- はじめに
- Chapter01 「真のやり取り」と「メモ式スピーキング」
- 1 新学習指導要領が目指す「真のやり取り」とは?
- 2 「コミュニケーション」の観点でやり取りを再考する
- 3 なぜ,キーワードによるメモが必要なのか?
- Chapter02 比べてわかる 即興力につながるメモの取り方
- 1 メモにはよいメモと悪いメモがある
- NG@ メモでなく,完全な文を書いてしまっている
- OK@ キーワードが階層として配列されている
- NGA 流れが見通せない
- OKA 話す流れが見通せる
- 2 メモの基本形
- 3 「概要・要約」+コメント型のメモ
- Chapter03 メモ式スピーキングを成功させる「8つの扉」
- 1 英語と日本語の話の組み立ての違いを体験する@
- 2 英語と日本語の話の組み立ての違いを体験するA
- 3 要約2分,意見は1分
- 4 その都度,口から出る英語が変わることを実感させる
- 5 じっと待つ
- 6 最初から「立体メモ」でなくていい
- 7 教師のインプットがあってこそ
- 8 足場をはずす
- Chapter04 メモ式スピーキングの授業アイデア
- 中学1年
- 1 自分を重ねて伝え合おう!(所有格)
- 本を題材にした対話や,海外の絵本の概要や挿絵から感じたことを伝え合う。
- 2 紹介文の概要を伝えよう!(三人称単数現在形)
- 家族についての紹介文を読み,落としてはならない情報を抽出しながら概要を伝える。
- 3 自分の考えを伝えよう!(過去形)
- 与えられたテーマについて自分の考えや感想を述べる。
- 4 体験したことを伝えよう!(過去形)
- スモールトークとして,過去に体験したことを伝え合う。
- 中学2年
- 5 物語を読んで感想を伝え合おう!(比較級・最上級)
- 少年とイルカの物語を読んでその概要や感想を自分の言葉で伝え合う。
- 6 自分の体験について発表しよう!(過去進行形・There is / are)
- 友達の発表を聞いて,概要や要点を自分の言葉で伝えた上で,自分の体験について述べる。
- 7 スピーチの概要を伝え合おう!(I’m sure that)
- ユニバーサルデザインに関するスピーチを聞き合い、概要を伝え合う。
- 8 互いに意見交換をしよう!(動名詞)
- ホームステイで大切なことに関して意見交換する。
- 中学3年
- 9 災害時に自分ができることを伝え合おう!(現在分詞・疑問詞)
- 災害時の外国人支援についての英文を読み,自分ができることについて伝え合う。
- 10 “I am a 14-year-old Japanese.”の感想を伝え合おう!(関係代名詞)
- 投げ込み教材を読み,話の要点や自分の気持ち・意見を伝え合う。
- 11 「希望を与えてくれた経験」を伝え合おう!(疑問詞・to 不定詞)
- 「津波バイオリンプロジェクト」を自分の言葉で説明し,経験に当てはめて伝え合う。
- 12 限られた時間で考えを伝え合おう!(全項目)
- 1分で話の組立てをして,意見交換を行う。自分で話した英語を書いて確認する。
- Column
- ■ABCDプレゼンテーションとは?
- 参考文献一覧
はじめに
中学校学習指導要領が改訂され,令和3年度からは新しい教科書を使用しての授業が始まりました。これまでにない学習指導要領の大改訂が,実際の教室に大きな影響を与えた年度でした。
私自身,経験年数は重ねてきたつもりでしたが,新しい教育課程初年度であった昨年は,生徒の反応を確かめながら慎重に授業を行わざるを得ませんでした。「大変だった」というのが偽りのない感想です。
同時に,これまで扱ったことのない分量の題材をもとに「成立するかな?」と思える言語活動が成立した時,生徒の表情から読み取れる達成感は何ものにも代えがたいとも感じることにもなりました。
「大変だった」で終わらず,「大変さ」の対価としての生徒の成長を感じられれば,英語授業に対してまた違う景色が見えてきます。
新学習指導要領における「言語活動の高度化」を考えた場合,「即興力の育成」は,外せないポイントです。「話の組み立て」を限られた時間で行う力は,「やり取り」と「発表」の両方において求められます。
しかしながら,「話すこと」を指導する際に具体的にどうやって導いたらいいのかという点に関しては,これといった方法論がこれまでなかったのではないでしょうか。
話す場面設定の工夫や,フィードバックのあり方を意識することがあっても,個々の生徒が「言語産出」できるようになるというテーマに真っ向勝負する視点はそう多くなかったと感じています。
「やり取り」が新学習指導要領の大きな目玉になったことに伴い,授業ではそれを軸に展開されています。しかし,それらの言語活動が,本来学習指導要領で目指される「真のやり取り」であるかどうかは,慎重に判断する必要があるのではないかと感じてきました。会話のターンの継続回数がやり取りの目的となるのでしょうか?いわゆる「中間指導」や「中間評価」が最初から固定化した指導過程を通して,発話した文形式の正確さを上げることがやり取りの主たる目的でしょうか?
「真のやり取り」には,話し手にとっても聞き手にとっても新しい情報の行き来がなければなりません。予想外の展開から出た新しい発話があるからこそ,相手のうなずきが生まれ,自分の言語操作欲も満たされます。
「文形式が追いつかない生徒がいる」という声が聞こえてきそうですが,大切なことは,仮に生徒が1語しか口にしなかったとしても,「先生は,単語の羅列でも全て拾ってくれる」という信頼関係を結ぶことなのです。
本書では,短い時間で話を組み立てることができるようになるために「メモ」の活用を提案しています。日本語で発言するときも,自分の話す番が来る前に,数十秒で話す内容をメモして組み立てる経験をしたことは誰でもあると思います。ただし英語では,英語話者の思考に沿って組み立てる必要があります。
学習指導要領は,いつの時代も「未来志向」です。逆に,そうでなければ意味がないと思います。同時に,そのために現場との乖離を生む懸念もあります。本書では,「話すこと」を切り口に,学習指導要領と実際の教室との「橋渡し」をすると共に,改訂された学習指導要領が本当に求めている「真のコミュニケーション」につながるよう,これまでの授業で手応えを感じたことを紹介しています。
生徒がその時点でもっている知識と経験を総動員して得られ,かつ焼き直しでない「真のやり取り」が教室で展開されるために少しでも貢献できたら,この上ない喜びです。
2023年2月 /吉澤 孝幸
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- 明治図書