- はじめに
- 第1章 国語科における「読解方略」の習得・活用
- 1 言葉による見方・考え方と読解方略
- 2 説明文/論説文における「読解方略」習得・活用の意義とポイント
- 3 文学における「読解方略」習得・活用の意義とポイント
- 4 「読解方略」を位置づけた授業デザイン
- 第2章 中学校・高等学校国語科の読解方略42&習得ミニワーク
- 説明文/論説文・文学に共通する読解方略
- 方略1 辞書で調べる[構造と内容の把握]
- 方略2 5W1Hを考える[構造と内容の把握]
- 方略3 音読から心情を考える[構造と内容の把握]
- 方略4 難しい部分を言い換える[構造と内容の把握]
- 方略5 解説を入れる[構造と内容の把握]
- 方略6 題名から考える[精査・解釈]
- 方略7 文体から考える[精査・解釈]
- 方略8 対比して考える[精査・解釈]
- 方略9 どんな時代・場所かを考える[精査・解釈]
- 方略10 例を作ってみる[考えの形成]
- 方略11 作者の事情から考える[考えの形成]
- 方略12 自分が受け取ったメッセージを考える[考えの形成]
- 方略13 当時の社会を調査する[考えの形成]
- 方略14 問いを立てる[考えの形成]
- 主に説明文/論説文で活用する読解方略
- 方略15 QやAはどこかを探す[構造と内容の把握]
- 方略16 意見と根拠を探す[構造と内容の把握]
- 方略17 つなぎの言葉から文の関係を考える[構造と内容の把握]
- 方略18 あえて反対する[考えの形成]
- 主に文学で活用する読解方略
- 方略19 絵にする[構造と内容の把握]
- 方略20 人物の関係を考える[構造と内容の把握]
- 方略21 心情はどう変わったかを考える[構造と内容の把握]
- 方略22 どんな人物かを考える[構造と内容の把握]
- 方略23 近くから見る[精査・解釈]
- 方略24 遠くから見る[精査・解釈]
- 方略25 口調や表情から考える[精査・解釈]
- 方略26 発言や行動から考える[精査・解釈]
- 方略27 語りのしくみを考える[精査・解釈]
- 方略28 助詞から考える[精査・解釈]
- 方略29 いつ語っているかを考える[精査・解釈]
- 方略30 服装や持ち物から考える[精査・解釈]
- 方略31 語り手の思いを考える[精査・解釈]
- 方略32 天候や風景から考える[精査・解釈]
- 方略33 「 」アリとナシから考える[精査・解釈]
- 方略34 言葉の選び方から考える[精査・解釈]
- 方略35 比喩から考える[精査・解釈]
- 方略36 特別な表現から考える[精査・解釈]
- 方略37 語りの偏りから考える[精査・解釈]
- 方略38 自分の経験ではどうかを考える[考えの形成]
- 方略39 物語世界の特徴を考える[考えの形成]
- 方略40 隠して考える[考えの形成]
- 方略41 演じて考える[考えの形成]
- 方略42 象徴から考える[考えの形成]
- Column カードを用いた読解方略の活用と三つの議論の形式〜「読み深めカード」の活用〜
- 第3章 中学校 読解方略を位置づけた授業プラン
- 1年/説明文 自分の脳を知っていますか(池谷裕二)
- 1年/文学 オツベルと象(宮沢賢治)
- 1年/文学 少年の日の思い出(ヘルマン・ヘッセ作、高橋健二訳)
- 1年/古典 竹取物語―蓬莱の玉の枝
- 2年/説明文 学ぶ力(内田樹)
- 2年/文学 坊っちゃん(夏目漱石)
- 2年/文学 走れメロス(太宰治)
- 2年/古典 平家物語―敦盛の最期
- 3年/説明文 async―同期しないこと(坂本龍一)/問いかける言葉(国谷裕子)
- 3年/文学 握手(井上ひさし)
- 3年/文学 故郷(魯迅作、竹内好訳)
- 3年/古典 おくのほそ道―平泉(松尾芭蕉)
- 第4章 高等学校 読解方略を位置づけた授業プラン
- 論説文 水の東西(山崎正和)
- 論説文 「である」ことと「する」こと(丸山眞男)
- 文学 羅生門(芥川龍之介)
- 文学 山月記(中島敦)
- 文学 舞姫(森鴎外)
- 文学 こころ(夏目漱石)
- おわりに
はじめに
初任のころ、高校一年生を相手に「羅生門」の授業をしていたら、かなりの人数が居眠りをしたことがある。そのとき私は膨大な授業準備をして、自分としては刺激的な「読み」にたどり着いていた。そこでその「読み」を生徒に熱弁したのだが、生徒にはそれが退屈だったようである。教師の「読み」を押しつけ、生徒の主体的な「読み」を抑圧した結果であった。反省した私はしばらくのち、今度は中学2年生を相手に太宰治の「走れメロス」で授業をした。今度は生徒の主体的な「読み」を抑圧しないようにと、生徒から作品に対する疑問を募ったり、生徒相互の話し合いに多くの時間を割いたりした。しかしこの授業では、程度差こそあれ、多くの生徒が文章に対して惜しくも様々な見落としをした。あと一歩のところで生徒それぞれの「読み」を大きく更新する機会を逃していた。このような生徒の姿を見ると、やはり生徒の見落としを指摘し、「正しい」「読み」に導く誘惑にかられた。しかし生徒の見落としを指摘し、「正しい」「読み」に導くほど、また生徒の「読み」を抑圧することになる。生徒の主体的な「読み」を大事にするべきか。それとも文章に対する「正しい」「読み」を大事にするべきか。国語教員を悩ませるこの問題は、かつて論争に発展したこともある難問である(荒木繁と奥田靖雄による論争。田近洵一により「『主観主義と客観主義』論争」と呼ばれた)。
教師が生徒の主体的な「読み」を抑圧せず、生徒が自ら文章の重要な部分などを捉えて、それぞれの「読み」を更新していくことができれば、この難問は解決する。それには、どのような指導をすればいいのだろうか。
「走れメロス」を教材にした右の授業において、ある生徒が初発感想で「語り手は誇大表現をしているんじゃないか」という疑問を提示した。「太陽の、十倍も速く走った」などは、確かに誇大表現といえるかもしれない。この生徒が提示した疑問は、語り手の語り方に意識を向け、語り手の思い(例えばメロスの物語をフィクションと割り切っているのか。それともメロスが体現した「信実」に心酔しているのかなど)を考えることにつながる重要なものである。生徒がこのようなことに意識を向けているのであれば、生徒は自ら文章の重要な部分などを捉えて、それぞれの「読み」を更新していくと思える。では、多くの生徒がこのようなことに意識を向けることができるようになるには、どのような指導をすればいいのだろうか。
その手がかりは二〇一七〜二〇一九年告示の新しい学習指導要領にあるように思える。『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 国語編』では「高等学校では、教材への依存度が高く、主体的な言語活動が軽視され、依然として講義調の伝達型授業に偏っている傾向があり」(4頁)と私の「羅生門」のような授業の課題を指摘し、それを改善するために、「言葉による見方・考え方を働かせ、言語活動を通して、国語で的確に理解し効果的に表現する資質・能力」(21頁)の育成を教科の目標においた。右の生徒が「語り手は誇大表現をしているんじゃないか」という疑問をもてたのは、この生徒が語り手の語り方に意識を向けるという「言葉による見方・考え方」を働かせたからではないだろうか。そうであれば、教師は生徒に「言葉による見方・考え方」を働かせることを促すことで、生徒の主体的な「読み」を抑圧せず、生徒が自ら文章の重要な部分などを捉えて、それぞれの「読み」を更新していくことを支援できるのではないだろうか。
本書はこの「言葉による見方・考え方」を働かせることを促す一つの方法として、読解方略の活用を提案する。42種に整理した読解方略の説明と書きおろしの文章による読解方略ミニワーク、それに教科書教材を用いた授業プランがその主な内容である。本書が皆さんのよりよい学習指導の一助になることを願う。
二〇二二年七月 /犬飼 龍馬
コメント一覧へ