社会科授業サポートBOOKS
PBL的社会科単元構成による小学校社会科の授業デザイン〈5年生〉

社会科授業サポートBOOKSPBL的社会科単元構成による小学校社会科の授業デザイン〈5年生〉

新刊

BEST300

VUCA時代を生き抜く子どもを育てる新しい社会科授業づくり

社会で起こっている事象の文脈に即して必要な知識を教師がしっかりと教えつつ、その知識を活用したりさらに必要な知識を獲得し、問題を的確にとらえ有効な解決策を考えることをゴールに設定するPBL的社会科単元構成の具体を、小学5年の社会科で提案しています。


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PDF
ISBN:
978-4-18-399424-0
ジャンル:
社会
刊行:
対象:
小学校
仕様:
A5判 176頁
状態:
在庫あり
出荷:
2025年4月16日

CONTENTS

もくじの詳細表示

はじめに
Chapter1 PBL的社会科単元構成による小学校社会科の授業デザイン
01 PBLとは
02 PBL的社会科単元構成とは
03 PBL的社会科単元で取り組むプロジェクト[第1次]
04 プロジェクトのために知っておくべきことは[第2次]
05 再度プロジェクトに取り組む[第3次]
06 PBL的社会科単元構成と学習評価
07 学習をサポートするワークシート
08 児童の解決策(作品)をどのように共有するか
Chapter2 「わたしたちの国土」の授業デザイン
01[世界の中の日本] 世界の国旗をグループ分けしてみよう
02[国土の地形や気候の特色と人々のくらし] ALTの先生に日本のおすすめスキーリゾート地と観光プランを提案しよう!
Chapter3 「わたしたちの生活と食料生産」の授業デザイン
01[くらしを支える食糧生産] 気候変動に対応しつつ,長野県下伊那郡でリンゴ農園を経営しよう!どんな品種をどれだけ植える?
02[米づくりを中心とした食糧生産] 未来の米づくりサミットを開催しよう!―2045年の日本の米づくりを描こう!―
03[水産業を中心とした食糧生産] 自然環境に負荷をかけない持続可能な漁業を目指し,和歌山県串本町でクロマグロの完全養殖に取り組もう!
Chapter4 「わたしたちの生活と工業生産」の授業デザイン
01[自動車工業を中心とした工業生産] トヨタが世界一の自動車メーカーになるための戦略を提案しよう!
02[工業生産を支える運輸と貿易] 2050年に向けて北陸工業地域を支える工場を呼びよせよう!
Chapter5 「情報化した社会と産業の発展」の授業デザイン
01[情報産業と私たちのくらし] ラジオの災害放送に挑戦しよう!愛媛県新居浜市で南海トラフ地震の被害にあったら,コミュニティFMからどのような情報をいつ提供する?
02[情報を生かして発展する産業] スマート観光で城崎温泉の未来をデザインしよう!どんな「企画」を提案できる?
Chapter6 「わたしたちの生活と環境」の授業デザイン
01[自然災害から人々を守る] 災害弱者の人的被害を減らす「未来の防災アプリ」の機能を考えよう!どんな機能があればよいだろう?
02[わたしたちの生活と森林] 市内の森林を守る「森林を守りたい(隊)」プロジェクト!今,わたしにできることを考えよう!
おわりに

はじめに

○誰かにとって役に立つ社会科に

 社会科で取り組む学習は,世の中のしくみの理解だけでなく,誰かのために役に立つことが理想です。理解だけではなく,誰かにとって役立つことを考えるマインドの育成が目標です。これが市民的資質育成の具体の一つと考えてよいでしょう。それでは,誰かって誰?それは私個人,つまり私だけのためではありません。少なくともWeまたはYou,つまり組織だろうと思います。そういうプロジェクトが社会科的ではないでしょうか。役に立つ人の顔が浮かぶと,プロジェクトに取り組みたいという気持ちも高まります。

 現代はVUCA(Volatility:変動,Uncertainty:不確実性,Complexity:複雑性,Ambiguity:曖昧性,の頭文字をとった造語)の時代と言われています。先行きが不透明で予測が困難だということです。これまでもそうだったのですが,このような時代には思考力や判断力が一層重要になります。AIやロボットなどのテクノロジーの進歩もめざましいものがあります。2045年がシンギュラリティ(singularity)(Kurzwell,2006)という予測もありますので,これまであった多くの仕事が,近い将来人間のものでなくなるかもしれません。この予測が正しいとすれば,今後は人間にしか考えられないようなことを考える力が重要になるでしょう。これもとても難しいことです。

 もちろん思考や判断のためには幅広い知識が必要です。VUCAの時代を乗り切るために必要な授業とは?という問いに対して,今回提案するPBL的社会科単元構成が少しは役立つのではないかと考えました。


○学習者観の転換

 授業観や学習観の転換の必要性が強調されています。授業観や学習観の転換の核心は,「学習者観」の転換だと思っています。学習者観に関する議論は,古くから行われています。例えば,学習者をタブラ・ラーサ(tabula rasa:文字の書いていない白紙状態)と見るものや,経験主義や,社会構成主義に基づいたものなど様々あります。

 ブルーナー(Bruner, J. S.)は,4つのフォークペダゴジーで,模倣する者,無知な受容者,思考する者,知識の運営者という子供(学習者)の見方を示しています(Bruner,1996,岡本ほか訳,2004)。これまでの学校教育では,子供を必要以上に模倣する者や無知な受容者として位置づけてきたのではないでしょうか。この傾向は,小学校よりもむしろ中学校で,さらに高等学校で顕著だったかもしれません。一方,近年の高等学校では探究の授業が重視され,私が勤務する県内でも多くの学校が探究型の授業に取り組んでいます。大学入試でも,総合型選抜が注目されるようになり,探究型の学習成果が発揮できるようなものも実施されてきています。フォークペダゴジーに話を戻しますと,学習者観の転換は,模倣する者や無知な受容者から,思考する者や知識の運営者に180度転換するようなものではありません。思考するための知識は重要ですので,4つのフォークペダゴジーのバランスをとることが重要な問題なのです。

 VUCAな時代に必要な力が,人間にしか考えられないようなアイデアを生み出す力や,それを実行する企画・実践力だとすれば,先生が教え児童が答えるというTeach → Studyよりも,児童が考え先生がサポートするLearn → Coachのほうが有効でしょう。コーチングでは,「可能性や答え,それらを見つける力はすべてクライアント(コーチングを受ける人)に具わっているという前提に立ち,クライアントの力や可能性を引き出し,行動化を促すこと」(曽余田,2011)という考え方をしています。もちろん,すべてが児童に備わっているわけではありませんから,よりよいアイデアを引き出すために必要な知識や技能をつける手助け(つまり教えること)も必要です。何より学習指導要領に即して授業を実践することが求められている学校現場では,児童が獲得すべき知識もたくさんあります。

 学習者中心の授業が求められていますが,学習者中心とは何も教えない授業ではありません。教えたほうがよいこともあります。Learn → Coachという社会構成主義的な授業観をベースにしつつ,Teach → Studyという客観主義的な授業観を組み込んで単元を組み立てることが大切でしょう。社会で起こっている問題を的確にとらえ,有効な解決策を考えるためには,当然知識が必要なのです。社会で起こっている事象の文脈に即して,必要な知識を獲得する,そしてその知識を活用して,問題を的確にとらえ,有効な解決策を考えることこそ大切なのではないかと考えています。本書ではこういった考え方に基づいて,PBL的社会科単元構成を提案しています。


○PbBLを含んだPjBLによる単元構成

 本書で提案するPBLは,本編でも述べますが,プロブレム・ベースド・ラーニング(Problem-Based Learning : PbBL)を含んだプロジェクト・ベースド・ラーニング(Project-Based Learning : PjBL)を想定しています。また,本書で提案するPBLに「的」という言葉をつけているのは,学習者の問いに完全に依存することがない点で,いわゆるPjBLの定義とは異なっていることを示しています。PBL的な単元構成を提案するのは,社会で起こっている事象に即してその解決策を考えることをゴールに設定し,そのために必要な知識を構造化し,獲得して活用させたいからです。そのためPbBLを組み込んでいます。PbBLは医学部の教育で用いられてきた方法で,教員が学生に症例のシナリオを示して,それについて徹底的に事実を調べ,可能性のある仮説を複数立て,グループで共通認識をもてるようにする学習方法です。

 本書で提案する単元プランは,単元全体としてはPjBLになっていますので,単元の最初からプロジェクトに対する成果物(product)を要求しており,パフォーマンス課題(performance task)のような位置づけになっています。解決のためのプランをよりよいものにするためには,少なくとも事象に関連した事実のチェックが必要です。そのうえで,プランが本当に実行可能なのか,また,実行したとしてどの程度問題を解決するのか,実行することにより弊害は発生しないのかといったことについても考えながら,成果物をよりよいものに「作り替える」プロセスを設定しています。問題をよりよく解決するプランにするためには,どのようなことに目配りをしなければならないか,つまりどのような知識が必要なのかを,児童が互いを尊重しつつ考えることが重要だという考えから作成しています。さらに,「作り替える」という作業が知識とのさらなる対話を生み出し,自分自身の今を,事実や知識に反射させること(reflection)にもつながります。このような省察を繰り返しながら学習する知識が,社会の問題解決のために活用できるという実感をもたせると思っています。


○キュレーション

プロジェクトの成果物は,学習のメッセージを学校内外に伝えるために,それ全体を校内の適切な場所に展示したいです。クラスのみんなの成果物をどのように展示すれば,取り組んだ学習の意義を伝えられるのかを児童とともに考え,発信したいのです。暮沢(2021)は,キュレーションという言葉の意味を「価値を生み出す生き方」にまで拡張すると述べます。児童の成果物に込められた情報を組み替えて,さらに新しい価値づけを試みるところまでをPBLととらえて,学習に取り組みたいものです。


   編著者 /吉水 裕也

著者紹介

吉水 裕也(よしみず ひろや)著書を検索»

1962年大阪府生まれ。兵庫教育大学理事(副学長),大学院学校教育研究科教授。兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科教授。博士(学校教育学)。中・高教員などを経て,現職。専門は社会科教育学,地理教育論。

主な論文は,「地理的スケールの概念を用いたマルチ・スケール地理授業の開発−中学校社会科地理的分野「身近な地域の調査『高知市春野地区』」を題材に−」(2011年,新地理59-1),「防災ガバナンスのアクター育成としての地理歴史科地理コミュニティ問題学習」(2013年,社会系教科教育学研究25)など。

(2025年3月時点)

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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