- 序章 すべての子どもに「書く」力をはぐくむために
- すべての「書くこと」の基盤となること
- 書きたい、書かなければならない。だから「何を、どのように」書けばいいのか
- 第1章 「入門期」の授業技術
- 1年生の特性を考えて授業をつくる(物語・推敲)
- ワークシートで、主語と述語の関係を意識させる(一文)
- ゲームで、主語と述語の意味のつながりを考えさせる(一文)
- まず話してから、書くことにつなぐ(三文)
- 構成や話題をそろえて、文章を書かせる(日記)
- 観点や型を、楽しく身につけさせる(観察記録)
- ワークシートで型を示し、複数の教材で活用する(説明)
- 第2章 「手紙」の授業技術
- 飛び出す手紙、開く手紙で、書く意欲を高める
- プログラムにひと工夫を加え、招待状にする
- 書く量を、自分で決めさせる
- 型や内容の観点を示し、お礼の手紙を書きやすくする
- 第3章 「日記」の授業技術
- 学級全員で、1つの日記を推敲する
- カードを活用して、身の回りを見つめる目を育てる
- 物語の学習で、日記を書かせる
- フィッシュボーン図で、日記全体の見通しをもたせる
- 第4章 「意見文」の授業技術
- 思考ツールで、わかってもらいたいことを焦点化する
- 子どもが自分事と捉えられる題材を設定する
- 物語から受け取ったメッセージを、自分事として書かせる
- 第5章 「推薦・紹介文」の授業技術
- 具体例と条件の提示で、意欲と見通しをもたせる
- 1人1台端末を活用して、情報を収集、整理させる
- 付箋に書いた小見出しを出し合い、グループで構成を検討させる
- アプリで作品を共有し、感想を交流させる
- 第6章 「報告・提案文」の授業技術
- 取材にタブレット端末を活用し、短冊で構成を検討させる
- 5ステップで、詳しく丁寧に調査させる
- 紙面構成、書き方を、順を追って丁寧に指導する
- 調査カードで、考え、理由、事例の関係をはっきりさせる
- 写真やブックリストづくりで、活動への意欲を高める
- 3つの思考を働かせ、筋道の通った文章を書かせる
- 資料と文章の関連をつかませ、意図に合う資料を使えるようにする
- 第7章 「説明・解説文」の授業技術 「読むこと」との複合単元
- 「よくない説明」との対比で、ポイントに着目させる
- 「読むこと」教材で、情報を正確に取り出す力をつける
- 教材文と調査対象の書き方の違いを、丁寧に指導する
- 活動への動機づけと整理の仕方の指導を、丁寧に行う
- 思考の型を意識して、資料を読み取らせる
- 「時系列」「具体―抽象」を、思考ツールに整理させる
- PowerPointを活用して、効率的に質を高める
- 第8章 「物語の創作」の授業技術
- 登場人物を生かして書かせる
- 物語の構造を生かして書かせる
- ファンタジーの構造を生かして書かせる
- 第9章 「詩の創作」の授業技術
- 助走 ねらいを絞った指導計画をつくる
- ホップ 穴あき詩の鑑賞で、1文目のインパクトを意識させる
- ステップ 穴あきの詩や人気曲の歌詞で、変化のある対句を意識させる
- ジャンプ 三角理論で、飛躍のある終わり方を意識させる
- 着地 2種類の鑑賞法で、言葉選びのよさに気づかせる
- 第10章 「短歌・俳句の創作」の授業技術
- 作文や日記を書いてから、短歌・俳句を書かせる
- 学校行事を題材に、短歌を創らせる
- 散歩しながら、俳句を創らせる
- 歌会・句会を開く
- 歳時記を活用して、季語の置き換えを楽しませる
序章
すべての子どもに「書く」力をはぐくむために
桃山学院教育大学 /二瓶 弘行
すべての「書くこと」の基盤となること
言うまでもなく、「書く」力の育成は、国語科教育が担う大きな役割です。年間を通して国語授業で多くの時数を使い、「書く」学習活動が日常的に展開されています。作文単元のみならず、毎日の文学作品や説明文の授業でも、必ず「書く」学習は設定されています。
では、そのような国語授業により、子どもたちは「書く」力を獲得しているのでしょうか。「文章を書くことが嫌い」「何を書いていいかわからない」「作文があるから国語の授業がおもしろくない」。そんな言葉を口にする子どもたちは、どこの国語教室にもいます。
だからこそ、すべての子どもに「書く」力をはぐくむための授業の基盤を押さえましょう。
@「何のために」書くのか〔書くことの目的意識・必然性の自覚〕
A「何を」書くのか〔書くことの内容の整理・吟味〕
B「どのように」書くのか〔書き方・技術の習得・活用〕
★「書きたい」という強い意欲〔書くことの学びのすべての土台〕
書きたい、書かなければならない。だから「何を、どのように」書けばいいのか
説明文単元「ZOO」(2年)は、書くことの授業づくりの基盤を踏まえ、展開した実践です。
単元第一次「上野動物園への詩の創作旅行」を終えた彼らに提案します。
「次は、好きな動物の博士になって、動物園のお客さんに、動物の秘密を教えてあげよう」
歓声を上げて喜ぶ彼らに真剣な顔で話します。
「『動物博士』になるというのは、とても大変なことです。その動物についていろいろなことを調べなければなりません。博士なんだから、その調べたことをみんな覚えて、話をしなければなりません。それができて、はじめて『動物博士』です」
6月末に上野動物園を再訪することを伝えて、それまでに立派な「動物博士」になるために学習することを確認します。
まず、自分が調べる動物を選択・決定します。なぜその動物を選んだのか、理由が必要なことを話します。自分で意思決定することは、その後のすべての学習活動のエネルギーを生み出します。安易な選択では、学習意欲は持続しません。
どの動物の博士になるかを決めたら、その動物の情報収集をします。子どもたちは、学校の図書室・地域の図書館から本や図鑑を借り出してコピーをとったり、ノートに書き写したりします。また、インターネットを利用して関連資料を印刷してきます。
多くの資料コピーを手にした子どもたちは喜々としています。ところが、その情報のほとんどが使えません。漢字が読めない。言葉の意味がわからない。それでも、何とか内容がわかる情報もあります。しかし、断片的で活用できません。予想された状態に陥った子どもたちに、説明文「いろいろなふね」(東京書籍、1年)の文章を提示します。
子どもたちに話しました。この説明文「いろいろなふね」は、「船の博士」が書いた文章であること。船を大好きな人が、船のことをみんなにわかりやすく説明した文章であること。
だから、この「いろいろなふね」のような説明文を書き、それを台本にして覚えて話せば、立派な「動物博士」になれること。
この「いろいろなふね」を学習材に、説明文の基本構成「美しいしくみ」を指導します。そうして、子どもたちは自分の調べたことをまとめる方法を獲得しました。彼らは、これまでに収集した自分の大好きな動物にかかわる情報を整理していきます。
伝えたい1つの情報を1つの「小部屋(意味段落)」にまとめます。それらを「3つの大きな部屋」(はじめ・説明・まとめ)の構成に即して文章化します。
2年生には、実に高度な学習です。けれども、彼らは懸命に構成を考え、説明文を書き続けました。もちろん、40人いれば、そこには能力差が歴然とあり、書いた文章内容には質的な差があります。しかし、重要なことは40人全員が「自分の伝えたいことを説明文の形式で文章化できる」という事実です。今後、彼らは様々な活動場面で、例えば総合学習の調査活動で、この「調べたことを整理し、文章でまとめる」方法を駆使することでしょう。
このようにしてまとめた文章が、そのまま上野動物園で博士として話すときのスピーチ原稿になることを伝えました。1人の子の文章の一部を載せておきます。
キツネのひみつ
これから、キツネのひみつを五つ、お話ししましょう。
はじめに鳴き声についてお話しします。鳴き声にもしゅるいがあります。発じょうきに発せられるオスのココンコンコンという声は、メスをよぶ声、なわばり宣言の声ともいわれています。子どもや仲間にきけんがせまったことをしらせるするどいウギャー。あと、えさをはこんできたときや、じゅにゅうをしらせるクックックッなどがあります。
つぎに子そだてについてお話しします。子そだてをするときに、前の年に生まれた子ギツネがえさをはこんだり、す穴につれていったりして、子そだてを手つだいます。
三つ目に、す穴についてお話しします。(略)
四つ目に、食べものについてお話しします。(略)
さいごに、てきについてお話しします。(略)
このほかにも、ひみつはいっぱいあります。
わたしはキツネをもっともっとしらべてみたいです。
本番に向けて、教室の中でクラスの仲間を「お客」にして、話す練習を開始します。単元の大きなねらいでもある、「生きたコミュニケーション能力」をはぐくむ学習です。
相手の顔をしっかり見て、相手の反応を確かめながら、話すことを指導します。スピーチ原稿をただ一方的に話して終わっては、お客さんに失礼だと話します。
そして、いよいよその日が来ました。待ちに待った上野動物園での本番の日です。活動開始。彼らは各自の動物の檻の前へと散らばります。手に自分がかいた動物のポスターを持って。
その後、1時間半。彼らの奮闘は続き、多くのドラマがありました。
その日、彼らは見事に「動物博士」になりました。
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- 明治図書
- よかったです。2024/10/120代・小学校教員
- これまでのシリーズも保有していますが、読みやすく、仕事に活用させやすいです。2022/11/2520代・小学校教員
- 書くという活動について、どんな意図を持って系統的に指導しているのか、どうしてもクラスや学年で相談する言語活動ではありますが、学校として系統性や一歩踏み込んだ共通認識でより子どもたちの力をあげることができると感じました。2022/10/1440代・小学校教員
- シリーズで購入させていただいております。今後も楽しみにしております。2022/9/1620代・小学校教員