- 掲載作品 カラー口絵
- はじめに
- 第1章 特別支援教育における図工・美術の授業づくり
- 日常の環境にあるものを活用し,「おもしろ」さを開発する
- 「おもしろ」授業づくり・準備編
- 「おもしろ」授業をかなえる10の心得
- 第2章 特別支援教育 題材・授業アイデア
- [造形遊び]新聞ハウスを作ろう〜新しい日常を創造して出会う〜
- 発展/「雨ふりハウス」を展示する
- [造形遊び]色彩空間“ガサガサガサ……”〜造形遊びの発展と行事への連結〜
- 発展/体育祭の入退場門を作る
- [平面表現・立体表現]描いて遊んで,バルーンを飛ばそう!〜「落書き」体験からの描画再考〜
- 発展/「作品」と「環境」との出会いをつくる
- [立体表現]粘土を作って塑像する〜美術と行為との狭間を見つめて〜
- [平面表現]体育祭スローガンを作ろう〜断れない依頼を意味ある学びへ変換する〜
- [工芸]三本足の皿を作る〜「何もない」からこそ発想は拡大する〜
- 発展/「太陽の器」が切り開いた可能性
- [デザイン]ファッションショーをつくる〜「鑑賞」を意識した複合的な表現〜
- [平面表現]一版多色刷り版画〜クリアホルダーを使った凸版による版画表現〜
- [平面表現]一版多色刷り紙版画〜凸版による表現を拡大する〜
- 発展/「かんじき印刷」で巨大版画を刷る
- [平面表現]凹版による版画表現・「コラグラフ」〜プレス機を使った版画に挑戦する〜
- [平面表現]ドライポイントによる描画表現〜銅板を使わない凹版による版画制作〜
- [平面表現]絵画を作る〜技法材料学から導く・描画再考〜
- [アートプロジェクト]舞台美術を作る〜個の力を生かして展開する共同制作〜
- [個の表現]「行動障害」と「美術」〜既にそこにある世界へ気づくために〜
- [平面表現]広がる色彩の光「ステンドグラス」〜素材の特質を生かした発展的表現〜
- 発展/ステンドグラスの「シャンデリア」を作る
- [アートプロジェクト]卒業ピクニック!〜コロナ禍を「あきらめない」ために〜
- [鑑賞]段ボール美術館〜日常に設ける鑑賞体験装置〜
- [鑑賞・映像メディア表現]「多摩川アートライン」を歩こう〜パブリックアートを撮る鑑賞体験〜
- [鑑賞]アーティゾン美術館へ行こう!〜美術館と連携する鑑賞教育〜
- [アートプロジェクト]宙に浮く家〜「コア」を据えて挑戦するアートプロジェクト〜
- [鑑賞]はみ出す力〜アウトプットの矛先〜
- 参考文献
はじめに
活動をつくる。
長期にわたり特別支援学校で取り組んできた,美術による子ども達との対話。その活動の写真を凝視し,精選する作業を進めていると,脳裏に2つ言葉が浮かび上がってきました。
「静寂」と「集団」。
これまでの実践を振り返りながら,意外な事態に少しばかり狼狽えました。
前者の,材料・道具が奏でる音だけが響き渡る制作風景は納得できます。しかし,適切な環境設定という観点からすると,後者の「集団」とは憂慮すべき風景なのではないのかと。
2007年から開始された特別支援教育は,学校における合理的配慮に基づく教育的支援の視点を拡充してきました。たとえば,自閉スペクトラム症のある子どもへは,学習環境における刺激の統制や「構造化」によって視覚的な理解を助ける支援など,様々なアイデアを基に取り組む個別的な配慮が重視されます。コミュニケーションや対人関係に困難を抱えやすい特性があるからこそ,集団という状況には「意味ある場」づくりの視点が不可欠です。
美術教育とは,個別指導と一斉指導の境界線上にある学習形態で実施されるものなのかもしれません。個としての表出を育む一方で,共通の題材や用具といった「枠」を介す制約があります。兎角「自由」を重んじる領域にあって,特別支援教育においては,美術を通じた学びが導く方角を見定める必要があるのではないかと考えます。それは本書のタイトルの通りです。
『広がれ!自分らしさを引き出す「おもしろ」図工・美術の授業』
子ども達が,それぞれに抱える特性を生かし,自信をもって前に歩み出すための「活動」。一人一人に,そのような表現へ向かう行動が生まれれば,きっとインクルーシブ教育システム時代の新しい「学びの共生」が実現できるのではないかと考えています。
本書の題材のほとんどは,筆者の日常の足元に転がっていたモノやコトから生まれました。わざわざ予算を割いてまで,同じように準備する必要はないかもしれません。
しかし,何もないところから「活動をつくる」術を知れば,読者それぞれの現場に眠っている資源を発見し,授業へ活用できる手がかりになると思います。高度な美術の専門性も,時間もお金もそれほど必要ありません。あきらめず,淡々と可能性を紡いでいく。
「おもしろ」授業づくりのヒントは,目の前にいる子どもとの対話の中にあるはずです。
著者 /佐々木 敏幸
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- 明治図書