- はじめに
- 1章 「ジレンマ発問」でつくる中学校社会科授業
- 「ジレンマ発問」でつくる中学校社会科授業
- 考えを引き出し,対話を深めるジレンマ発問
- ジレンマ発問を位置づけた単元構成,授業づくりのポイント
- 2章 中学校地理のジレンマ発問&授業プラン
- A 世界と日本の地域構成 (1)地域構成 カスピ海の物語
- 発問① カスピ海は「海」? それとも「湖」?
- 発問② 国境線を変えるために,自然物の解釈を変えてよい?
- B 世界の様々な地域 (2)世界の諸地域(アフリカ州) ナイル川をめぐるエジプトとエチオピアの物語
- 発問① エチオピアによるダム建設を認める? 認めない?
- 発問② どの配分が最も衡平な配分なのか?
- B世界の様々な地域 (2)世界の諸地域(北アメリカ州) アメリカの農業の物語
- 発問① ハイプレーンズの農業,続くか? 続かないか?
- 発問② 日本の農業とアメリカの農業では,どちらが「豊か」な農業か?
- C 日本の様々な地域 (2)日本の地域的特色と地域区分(自然環境) 土器川の防災物語
- 発問① 琴平町や善通寺市を浸水させないために,土器川の上流部を整備すべきか?
- 発問② 災害対策に優先順位をつけるべきか?
- C 日本の様々な地域 (4)地域の在り方 人口減少社会と坂出市の物語
- 発問① もし,町に居住誘導区域を設ける場合,一極集中型か? 多極ネットワーク型か?
- 発問② 町を維持するために居住地域を強制すべきか?
- Column なぜ社会科を学ぶのか~中学1年社会科授業開きプラン~
- 3章 中学校歴史のジレンマ発問&授業プラン
- A 歴史との対話 (1)私たちと歴史 暦の物語
- 発問① もし国際社会で世界の暦を西暦に統一する案が提出された場合,賛成するか? 反対するか?
- 発問② グローバル化する社会! 「効率性」をとるか? 「多様性」をとるか?
- B 近世までの日本とアジア (1)古代までの日本 「日本」誕生の物語
- 発問① もしこの時,唐から援軍要請があった場合,倭国の独立を維持するためには,要請を断るか? 受け入れるか?
- 発問② 倭国の独立を守るためには,自立優先か? 文化優先か?
- B 近世までの日本とアジア (2)中世の日本 平将門の物語
- 発問① 国司の印と鍵を手に入れた将門。坂東を支配するか? 朝廷と和解するか?
- 発問② 坂東のために。「正義」をとるか? 「平和」をとるか?
- B 近世までの日本とアジア (3)近世の日本 忠臣蔵裁判~近世確立の物語~
- 発問① 元禄に起きた赤穂事件! あなたは,四十七士を助命にするか? 厳罰にするか?
- 発問② 武家諸法度第1条と第5条,どちらを優先すべきか?
- C 近現代の日本と世界 (1)近代の日本と世界 日米和親条約の物語
- 発問① ペリーが再び来航! 「開国」するか? 「鎖国」維持するか?
- 発問② 国の存亡をかけて! この時,幕府が重視すべきは「アメリカ」か? 「国内」か?
- C 近現代の日本と世界 (2)現代の日本と世界 吉田茂の物語
- 発問① 30万人の再軍備の要求! 受け入れる? 受け入れない?
- 発問② 日本は「憲法9条」と「30万人の再軍備」のどちらを優先すべきか?
- Column 絶対にすべらない! 為替相場ゲームの授業プラン
- 4章 中学校公民のジレンマ発問&授業プラン
- A 私たちと現代社会 (1)私たちが生きる現代社会と文化の特色 情報社会の物語
- 発問① 過去の犯罪歴を消すことは認められる? 認められない?
- 発問② 情報の公共性と秘匿性,どちらを優先するべきか?
- B 私たちと経済 (1)市場の働きと経済 市場経済の物語
- 発問① テロ予測市場に,賛成するか? 反対するか?
- 発問② 安全か? 倫理か? どちらを優先するべきか?
- B 私たちと経済 (2)国民の生活と政府の役割 税の物語
- 発問① もし国際社会でロボット税の導入が提案された場合,賛成するか? 反対するか?
- 発問② 公平か? 中立か? どちらを優先するべきか?
- C 私たちと政治 (2)民主政治と政治参加 裁判員制度の物語
- 発問① この被告人に情状酌量の余地はある? ない?
- 発問② もしあなたが被告人なら,裁判官による裁判と裁判員裁判のどちらを受けたい?
- D 私たちと国際社会の諸課題 (1)世界平和と人類の福祉の増大 資本主義の物語
- 発問① ホンジュラスの選択! 多国籍企業誘致のための経済特区を設置するか? しないか?
- 発問② ホンジュラスの選択! 発展か? 主権か? どちらを優先するべきか?
はじめに
なぜ社会科を学ぶのか。
社会科は,発足当初から「公民的資質」を備えた,民主社会の形成者を育成するという目標観に立つ教科です。しかし,近年の調査結果によると,「国や社会に対する意識」に関して,我が国の若者は他の国に差をつけて低い傾向にあり(日本財団「18歳意識調査」2022年実施),社会科がその本来の目標を達成しているとは必ずしも言えない状況にあります。
では,社会科を通して民主社会の形成者を育成していくためにはどうすればよいのか。
私は,その鍵は,「自分たちの社会」を捉え直すことであると考えています。
地理,歴史,公民で扱う社会的事象の背景にあるジレンマ(社会的価値の対立)を手がかりにして,あらためて「自分たちの社会」を捉え直すことで,自分が生きている時代,地域の文化や制度,問題などが絶対的なものではなく,変わり得るものとして相対化できます。そうすることではじめて,よりよい社会とはどうあるべきか,未来社会に向けて「自分たちの社会」の何を改善し,何を維持していくべきなのかを自ら考える民主社会の形成者へと育っていくのではないかと考えています。
また,民主社会の形成者に求められる資質・能力も時代とともに変化しています。子どもたちの生きるこれからの社会では,人工知能(AI)に代表されるテクノロジーの発達や地球環境問題の深刻化など急速な社会変化を背景として,「豊かさとは何か」「国家とは何か」「社会はどうあるべきか」といった,よりジレンマ(社会的価値の対立)をはらんだ本質的な問いに対する判断を迫られるようになります。そういった本質的な問いに対する選択・判断を迫られた時,「誰かに決めてもらう」のではなく,人工知能(AI)にゆだねるのでもなく,異なる他者と協働して自分たちの責任でよりよい社会を模索していく姿勢こそ,これからの民主社会の形成者に求められる資質・能力ではないかと考えています。
以上のことを,中学校の社会科授業に取り入れ,具体的に実践するために,本書では各分野の社会的事象の背景にあるジレンマ(社会的価値の対立)に着目し,「ジレンマ発問(ジレンマを含んだ発問)」を起点とした単元プランを提案しています。どの単元においても,生徒同士が異なる立場の他者との対話を通して,あらためて「自分たちの社会」のあり方を再考する展開になっています。
「なぜ社会科を学ぶのか」
本書がその問いにこたえる授業づくりの一助になれば幸いです。
2023年1月 /大和田 俊
-
- 明治図書
- 大変参考になりました。2024/8/3140代・教委
- 手軽に買えて参考になる2024/3/25ぐ
- 具体例があったのでよくわかった2023/2/1120代・中学校教員
- じっくりと考えさせたり、揺さぶって考えさせたりする大切さが実践やワークシートから参考になった。2023/1/3130代・中学校教員