- はじめに
- 第1章 学力向上に欠かせない「記述力」
- 1 学力調査で見る!現代っ子の国語力
- 1 学力調査の実態から見える課題と改善のポイント
- 2 教育課程と授業を改善しよう
- 2 記述力の向上をめざすための文章様式の6つのステージ
- 3 「記述力」=「書く力」+「文章構成力」――「調査報告文」でナットク解説――
- 4 「100字ワーク」で短文の記述力を伸ばそう
- 1 短文の記述力を高める観点
- 2 短文を簡潔に書くための100字原稿用紙(ワークシート)の提唱
- 第2章 記述力がメキメキ伸びる! 様式別「文章の書き方」教室
- 低学年編 様式別モデル文&授業アイデア
- @物語文
- 1 文章の特徴
- 2 モデル文でチェック!物語文の解体新書
- 3 授業アイデアと展開モデル単元「お話に出てくる人とくりかえしてあそぼう」
- ワークシート@AC
- A経験報告文
- B観察記録文
- C説明文
- D紹介文
- コラム1 読書感想文の書き方
- 中学年編 様式別モデル文&授業アイデア
- @物語文
- A詩
- B調査報告文
- C学級新聞
- D資料を使った説明文
- コラム2 手紙文の書き方
- 高学年編 様式別モデル文&授業アイデア
- @物語文
- A短歌・俳句
- B随筆
- C意見文
- D活動報告文
- E案内文・宣伝文・広告(推薦)文
- コラム3 編集の仕方
- 第3章 記述力を各教科で高めよう
- 1 全国学力調査で分析!記述力の指導ポイント
- 1 「書くこと」の課題点
- 2 全国学力・学習状況調査に見る「条件に応じた記述力」
- 3 条件に応じた記述力の指導の仕方
- 2 教科別記述力アップの指導モデル
- 1 算数科
- 2 社会科
- 3 理科
- 執筆者一覧
はじめに
/井上 一郎
毎年,2回程度は海外に出かける。既に35ヶ国以上訪問したことになる。そこで,いつも思うことがある。国の歴史や文化を構成する建築物が,各時代を象徴する様式に彩られていて,例えば教会であればゴシック様式であるなど,その様式を深く理解しないとそこに暮らした人々の願いや思いも理解できないと思わざるを得ないことである。下の写真は,スペインのアンダルシア地方にある都市SEVILLA(セビーリャ)のカテドラルを写したものである。SEVILLAは,ビゼー「カルメン」,ドビュッシー「セビリアの理髪師」の舞台となった街である。カテドラルは,ヨーロッパで3番目に大きいと言われている。1402年から100年かけて作られたという。スペインに多く見られるように,この教会は,各種の建築様式が混合している。イスラムのモスクの跡に建築されたために,ムデハル,ゴシック,ルネッサンスの各様式が融合している。ちなみに,この聖堂には,コロンブスの墓がある。
古代エジプト,古代ギリシャ様式,ローマ様式,ビザンティン様式,ロマネスク様式,ゴシック様式,ルネッサンス様式,バロック様式,ロココ様式。多様な建築様式に彩られたこれらの教会は,国の発展とともに宗教的意味合いを越え,芸術作品として世界の人々を魅了する。
「様式化」は,人間が文化的,芸術的に創造した個性的なものを,社会的に相互理解が図れるようにする叡智の結晶である。様式化によって,多くの人々が理解できる社会性を確保する。一方で,創造に携わる人々の創造力を最大限に保証していく。個性や創造性を保証するために,様式化は,完成された時点からすぐにも瓦解が始まり,次の様式化を期待することになる。直前のまたは以前のパラダイムが次の様式を創造する揺りかごとして機能しながら,次の時代の様式を創造させるのである。勿論,様式化を拒否する創造も傍らに置くことも認めている。このような様式化の過程で生み出された歴史の証人である建築物と私たちは邂逅するのであるから,見る者=出会う者がその表現様式の理解を求められるのは当然のことであろう。
美術館に掲げられる絵画や彫刻も,しかりである。近代の絵画史は,写実主義,ロマン主義,印象派,象徴主義,フォービズム,キュビズムなどの様式の変化を遂げてきたと言われる。ゴッホが描いた絵画について,アルルの原風景を訪ねた時,いかにその絵画が様式的にデフォルメされているかに感嘆したことか。
言語表現の様式は,個人的な創造性を基盤とする建築や美術の表現とは違って,社会や時代が必要とする最善のものを確立することや,それらの様式が必要性を失わない限り継続して使用されることに特色がある。だから私たちは,社会的なコミュニケーション能力として必ず表現様式の知識を身に付けることが大切となるのである。言語能力の獲得は,人々が結晶させた叡智に垣間見える「言語文化」を獲得することにもなる。それは,各時代に,そして,各地域に暮らす人々の願いや思いを知ることにつながるのである。
児童・生徒が,自らの考えを表現する記述力がないことが学力調査などによって明らかとなって久しい。「関東国語教育カンファランス」の会員とともに下記の文献を刊行したのも,それらの改善を願ってのことであった。
◇井上一郎編著『書く力の基本を定着させる授業――書けない子を書けるようにする――』明治図書2007年
この文献で明らかにしたのは,表現力を構成する能力の一つである表現過程に応じた記述力を高める理論と実践の提唱であった。本書では,表現力を構成する能力として重要なもう一つである,文章様式に応じた記述力を高める実践的提唱を行った。文章様式については,『誰もがつけたい説明力』(井上一郎著,明治図書,2005年)によって全体像を示した。本書では,これらを基盤に,学習指導要領の言語活動例に基づく系統から小・中学校を通して育成すべき作文技術に関して6段階のステージ化を図り,小学校段階での各学年の実践を提唱した。
低学年には,基礎的な文章様式を位置付けた。
【低学年】物語文――経験報告文――観察記録文――説明文――紹介文
(コラム:読書感想文の書き方)
中学年や高学年では,同一の文章様式を高度化する提唱と,当該学年で初めて指導する文章様式を加えて具体的な方法を提唱した。
【中学年】物語文――詩――調査報告文――学級新聞――資料を使った説明文
(コラム:手紙文の書き方)
【高学年】物語文――短歌・俳句――随筆――意見文――活動報告文――案内文・宣伝文・広告(推薦)文(コラム:編集の仕方)
これらの実践の提唱では,各種の文章様式のモデル例を示したり,授業アイデア49例を収録した。とともに,そのアイデアの中から学習指導案及びワークシートを開発して子どもたちに作文技術を身に付ける実践の詳細を示した。
さらに,条件や各教科に応じた書き方の工夫にも配慮した。国語科での文章様式に応じた記述力の指導の取組が,各教科等でも生きるように具体化したものである。
・条件に応じた記述力を高める指導
・各教科に合わせた記述力を高める指導――算数科,社会科,理科
「関東国語教育カンファランス」の会員には,前著に続いて,現場の多忙な中での,しかも長い時間の研究に奮励してくれたことを高く評価するとともに,実践者として賞賛したい。また,明治図書の木村悠氏には,本書刊行でもお世話になった。厚くお礼を申し上げたい。
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- 明治図書
- 具体的な手立てがたくさん載っているので参考になった。2021/7/2840代・教委
- 具体的なワークシートがついていて、授業での使い方などもよくわかった。2016/7/1340代・小学校管理職
- 行事作文を書かせているけど,全国学力・学習状況調査の国語B問題が書けないという悩みに応えてくれる一冊です。様式を意識して授業をするだけで,本当にメキメキ記述力が身に付いてきました。国語だけではなく,社会,算数,理科の記述力のも言及されているのが,すばらしい。2013/10/1