- はじめに
- 第1章 「知識基盤社会」に求められる学び
- 1 「知識基盤社会」とは
- アイデアの想像による新たな価値の創造/深刻な未解決の問題への対応/協働の必要性
- 2 「産業基盤社会」における学校の役割と学習指導
- 「産業基盤社会」の特色/情報処理能力の偏重/旧い学力観と学習指導観,及び学習観の転換の必要性
- 3 平成29年版の学習指導要領の「新しさ」
- 豊かな創造性を備え持続可能な社会の創り手となる/個性を生かし多様な人々との協働を促す/カリキュラム・マネジメント/学習したことの意義や価値の実感/「資質・能力」とは
- 第2章 社会構成主義―熟議する誠実な対話力―
- 1 社会構成主義とは
- 第一の原理 子どもは知っていることに基づいて学ぶ/第二の原理 大人との協働的実践/第三の原理 行動の規則としての知識/第四の原理 現実世界における行為者としての人間/第五の原理 「合意」に基づく「最適解」
- 2 「主体的」な学び
- 「アクティブ・ラーニング」とは/「主体的」な学びの基本条件 事例1「丸写し・朗読的発表」(小学5年社会)/自分の言葉で語る 事例2「子どもの五感を解放し,驚きを表現させる」(小学3年総合)/自分の経験とつながりのある語り事例3「みんなは『信長は残酷だ,ひどい』と言うけれど…」(小学6年社会)/生活についての自覚/熱く語れるものをもつ 事例4「夢中になっていることを語る」(高校英語)
- 3 「対話的」な学び
- 「対話」を通じての知識の構成/「対話」の基本としての「聞き合い」/「対話」が開始されるとき 事例5「信長の家来になるとパワハラされそうだ」(小学6年社会) 事例6「家光は上から目線でいばっている」(小学6年社会)/「つぶやき」による応答/「わかってもらいたい―わかってあげたい」
- 4 熟議する誠実な対話
- 「わからなさ」の留保/異文化間の「わからなさ」/「熟議」への誠実な参加・貢献/とことんわかり合えるまで話し合うこと 事例7「売上金をもって合流する」(小学5年総合)/「対話」の主宰者としての教師/指示・説明ではなく活性化
- 第3章 非認知的能力―課題達成に向かう確かな情動力―
- 1 「社会的・情動的コンピテンシー」
- デューイの教育論の先見性/EQ(こころの知能指数)の提唱/「社会的・情動的スキル」/「非認知的スキル」への関心
- 2 「深い」学び
- 学びが「深まる」とは/子どもにとって「学びが深まる」評価/「振り返り」の意義/物語的に語ること/自分の人生を主人公として生きる 事例8「追い込みがきく,本番に強い,失敗しても自分で責任をとる」(中学・高校)
- 3 情動のサポーターとしての教師
- オンライン型の教育的営為/学習活動における情動のストーリーの構想/教師自身の非認知的能力の必要性/情動のメタ認知の指導・支援 事例9「教材と生活の結びつき,及びそのための教師の指導」(富山市立堀川小学校)/教師によるコーチング 事例10「『チョー緊張』する『心臓バクバク』の体験」(小学3年総合)
- 第4章 社会関係資本―人的な互恵的つながり力―
- 1 親密で互恵的なインフォーマルなつながり
- 「社会関係資本」とは/教育学における社会関係資本への着目/学校教育を通じての子どもの「社会関係資本」蓄積の可能性
- 2 「主体的・対話的で深い学び」の役割と可能性
- 親子関係の子どもの認知的・非認知的能力の発達への影響/教師とのつながりの形成/友だちとのつながりの形成 事例11「すっかり昔の〇〇君に戻ったね」(中学3年社会)/地域の人とのつながりの形成
- 3 「社会に開かれた教育課程」の実現
- 「社会に開かれた」の意味/人の生き方や人柄に焦点を当てる/教師自身の人間力が問われる 事例12「うちのような工場で働きたいと思う子どもがいなくなってしまう」(小学5年社会) 事例13「お茶屋さんは小さい頃からお茶が好きで毎日飲んでいたのかな」(小学2年生活)/子どもたちが学びたいこと 事例14「さすがプロだ」(小学5年社会)/子どもたちは「子ども扱い」されたくない 事例15「子どもたちが厳しい評価を求めるとき」(小学6年総合)/地域の人々との情動的なつながり 事例16「組合長さんが靴下を履いていなかったのは…」(小学5年社会) 事例17「特別支援学級の子どもたちの『ジャンプ』が生まれる」(小学校特別支援学級)/「一生もの」の学び 事例18「あきらめない気持ち」(小学3年総合) 事例19「修行するのなら一流のお店で…」(中学職場体験学習)/子どもたちが準備し動く
- 第5章 「資質・能力」を育むための教師の立ち位置
- 1 教師に期待される役割
- 対話のファシリテーター 事例20「そんなことしたら作戦がバレてしまう」(小学6年体育)/情動のサポーター 事例21「自分の成長へのタワー」(小学6年図工)/つながりのコーディネーター
- 2 教師の授業実践者としての「資質・能力」
- 教師の授業の構想・実践における探究力/教師の共感力とコミュニケーション能力/教師の人的つながりの広さ/「チーム学校」へとつながる校内研究
- おわりに
はじめに
学習指導要領は大きく転換しました。
平成29年版の小学校と中学校の学習指導要領,平成30年版の高等学校学習指導要領では,どのような点がどのように転換されたのでしょうか。
第一に,各教科・各領域の「目標」と「内容」の構成原理です。
従来,学習指導要領は,昭和33年版以来,子どもたちが理解・習得すべき「内容」に基づいて構成されてきました。それが今回の改訂では,子どもたちに育むべき「資質・能力」に基づいて構成されるようになりました。
「資質・能力」(competence)とは,学ぶことや生きることに示される良質な特性です。
学習指導要領の表記を使用すれば,「(1)知識及び技能」が習得され,「(2)思考力,判断力,表現力等」が育成され,「(3)学びに向かう力,人間性等」が涵養されている状態です。「生きる力」が育まれていることといえます。
そこには,全国学力・学習状況調査で検証されるような「学力」も含まれています。
しかし,重要なことは,学校における学習指導の「目標」が,「学力」の形成ではなく「資質・能力」の育成に明確に転換されたことなのです。
第二に,社会の在り方と学校教育の役割についての考え方の転換です。
今回の学習指導要領には,「前文」が付せられています。
そこに,次のような一文があります。
これからの学校には,(中略)一人一人の児童(生徒)が,自分のよさや可能性を認識するとともに,あらゆる他者を価値のある存在として尊重し,多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え,豊かな人生を切り拓き,持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる。
これからの社会の目指すべき在り方は,「持続可能な社会」であると示されています。そして,学校教育の役割は,「持続可能な社会の創り手」を育てることであると示されています,そのために,多様な「よさや可能性」の相互「尊重」と「協働」を原理とする教育活動が要請されています。
「主体的・対話的で深い学び」とは問題解決学習であり,多様な個性的な能力が「協働」する「探究的な学び」なのです。多様な個性の協働による学習活動を展開することにより,「持続可能な社会の創り手」を育てることが,学校教育の役割なのです。
平成の30年間,「学力低下論争」など様々な議論が展開されました。
しかし,30年をかけて,学校教育の目指すべき方向と在り方についての考え方は転換を遂げました。
このことは,学校教育に関する原理の歴史的な転換なのです。
従来の「経済成長」を担う人材育成を学校教育の役割とし,そのために必要な知識及び技能を習得させる学習指導は,過去のものとなりました。
次の点を確認しましょう。
①「持続可能な社会の創り手」を育てることが学校教育の役割です
②そのために必要な「資質・能力」を育むことが学習指導の目標です
③そのような学習活動を推進するための方法が,協働的探究としての「主体的・対話的で深い学び」です
本著では,このような観点から,近年,哲学・心理学・社会学などで注目されている3つの概念―社会構成主義,非認知的能力,社会関係資本―を手がかりにして,次の点について考えていきます。
①「持続可能な社会の創り手」として必要とされる「資質・能力」は何か
②それを「主体的・対話的で深い学び」を通じてどのように育成するのか
本著では,先の3つの概念を手がかりに,「主体的・対話的で深い学び」を通して育むべき「資質・能力」を,「熟議する誠実な対話力」「課題達成に向かう確かな情動力」「人的な互恵的つながり力」として捉え,それらを育むための問題解決学習の指導法について提案しました。
/藤井 千春
-
- 明治図書
- 問題解決学習の考え方を理解するために読ませていただきました。2025/4/540代・高校教員
- 問題解決学習が単元を通してダイナミックに仕組むことが一層求められる。2022/12/3140代・教委
- 問題解決学習についてより理解を深められた2021/4/3020代・中学校教員
- 言っていることは至極もっとも。ただし、やや理想論的であり、それをどう具現化するかに課題が残る。2020/8/15Y.S