- はじめに
- 第1章 『学び合い』の守破離
- 次のステップにアップするときの罠
- 型に囚われる罠
- 『学び合い』に責任を帰し,自らを省みない罠
- Column どちらの変化?
- 第2章 最先端の『学び合い』
- 最初に学ぶこと
- 日常の運営
- 西川研究室のルール
- 具体的な活動例:ルールの実際の適用
- なぜ『学び合い』のようなことをしないのか
- 『学び合い』の考え方は,様々な学校現場で活かせる!
- Column 西川研究室という集団のすごさ
- 第3章 ステップアップの入り口
- 型に『学び合い』はない。考え方に『学び合い』がある
- 状況を見ながら,いろいろな授業をする
- 『学び合い』をすることを目的にしない
- Column 『学び合い』をすることが目的となっていた時期
- 第4章 『学び合い』はしない―授業づくり編―
- 『学び合い』の考え方をしっかり持っていること
- 自分が本当にしたい授業を考える
- 方法は学校の方針に合わせながら。考え方は『学び合い』で
- 子どもが教師に「教えて」といってきたときのいなし方
- 『学び合い』の型から外れる!?
- 一斉授業も『学び合い』の一部
- Column 私が『学び合い』をする理由
- 第5章 子ども・保護者とのコミュニケーション
- 保護者から信頼を得るためには
- 子どもから信頼を得るためには
- 自分の言葉で語ろう
- 自分自身と折り合いを付けるためには
- Column 本気かどうかは生徒と保護者に伝わる
- 第6章 『学び合い』で生きていく
- 『学び合い』で生きていく『学び合い』実践者
- なぜ『学び合い』で生きていくのか
- 勉強だけに留まらず,子どもの生活にもつながる『学び合い』
- 教師としての私生活,人との付き合い方が『学び合い』となる
- Column 『学び合い』の汎用性
- 第7章 一段階高める道
- SNS
- 読書
- 『学び合い』の会
- オンラインゼミ
- 得
- 生き残り
- Column エール
- おわりに
はじめに
本書のタイトルは『『学び合い』はしない』という刺激的なタイトルです。それを私が書いていることにビックリされている方もおられるでしょう。ご安心下さい。
本書は,多くの『学び合い』実践者の方が『学び合い』だと思っていることをやめて,一段階上の『学び合い』に移行するための本です。
2000年頃から東洋館出版社で『学び合い』に関する一連の本を書きました。後述する「最初の6冊」(注)という本です。この本では,現在の『学び合い』の基礎をなす学術研究を,子どもの姿の変容を紹介する形で記述しました。しかし,具体的な方法論は注意深く書きませんでした。理由は,十分に方法論が確立する前に,小出しに方法論を紹介すれば,混乱し失敗する教師が生まれるからです。
しかしながら,私が方法論を書かなくとも,「最初の6冊」で紹介した子どもの姿から,『学び合い』を実践し,成功する教師が生まれました。その方々と電子メールを通じて「口伝」していました。
2010年に『クラスが元気になる!『学び合い』スタートブック』(学陽書房)を発行しました。この本は教育書としては異例といっていいほど売れました。現在も売れています。これによって『学び合い』の知名度は高まり,実践者も増えました。ところが本書は「最初の6冊」で実践できるほどのセンスのある方々に向けての本だったので,細かいテクニックの説明が薄いのです。その結果,私のところへのお悩み電子メールが増えました。
2012年に『クラスがうまくいく!『学び合い』ステップアップ』(学陽書房)を発行しました。この本は,『学び合い』のテクニックを組織的・網羅的に記述した最初の本です。それ以降,同僚からは「西川先生の本は年刊だったのが月間になり,週刊になりましたね」とからかわれる速度で出版しました。
『学び合い』を実践している人は多いとは言えません。しかし,一つの理論,一つの方法論で全国レベルに実践されている,実証的学術データに基づく教育実践としては,明治以降の学校教育の歴史の中で最大のものであると自負しています。
これは,明治図書,東洋館出版社,学陽書房を中心とした膨大な書籍が理論と方法論を伝えているからだと思います。そこに書かれているものは,出発点は実証的学術データです。それを全国の実践者が実践し,失敗し,失敗を乗り越えた情報が私のところに集まります。私はそれを整理し,発信します。それを他の実践者が実践し……。この繰り返しの中で洗練・精選・整理された本なのです。だから,再現性が非常に高いのです。考えてみて下さい。日本で一番小さい国立大学の一人の教師が始めたことが日本中に広がる理由は,本の通りにやれば,本の通りの結果を得る教師が多いからに他なりません。
2016年の『親なら知っておきたい学歴の経済学』(学陽書房)を出版する頃から,私の方向性が変わりました。『学び合い』の実践を殆ど書かず,時には全く書かない本を書くようになりました。最近は投資の本まで書くようになりました。一見,『学び合い』とは無関係のように見えますが,違います。
『学び合い』が目指しているのは,面白い授業・わかりやすい授業に留まりません。子どもたちが一生涯幸せに生きることを目指しています。子どもたちは学校を卒業してから何十年も生きていきます。従って,我々教師は卒業してからの社会を想定し,逆算して今の教育を考えなければならないのです。
その時,その時に「今」最も必要だと思う本を出版し,それが蓄積した時,『学び合い』のテクニックの本と,これからの社会の本との間に大きなギャップがあり,それを埋める本がないことが浮き出てきました。
『学び合い』が成功するか否かは,クラスをリードする子どもがどれだけ本気になってリードするかにかかってきます。さらにいえば,学校を卒業したあとの子どもが幸せに生き続けられるかは,クラスをリードしていた子どもが大人になってもみんなをリードするかにかかっています。例えば,月に1度は呑み会を企画して,みんなで集まり,愚痴をいい合い,相談し合い,そして助け合える場を設けることを,クラスをリードする子が「自分にとって得」と思えるか否かが一つの決定要素です。
いずれにせよ,クラスをリードする子どもに,これからの社会を理解させ,多数で多様なネットワークの維持・向上が自分にとって得であることを理解させなければならないのです。これは『学び合い』を面白い授業・わかりやすい授業を実現するためのものだと思っている教師には出来ません。これが,テクニックレベルを脱して,多くの『学び合い』実践者の方が『学び合い』だと思っていることをやめて,一段階上の『学び合い』に移行するための本が必要な理由です。
本書では私の実践の場である西川研究室での実践を入口として,今,移行しつつある方,移行した方の体験を紹介しています。皆さんは,それを手がかりとして,一段上の『学び合い』にシフトしていただければと思います。
(西川 純)
注 最初の6冊は以下の本です。いずれも東洋館出版社です。
①『なぜ,理科は難しいと言われるのか?』:認知的研究によって,今の授業では絶対に全員をわからせることが不可能であることを明らかにした本です。
②『学び合う教室』:『学び合い』の最初の本で,初期の『学び合い』がわかります。
③『『学び合い』の仕組みと不思議』:今までのグループ学習で謎であったことを明らかにした本です。
④『「静かに!」を言わない授業』:一見,私語に見える『学び合い』での子どもたちの会話を分析した本です。
⑤『「座りなさい!」を言わない授業』:『学び合い』での立ち歩きの機能を明らかにした本です。
⑥『「勉強しなさい!」を言わない授業』:『学び合い』で成績が上がる理由を明らかにした本です。
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- 明治図書
- 著者が考える教育が端的に表現されていて非常に納得と共感ができる内容となっています。何回か読み返して『学び合い』について理解を深め日々の教育実践に取り入れたいと思いました。非常に良い本だと思います。2023/2/150代・中学校教諭
- 『学び合い』の考え方。2022/9/1840代・小学校教員