- はじめに
- 第1章 新3観点の学習評価を位置づけた中学校地理の授業づくり
- 学習のための評価,そして学習としての評価へ
- 1 学習評価の意義
- 2 目標と評価規準は表裏一体―新3観点による評価―
- 3 知識創造,知識活用と省察をPBL的単元で
- 第2章 「知識・技能」と「思考・判断・表現」の学習評価を中核に位置づけた地理授業プラン
- A世界と日本の地域構成の授業プラン
- プラン1
- (1)世界の地域構成
- 世界の地域構成
- 世界の地域構成を多様な視点から捉え,表現する
- B世界の様々な地域の授業プラン
- プラン1
- (1)世界各地の人々の生活と環境
- 世界各地の人々の生活と環境
- 世界各地の人々の生活と環境を理解し,その多様性を尊重する
- プラン2
- (2)世界の諸地域
- アジア
- 産業の発達と地球的課題との関連を考察する
- プラン3
- (2)世界の諸地域
- ヨーロッパ
- 4つの地域の見方を使って地域的特色・課題を追究する
- プラン4
- (2)世界の諸地域
- アフリカ
- アフリカ州の課題とその要因からよりよい地域を考える
- プラン5
- (2)世界の諸地域
- 北アメリカ
- 北アメリカ州の地域的特色と地球的課題を関連づける
- プラン6
- (2)世界の諸地域
- 南アメリカ
- 他地域とのかかわりを景観写真や主題図から読み解く
- プラン7
- (2)世界の諸地域
- オセアニア
- 写真資料から予想を立て,深める―仏領ニューカレドニアは日本やオーストラリアと親密?―
- C日本の様々な地域の授業プラン
- プラン1
- (3)日本の諸地域
- 九州地方
- 自然環境と生活や産業・文化の関係性を探究する
- プラン2
- (3)日本の諸地域
- 中国・四国地方
- 交通や通信と生活や産業の関係性を探究する
- プラン3
- (3)日本の諸地域
- 近畿地方
- 淀川水系と交通の関わりについて,考えを深める―なぜ大阪には橋がつく地名が多いのだろう?―
- プラン4
- (3)日本の諸地域
- 中部地方
- 自然環境や社会環境を関連づけて産業の特徴を読み解く―多様な産業が発達する中部地方―
- プラン5
- (3)日本の諸地域
- 関東地方
- 東京を中心とした関東地方の人口集中や今後の変容を追究する
- プラン6
- (3)日本の諸地域
- 東北地方
- 東北地方の地域的特色と地域的課題を関連づける
- プラン7
- (3)日本の諸地域
- 北海道地方
- 自然環境を中核として人々の生活や産業の発展との関連性を考察する
- 第3章 「主体的に学習に取り組む態度」の学習評価を中核に位置づけた地理授業プラン
- B世界の様々な地域の授業プラン
- プラン1
- (2)世界の諸地域
- 世界の諸地域
- 世界の諸地域の多様性や地域的特色について調べ,世界の地理的認識を養う―主体的にSDGsの取組が世界の諸地域で進められている背景について追究する―
- C日本の様々な地域の授業プラン
- プラン1
- (2)日本の地域的特色と地域区分
- 日本の地域的特色と地域区分
- 内容の焦点化と,指導と評価の一体化を意識した工夫を
- プラン2
- (4)地域の在り方
- 地域の在り方
- 成果物を3回制作し,その変化で見取る
- おわりに
はじめに
単元全体を見通した評価計画のために
2017(平成29)年に告示された新しい中学校学習指導要領が,2021(令和3)年度から完全実施されてちょうど1年が経ちます。地域の社会科研究会では,テーマの多くが新学習指導に対応した授業づくりです。授業づくりをする際には,目標が先ずあって,それを達成するために内容や方法が決まると考えていたのですが,研究会で中学校の先生にお話を伺うと,未だ内容や方法,特に内容が先に決まることが多いようです。そして,そこには教科書の存在が影響しているようです。もちろん教科書は主たる教材で使用義務もあります。一方で,教科書の全てのページを使う必要もありませんし,教科書を使って授業をしさえすれば良いというものでもありません。授業づくりをする際に,目標ではなく,内容が先に決まってしまうのは,教科書を全て扱わなければならないという感覚からでしょうか。学習指導要領でも,学習の順序が決められていますから,研究会の日程との関係から授業実践する単元を決めるのは合理的に見えます。しかし,学習指導案のテーマに,例えば「ヨーロッパ」とだけ書かれていると,少しがっかりします。ヨーロッパについて学習するのは良いけれど,この単元でどんな資質・能力をつけようとしているのかがわかるようにしてほしいと思うのです。思考力をつけたい,そのため「ヨーロッパ」単元では,次のような思考場面を設定するというような授業者のチャレンジが見える学習指導案であれば,学習指導要領の趣旨に即していると思うのですが,それはなかなか難しいのでしょうか。大切なことは,教科書を隅から隅まで使うことよりも,学習指導要領の趣旨を十分活かした授業ができることです。
そのため,教員は教科書をしっかりと読みこなした上で,教科書のストーリーやコンテンツをどこまで使うのかの判断が必要です。目標をしっかりと設定すれば,自ずとその裏返しに評価の基準がみえてくるはずです。授業づくりと評価は別物と思われているところがありますが,全く別物ではありません。一体化したものなのです。国立教育政策研究所の『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料 中学校社会』では,「学習改善につなげる評価」と「評定に用いる評価」という言葉を使っています。授業づくりにおいては「学習改善につなげる評価」の重要性が問われます。一方,「評定に用いる評価」は,単元の中でもどのタイミングで設定するのが良いのかが問われますので,単元全体を見通した学習課題の設定や評価計画ができているのかという観点からも重要です。単元全体を見通した評価が重要なのです。
さて本書では,新しい3つの観点を踏まえた中学校社会科地理的分野の授業づくりをどのように行えば良いのか,第1章で概論を,第2章では「知識・技能」と「思考・判断・表現」を中心に,15の小項目レベルの授業モデルと評価の手だて(ペーパーテスト)の例を示しています。また,第3章では,「主体的に学習に取り組む態度」を中心に,3つの事例を示しています。
第1章では,評価と評定の違い,学習のための評価と学習としての評価,そして「主体的に学習に取り組む態度」の評価に求められている要素を含む,社会科の単元構成について論じています。学習評価は生徒の学力を値踏みするためのものではありません。学習評価という言葉が使われているとおり,生徒の学びを評価するのです。生徒の学びを見取ることによって,教員は授業改善に結びつけることができます。教員自身が授業についてモニタリングして,必要な改善(コントロール)をすることができ,それによってさらに生徒の学力が向上すれば良いのです。
第2章では,「内容のまとまり」(中項目)や単元(小項目)ごとに新しい3観点のうち特に「知識・技能」「思考・判断・表現」を中心にして,評価の観点を踏まえた授業づくりについて論じています。地理的分野の「内容のまとまり」(中項目)は,歴史的分野や公民的分野とは少し異なり,大項目Aの「世界と日本の地域構成」の「内容のまとまり」(1)「地域構成」のように,大項目と「内容のまとまり」と単元が同じになる場合もあれば,C(3)「日本の諸地域」(中項目)のように,7つの単元(小項目)からなり,かなり多くの時間が配当されているものまであり,大きさが揃っていないのが特徴です。そのため,一つ一つの事例が3〜5時間程度を想定しているものから10時間程度を想定しているものまであります。小単元は地理的分野のほぼ全てを網羅し,いずれの単元でも,最後に評価問題の例を掲載しています。
第3章では,「主体的に学習に取り組む態度」を中心に,授業づくりについて論じています。中学校の教育現場では,育成を目指す資質・能力の三つの柱に沿って設定された評価の3観点のうち,「主体的に学習に取り組む態度」をめぐる戸惑いが目立つようです。何度か参加させていただいた地域の教育研究会で社会科の学習指導案を拝見しても,主体的に学習に取り組む態度をどのように見取れば良いのかということが上手く整理できず,そのことが話題になりました。第3章では,「主体的に学習に取り組む態度」を評価するときに見取らなければならない2つの側面について整理して論じているものや,複数の「内容のまとまり」にまたがった「主体的に学習に取り組む態度」に関する評価規準を提案しているものもあります。
前述のように,評価は単元全体を見通した上で実施されなければなりません。評定に用いる評価を単元のどこで実施するのが良いかを選択することもカリキュラム・マネジメントです。
本書を読み進めていただくと,新しい3観点を踏まえた単元や授業づくりが少し見えてくるのではないでしょうか。
/吉水 裕也
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- 明治図書
- 単元を貫く問いを考えていく中で、非常に参考になる内容が掲載されており、授業づくりの参考にしています。2022/8/720代・中学校教員
- 単元を意識した授業や学習課題を設定する上で参考になった2022/6/1530代・中学校教員