- はじめに
- Chapter2の目次アイコン
- Chapter1 描画の発達を理解しよう
- 1 「なぐりがき」から「図式」へ
- 2 「図式」の成立と経験による「図式」の変化
- 3 「図式」からの離脱
- 4 子どもの「成長」と「発達」
- 5 まとめ
- Chapter2 実例でわかる! 子どもの絵の「読み解き方」
- 1 なぐりがき
- 2 線の「ものがたり」
- 3 マンダラと太陽
- 4 頭足人
- 5 命名
- 6 図式(スキーマ)
- 7 観面混合
- 8 ばらまき画とカタログ画
- 9 基底線
- 10 展開図法
- 11 異時同図
- 12 レントゲン画
- 13 重なり
- 14 遠近感の表現
- 15 カラフル・レインボー
- 16 模倣
- 17 連続して描く絵
- Column@「なぐりがき」と「ドローイング」
- ColumnAマンダラ論争―ユンクとケロッグ
- Chapter3 子どもの表現力を伸ばす指導のポイント
- 1 描画活動における表現活動の発達
- 1 「表現」の構造を知る
- 2 家庭において幼児に接するとき
- 3 保育園・幼稚園
- 4 小学校・図画工作科
- 2 絵の理解をさらに深める研究ノート
- 1 言語モデルとマンダラモデル
- 2 「異時同図」の美術作品を見る
- 3 子どもの表現と「リアリズム」
- 4 「子どもの絵」の研究
- 「子どもの絵」に関する参考文献
- 索引
- おわりに
はじめに
子どもの絵には,「かわいい」,「未熟な」,「でたらめな」,「芸術的な」などさまざまな形容詞がつけられます。しかし,そうした形容詞ではとらえきれないのが子どもの絵です。
この本では,まず,子どもにとって絵を描くことが,どのような意味があるのかをさぐっていきます。子どもが絵を描くことは,1人の人間として成長していくための表現活動であり,他の人と交流するためのコミュニケーションであり,それを通して自分とは何かを確かめていく行為です。そこで,子どもが何を感じ,何を訴え,そのために,どのような工夫をしているかをさぐっていきます。いくつかの事例を通して,子どもの描画のプロセスの〈一般的な〉傾向をさぐり,子どもの絵を読みとるのに役立つことが本書のめざすところです。
Chapter1は,子どもの描画の「発達」についての概説です。ただ,この概説は,Chapter2の「なぐりがき」や「図式」などの各項目を通読されてから,読んでいただくほうが,よりよく理解されると思います。まずは,Chapter2の目次アイコンを見て,興味をもたれた絵がありましたら,その頁から先に読んで下さい。
この本で取り上げられた子どもの絵は,学校の授業で制作された絵も含まれますが,大部分は筆者の授業で受講生が課題として提出したものです。観察記録をつけた児童画の提出というその課題は,三重大学教育学部と愛知教育大学で20年近くにわたります。絵のテーマも自由に決めているという意味で「自由画」といえます。本文中で「観察者」として登場するのは,子どもが絵を描いている状況を見ながら観察記録をとってくれた学生です。あらためて,かつての学生の皆さんと,その学生たちの依頼に応じて,喜んで絵を描いてくれた多くの子どもたちに心からお礼をいいます。1人ひとりの名前をあげていくのが本来かもしれませんが,今となっては追跡ができない事例も多く,記録にはプライベートな内容もあり,観察者名や制作者名はすべて伏せてあります。
子どもにとって「絵を描く」行為は,生命の喜びであり本能的なものです。ただ,それは本能的に感情をぶつけるというのではなく,知的な活動も含む「こころ」の働きです。
本書が,子どもの「こころ」の働きを理解するための一助となれば幸いです。
2013年4月 /ふじえ みつる
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- 明治図書