。地域の教育資源を掘り起こし、セミナーやワークショップで様々な手法を学び、既存の芝浦の取組みから生かせるものは生かした、自前のカリキュラムです。そんな先生方の「熱量」は、本書からも感じ取れると思います。
とはいえ、どのプロジェクトも大成功だったとは限りません。すべての生徒に届いたとも言い難いでしょう。反省の言葉を聞くこともありました。先生方には「一度つくったらおしまい」ではなく、変わり続けること、PBLのデザインに関わる先生方を増やしていくことを助言しました。多様な先生方がこだわったそれぞれのPBLが、多様な生徒たちと出会い、新たな学びを生み出すサイクルは、本書で完結することなく、今後もますます発展していくことでしょう。芝浦の先生方と生徒たちのすてきな企みに、遠巻きながら、垣間見る機会をいただいたことに感謝します。またお邪魔します!
-
- 明治図書