- 著者インタビュー
- 特別支援教育
本書は、障害児教育の授業の中で行われた数年間にわたる国語・算数の基礎学習に関する指導事例をあつめた事例集です。障害児は、健常児のように学習の階段をすばやく登っていくことはできません。そのために、ひとつの学習をするにしても、どのようなねらいで、どういう教材を使って、どのように教材を提示するのが適切であるかなど、さまざまな条件や前提となるものを考えなければなりません。本書では、そのような学習の内容や工夫が随所に発見できると思います。その指導事例を参考にして授業の内容や方法を工夫していけばよい授業ができるのではないかと考えています。
子どもが示す行動を観察しながら、指導の内容や方法、教材を如何に工夫していくか、という具体的な作業の手順がわかるようにしたことです。重度・重複障害児、盲児、自閉症児、ダウン症児、肢体不自由児、知的障害児など、障害もさまざまな障害のものを取り扱っています。そのために、それらの子どもの実態に即した指導の内容や方法がわかるように図や絵を用いてわかりやすくしたことです。また、学習の上で工夫すべき点については、特に取り上げて説明し、指導の内容や方法について具体的に理解していだくようにしたことです。
特別支援教育では親のニーズを尊重して教育を行うことになっています。学校では勉強を教えてほしいというご両親が多くいます。せめて自分の名前が書けてほしい、計算ができてほしいという希望を持っています。これを実現するためには、その基礎的な学習の内容や方法の工夫が必要になります。そのためには、できないことからではなくできるところから学習を始めるという精神で一歩一歩基礎的な学習を積み重ねていくことが大切です。継続は力なりです。
特別支援教育になって、ADHD、LDから重度・重複障害児まで、通常学級から特別支援学校まで、一斉授業から個別の授業まで、さまざまな条件の中で教育が行われています。そういう条件の中で子どもの実態に合わせて教育の内容や方法を工夫していかなければなりません。自分が専門的に学習した内容や方法で対応できないことも起こってきます。その時は、子どもに学べという精神で、子どもに合った内容や方法を編み出していく力を自ら獲得してように努力することが大切です。
どんな障害児でも子どもは皆、知的好奇心を持っています。私たちが学習の内容や方法、教材を工夫していくことによって、驚くほどの能力を示してくれます。課題ができた時の子どもの笑顔は実にすばらしいものです。「人間は考える葦である」とパスカルが言っているように、子どもが自分で考え課題を解決した姿は、私たちにその子の存在の重さを感じさせてくれます。できるだけ多くの教師が子どもの存在の大きさを感じる特別支援教育を日々実践されることを希望します。