- はじめに
- /宮田 純也
- Chapter 1 「教育とテクノロジー」の SHIFT
- ─DX・生成AIが拓く学校教育の未来
- ビジョン編
- テクノロジーと学校のビジョン
- /稲垣 忠
- アクション編 1
- GIGAスクール構想第2ステージに向けて
- /武藤 久慶
- アクション編 2
- 学びの Side by Side の更に先へ
- /鈴木 秀樹
- Chapter 2 「学び」の SHIFT
- ─変わる・変える授業デザイン
- ビジョン編 1
- SCHOOL SHIFT に向けての授業創造のデザイン論
- /田中 茂範
- ビジョン編 2
- 「学び」における SCHOOL SHIFT の土台をたがやすこと
- /田中 理紗
- アクション編 1
- 小学校における探究的な学びの要諦と実践
- /吉金 佳能
- アクション編 2
- ラーニング・デザイン「(Un)Learning Design」への SHIFT
- /池谷 陽平
- Chapter 3 「学校」の SHIFT
- ─ウェルビーイングと教師の学び
- ビジョン編
- 組織が教師の学びを支え、教師の学びが組織を変革する
- /中田 正弘
- アクション編 1
- 働きがいと働きやすさを両立する学校、3つのシフト
- /妹尾 昌俊
- アクション編 2
- ウェルビーイングな学校をつくる─先生も子供も幸せな学校に
- /中島 晴美
- アクション編 3
- 授業改善プロジェクトによる校内研修の改革
- /前田 康裕
- おわりに
- /宮田 純也
- 執筆者一覧
はじめに
本書は前作『SCHOOL SHIFT』に次ぐ2作目となります。
前作『SCHOOL SHIFT』は、「機械の時代」の産物である近代学校教育から「人の時代」の学校教育を創造し、学校教育のシフトに貢献しようという目的を掲げて出版し、専門書ながら多くの方々にお手に取っていただきました。心から御礼申し上げます。
本書は、前作『SCHOOL SHIFT』と共に、「学び」が持つ可能性を信じています。そして、それは同時に「人」の可能性を信じているとも言えます。
私は、「未来の先生フォーラム」という取り組みを行っていますが、ふと考えたことがあります。「未来」とは一つ、つまりすでに決まっているものでしょうか? そうではないと思います。「未来」とは、複数あります。「未来」とは、過去から続く現在の自分が創るものです。私たちの未来には様々な選択肢が考えられるでしょう。それでは、その選択肢を増やしていくには何が必要でしょうか? それは「学び」であると考えます。私たちは、何かを学ぶことによって変わることができ、選択肢を増やすことができます。
先に述べたように、未来は一つではありません。未来は全く予測不能です。きっとこれからも、予想しなかった未来が待っていることでしょう。しかし、どんなに未来がわからないものだったとしても、一つの事実があります。今まで私たちが過ごしてきて学んだこと、行動・実践したことなどの総体は、未来の土台だということです。
明治時代ごろから始まった工業社会時代の「機械の時代」から、令和の今日は情報社会時代の「人の時代」になっています。「学び」と「人」の可能性は、歴史的に最も高まっている時代と言えます。
そのような転換期において、明治時代から変わらないものは何でしょうか? それは、「学び」がその人の可能性を広げる点です。私たちがより良く生きたいと願ったとき、「学び」は大きな役割を果たします。私たちが真に「学び」、実践し、いろいろな方と交流し、新たな生き方と新たな社会を創造することになるのです。
みなさんは「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」という言葉をご存じでしょうか? これは福澤諭吉著『学問のすすめ』に記述されている文章です。この文章には続きがあります。
されども今、広くこの人間世界を見渡すに、かしこき人あり、おろかなる人あり、貧しきもあり、富めるもあり、貴人もあり、下人もありて、その有様雲と泥との相違あるに似たるはなんぞや。〜中略〜学ぶと学ばざるとによりてできるものなり。
つまり、「学び(福澤的には学問)」の重要性に関する言及がなされており、文字通り、学問(学び)を奨励しているのです。明治時代は士族階級など階層が生まれなどによって固定化された江戸時代とは違い、日本国民全員が「学び」、その人の才徳や立場によって一種の自己実現ができるのだと主張しました。「学問は身を立るの財本」(学制頒布前日の太政官趣意書)、それは自己実現としての「学び(学問)」の存在意義です。
福澤は、
・学び(学問)は日常生活に役立つもの、生かすもの(実学)
・学び(学問)は知識教養の領域を広げ、物事の道理をしっかりつかみ、人としての使命を持つために行うもの
・実生活、実際の経済や現実の流れを知るのも学び(学問)
と言っています。主として読み書きそろばんなどのリテラシーや、それを活用して知識を習得することが、福澤の言う「学び」かもしれません。
さて、今の私たちが生きる時代は「学び」の意義は福澤の時代と異なっているでしょうか? 大きくは変わっていないのではないかと思います。では、何が変わっているのでしょうか? それはやはり社会であると言えます。テクノロジーの発展によって社会の主体・原動力が国家・多国籍企業から、ついに私たち自身になったのです。「知識」を活用して「知恵」を創造し、様々な情報をグローバルに受発信する主体に一人一人が変化したと言えます。つまり、私たち一人一人ができることが増えていくに伴って、学ぶ事柄も高度化しているのです。
私が監修した『16歳からのライフ・シフト』(東洋経済新報社)では、今までの「教育」・「仕事」・「老後」のような3ステージ型人生から、変化し続ける様々なライフステージ(マルチステージ化する人生)が出現することになると記述されています。いわば、様々な移行(トランジション)が起こる「静的」な人生から「動的」な人生への変容と言えます。私たちが生きるのは、自ら働きかけることでチャンスがより広がる自由な社会です。
知識の習得の時代から、それを基にした活用の時代へという変化によって、社会や求められることも高度化しています。今の私たちが生きる時代は、「学び」の意義が福澤の時代よりも高度化すると同時に、重要性がますます増していると考えられます。
本書は、そのような学びの意義が高度化し重要化する流れを受けて、学校教育のシフトにより一層貢献したいという思いで出版します。前作では扱えなかった、あるいは複合的な観点で見つめるべき概念や取り組みについて取り上げています。
Chapter 1では、「教育とテクノロジー」をテーマに掲げています。テクノロジーの発展は、私たちに何をもたらすのでしょうか? テクノロジーの発展と浸透は教育との従来の関係性を大きく変えています。もはやテクノロジーを抜きにして学校教育が成り立つものではないと言っても過言ではありません。本章ではテクノロジーと学校教育の関係性や相互作用の形に関する現状整理を試み、今後に何らかの視座が得られる内容になることを目指して、テクノロジーと学校教育の相互作用の関係のみならず、政策的動向と学校現場での実践を含めて立体的に描くことを目指しています。
Chapter 2では、「学び」の SHIFT がテーマになります。テクノロジーが発展する未来には、「人」である私たち自身が問われていると言えます。そんな「人」の可能性を広げる学校教育の「学び」をデザインする要諦とはどのようなものでしょうか。学校教育での教育活動において最も重要である「授業」に焦点を当て、学びの創造とシステムという観点で前作よりも幅広く授業をとらえ、海外の視点も織り交ぜることで、より一層幅広く授業デザインと実践の要諦を描きたいと考えています。
一方で、学校教育における「学び」の SHIFT は個々人の営みだけに支えられるものではありません。私たちを取り巻く環境や社会が変化し、授業が変わるとき、学校組織も対となって変化する必要があります。時として他者は自己の可能性を引き出し、より高める存在となります。それは同時に自己が他者の可能性を引き出し高めることでもあると言えるでしょう。つまり、より良い組織の希求はSCHOOL SHIFT≠ノとって大変重要な命題です。
今回は前作とは異なる視点から、再度学校組織と教師個人の在り方・学びについてとらえ直してみたいと考えています。学校教育の高度化は「働き方」という重大な課題を浮き彫りとし、個々人のウェルビーイングを実現することはより良い教育活動にとって必須条件でしょう。学びを中心とした個人・組織変革とウェルビーイングの実現を扱うことは SCHOOL SHIFT の土台と言えます。そこで Chapter 3 では「学校組織」という大きな概念を取り上げます。
本書が目指すものは、前作と全く変わっていません。前作と併せて、本書が「羅針盤」として長く SCHOOL SHIFT に貢献する書籍になれば幸いです。ご一緒させていただいた先生方と関係者の皆様、そして本書をお手に取っていただいた皆様に心より感謝を申し上げます。
2024年7月 /宮田 純也
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- 明治図書
- たとえ小さくても変化を創り出すことができると勇気づけられる一冊です。2024/9/1640代・小学校教員
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