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「うまい・なぐりがき」や「へたな・マンダラ」はありません。だから、子どもの絵には「うまい・へた」はありませんが、その絵を見る人が「うまい」「へた」という意識をもっていることはあります。本書でも述べているように、子どもの表現活動とその結果は、「うまい」「へた」という単純な二分法だけでは理解できない世界です。
他の美術作品を見るのと同様に、一概には言えません。絵のテーマによっても、見る人の感覚によってもちがいます。ただ、本書でも触れていますが、子どもの絵では、細部に大事なメッセージが隠されている場合が多いので、ぱっと見た印象も大事ですが、じっくりと細部を見ることも大切です。 絵画では、細部が全体を支え、全体が細部に意味を与えています。緑色の点の集まりも、全体から見れば樹の葉に見えますが、緑色の点がなければ、樹の葉全体を表現することはできません。
「何が描いてあるかわからない」というのは、幼児の前・図式期くらいまでの子どもの絵についての質問ですね? 子どもが描いた絵を自分から見せにきたときは、「先生はここの青い色が好きだな」とか、その画面にある具体的な色や形について肯定的な感想を述べ、その絵をきっかけにして子どもとの会話がはずみ、交流ができればよいと思います。
描画の発達段階の事例は、こうでなければいけないという規範ではなく、一般的な傾向を示している(記述している)だけです。描画の発達は、幼児や児童の体重や身長のように、右肩上がりに一直線に進むものではありません。そのときの子どもの心理状態などによって後退することもあります。個人差はもちろん、また、本書でも説明しているように、同じ子どもが描いた1枚の絵にも、なぐりがき、マンダラ、前・図式、図式とさまざまな形が表されることもあります。個々の形の再現、空間の認知とその表現、色のとらえ方などの観点別に発達段階も分けて考えることも必要です。
「指導」の場合には、指導の「目標」があると思います。物語を聴いて絵に表す場合でも、低学年なら主人公になりきってその人物だけを大きく描く、高学年なら場面の全体がわかるように人物の配置、背景などの構図(空間構成)を考えるという目標であれば、それに応じた手立てを工夫した指導をします。
子どもの絵は、子どもが変わることによって変わります。絵の描き方だけを変えても子どもは変わりません。本書を読んでいただき、子どもの絵を通して子どものマインド(mind=こころ)を理解するきっかけにしていただければ幸いです。