- はじめに
- 真のリーダーシップと指導力を求めるならば
- 第1章 指導力のある教師のシンプルな指導の原理
- 1 指導者としての教師の仕事は2つだけ
- 2 指導の基盤
- 3 矛盾する2つの機能
- 4 「ひきあげる」機能:資源成長機能
- @ 注意指示:明確な要求
- A 突きつけ
- 5 「養う」機能:資源維持機能
- @ 受容
- A 理解
- 第2章 子どもを引きつけ信頼される教師のスキル
- 1 教師への信頼の意味
- 2 信頼される教師の姿
- @ 中学校:安心できる教師
- A 中学校:不信感を抱かせない教師
- B 中学校:教師としての役割を遂行する教師
- C 小学校:親しみやすい教師
- D 小学校:安心感を抱かせる教師
- E 小学校:納得できる叱り方をする教師
- F 小学校:肯定的な感情を抱かせる教師
- 3 信頼される教師のソーシャルスキル
- @ 問われる教師のソーシャルスキル
- A 感情のコントロールができる
- B すぐ繋がる
- C 心情がわかる
- D 関係を悪くしない
- E 言うべきことは適切に伝える
- F 配慮できる
- G 発達段階を超えて信頼される教師
- 第3章 うまくいっているクラスの子どもが身に付けていること
- 1 うつろう「理想のクラス」
- @ 教師が受容すればクラス集団になるのか
- A 「ゆらぐ理想」の歴史
- B 砂漠化する教室
- C 虐待の教室・過剰サービスの教室
- 2 うまくいっているクラスの構造
- @ 「織物モデル」に学ぶ
- A 2つの指導のバランス
- B チェックリストの効果
- C うまくいっているクラスの構成要素
- 3 しつけの構造
- @ 教えなくていいクラス
- A 教えなくていいクラスにするためには教えることがある
- B クラスの「手順」
- C 学級経営に一貫性をもたせる
- D 手順としつけ
- E しつけの内容
- F しつけの本質
- 4 指導力のある教師の教え方・育て方
- @ 秩序の構造
- A 手順の指導に学ぶ定着の法則
- B SSTに学ぶ育てる原則
- C 定着の要
- 第4章 指導力のある教師が身に付けていること
- 1 指導力のある教師の正体
- 2 信頼される教師が秩序をもたらすことができるわけ
- 3 「子ども期待効果」の起こる教室
- 4 指導力向上チェック
- あとがき
- 勇気は人のためならず
はじめに
真のリーダーシップと指導力を求めるならば
あなたがもし誰かを導く立場にあるならば,あなたは自分のリーダーシップや指導力に満足していますか。
本書は,自分の大切にしたい人たちを本気で育てたいと思う方々のための書籍です。今世の中は「先の見えない時代」の真っ只中です。では,しばらくしたら先が見えるようになるかといったら,私は「ならない」と思っています。日本は,何が大事で何が大事でないかがハッキリしていた「先の見えやすい時間」を長く過ごしたせいで,いつか世の中は安定し,また「先の見える時代」がやってくると思い込んでいる方々が年齢層の高い人たちを中心に多くいるようです。しかし,若年層の方々はわかっているのではありませんか,そんな時代は来ることはないということを。
あなたがもし誰かを導く立場にあるならば,こうした流動的な時代に必要なのは,リーダーシップであり,指導力なのです。目標が見えにくい状況でも,目標を見据えて仲間やチームを導く必要があります。恐らく本書を手にする圧倒的多数は学校の先生方であろうかと思われます。先生方は,自分がリーダーであると自覚しようがしまいが,立場的にはリーダーです。教室における第一声は,ほとんどの場合,教師から発せられます。「いや,うちのクラスでは日直が」,「学級委員が」とおっしゃるかもしれませんが,それを決めたり,決める仕組みを採用したりしたのは他ならぬ教師です。学校生活では,教師と子ども,どちらに決定権が多く委ねられているかといったら圧倒的に教師です。
教師は決定権の多さから言えば,教室の絶対的リーダーなのです。4月の最初に子どもたちは,どんな教師が担任するのか注目しています。それは前年度に学級崩壊を起こした教師に不信感を顕わにしているクラスでも,同じことです。教師が立場的にも制度的にも,リーダーであることからは逃げられないのです。
しかし,教師のみなさんは,これまでどこかでリーダーシップを学んだことがあるでしょうか。現在の日本の大学の教員養成では,残念ながらリーダーシップを専門的に学ぶカリキュラムはありません。リーダー経験を積むことは,部活動やサークルなどのオプションプログラムとなっています。つまり,限られた人たちだけです。しかし,いざ教師となれば,リーダー経験の有無にかかわらず全員がリーダーにならざるを得ないのです。
繰り返しますが,日本の教員養成プログラムでは,リーダーシップを学ぶことはできません。教師になったときに知っているのは,いくらかの教材の教え方くらいです。では,教師になったら,リーダーシップを学ぶことができるのでしょうか。教師のみなさんは,これまでどれくらいリーダーシップを学んできましたか。現在,各自治体,及び校内の研修ではそれを学ぶ講座や時間は設定されていないのではないでしょうか。教員研修の多くは,ざっくり言って教材の教え方やICT機器も含めた教具の使い方です。
教育とは言いながら,ほぼ教材の教え方しか学んでいないのです。子どもに実力を付けるには,教えるだけでなく育てることが必要です。しかし,日本の教員養成,教師教育は,教えることの学習に時間がかけられすぎていて,育てることの学習に時間がかけられていないのです。「教えれば育つ」と言う方もいますが,現実はそんなに甘くありません。そのことはみなさん自身がよく知っているのではありませんか。詰め込みすぎのカリキュラムに目を奪われ,育てなくてはと思いながらもその営みをスルーしてきているという方もいるのではないでしょうか。
教師は「育てることを学んでいない」と述べましたが,勿論,全ての教師ではありません。一部の方たちは,自分で時間やお金をかけて,しっかりと学んでいます。でも,うまくいっていますか。いかがですか。あなたが学んだ方法は,効果が保証されていましたか。その方法はどんな意図で,どんな手続きで開発されてきたものでしょうか。成功者のやり方を模倣してもうまくいかないのは,それが表面的な模倣になっているからです。模倣が成功するためには,その方法の開発者の意図や開発の過程を理解した上で,然るべき時間をかけたトレーニングが必要です。うまくいったと言われる方法の表層をなぞるように真似してもうまくいかないことがほとんどでしょう。
本書では,指導力のある教師がどんな原理に則って,どんな指導をし,どんな在り方を実現しているかを,学術研究や多くの共感と支持を得た実践を基にして紹介しました。つまり,うまくいっている人たちの指導原理と指導内容と指導法の最大公約数を示そうと試みました。そうした意味で,汎用性の高い,つまり多くの人にとって応用可能なものになっていることと思います。
やや結論的なことを言えば,指導力のある教師は,その指導効果を上げるために,子どもを育てるための指導環境を整えていました。つまりよい学級をつくっていたということです。したがって本書は学級経営や学級集団づくりの本として読めるかもしれません。しかし,本書の関心の中心はそこではなく,教師の指導力の向上にあります。子どもが育つということは子どもが自律能力を獲得するということであり,自律能力は教師が教えるだけでは身に付かず,自律能力が身に付くか付かないかは,環境の在り方が重要なのです。植物を育てようとするときにどんなに水や日光を与えても,土がダメなら育たないように,育てる営みはそれがどんな状況で為されているかによって大きく左右されるのです。
質の高い教育が実現されるためには,教師から見れば指導環境,子どもから見れば学習環境が最適化される必要があります。本書はみなさんが,教師という仕事をする上での真の指導力を獲得し,真のリーダーシップを発揮するためのものです。一読いただければ幸いです。
2023年3月 /赤坂 真二
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